あつぎりじぇいそん・1986年米国・ミシガン州生まれ。17歳の時に飛び級でミシガン州立大学に入学。イリノイ大学大学院・アーバナ・シャンペーン校に進み、エンジニアリング学部コンピューターサイエンス学科修士課程修了。米国・GEヘルスケア、米国企業の日本法人支社長などを経て、12年、IT企業・テラスカイ入社。役員として働きながら、14年10月にお笑い芸人としてデビュー。芸歴わずか5カ月で「R-1ぐらんぷり2015」決勝へ進出する。テレビ、CM、舞台で活躍。ラジオ番組『厚切りジェイソンのThursday Night Why』(TOKYO FM/毎週木21:15~21:40)でパーソナリティも務めている。
前編ではビジネスの世界で活躍しながらお笑い芸人を目指し、ブレイクするまでの経緯をうかがいました。
後編ではお笑いを始めたことによる変化や、やりたいことをかなえるコツを教えていただきます。
苦手なことこそやってみれば、怖いものがなくなる
-お笑いをやってみて、ご自身に変化はありましたか?
特にありませんが、人前で話すことが怖くなくなりました。
-えっ。人前で話すのは苦手だったんですか?
会社でプレゼンテーションをするのも緊張していたし、お笑い養成所に通い始めてからも、しばらくは緊張しましたよ。多分、ほとんどの芸人はそうなんじゃないかな。最初から人前で自然に話せる人なんていないですよ。どんなスキルでもそうですけど、経験を重ねて慣れることによって自信がつき、できるようになる。今では会社で何十人の前で話しても平気。お笑いの仕事で数百万人の視聴者の前で生放送をやる緊張感に比べたら、楽勝ですよ(笑)。苦手なことを避ける人は多いけれど、それは考え方が逆だと思う。「苦手だからこそ、やろう」と考えた方が、怖いものがなくなって、毎日が楽しくなります。ただ、食べ物だけは例外かもしれない。僕はイカがきらいで。「このイカなら新鮮でおいしいから、食べられるはず」と人から勧められて何度か試してみたけど、やっぱりあの食感はダメ。それでも、試してみてダメなのと、最初からやらないのは違います。試せば、少なくとも、話のネタにはなるしね。
まず、行動。小さな「現実」の積み重ねが、10年後には「実績」になる
-今後の目標はありますか?
「賞を取りたい」「年収2億円を目指す」というような大きな目標はありません。ただ、小さい目標はたくさんあって、それに向けて毎日やっていることが割とたくさんあるんです。ダイエットに成功して40キロくらい痩せたから、それをキープしたくて毎日10キロ走っているし、漢字も3000字以上は読み書きできるようになったけど、忘れたくないから通勤電車の中で毎日10分勉強している。最近は講演会に呼ばれることが多くなって、もっとうまく話せるようになりたいから、いろいろな小話を用意したりとちょっとしたことばかりですよ。ただ、それを毎日やる。こういう話をすると、いろいろな人から「よく続きますね」と言われるのですが、物事が続かない人は目標を大きく設定し過ぎているんですよ。だから、壁が大きく感じられてやめてしまったり、最初からおじけづいてしまう。やりたいことをかなえるコツは、目標を毎日自分でコントロールできる内容にすること。そうすれば、行動しやすくなり、小さな「現実」の積み重ねが10年後には「実績」になります。
仕事についても、現実と隔たりのあり過ぎる理想を描くと、「やりたい仕事ができない」と嘆くことになりがち。僕の場合は常に、今自分がやっていることを、目の前の機会をどう生かすかを考えます。僕には「誰かに影響を与えて、世界を変えたい」という野望がありますが、それは最初から思い描いていたわけじゃない。出世を追い求める人生に虚しさを覚え、お笑いも一生懸命やってみたら、自分の存在が世の中に知られた。だったら、それを使って少しでも世の中をいい方向に変えられたらと考えるようになった。だから、僕の考え方を書籍やツイッターで発信しているんだけど、それを読んで「あきらめかけていたことにもう一度挑戦する気になった」というような前向きなコメントをもらうとすごくうれしいですね。僕が変えられることはわずかだとしても、そのわずかな人たちが周囲に影響を与えれば、世の中は変わる。そう考えると、野望を実現するためにあれもやろう、これもやろうと思えてきます。
学生へのメッセージ
日米両国で働いてみて不思議なのは、日本の新卒採用は専門知識をあまり問われず、学校で学んだ専門分野とはまったく関係のない仕事に配属されたりすること。最初から戦力になる人材を採用すれば、会社も社員もラクなのに、何のためにそんなことをするのか僕には理解できません。就職で専門知識が重視されないから、多くの人は大学であまり真剣に勉強していないように見えます。おまけに大手企業では若手社員に大きな仕事を任されにくいから、入社後の成長スピードも速くない。日米の入社2年目の社員を比べると、5、6年分くらいの差があると感じます。いろいろお国事情はあるかもしれませんが、このままではさすがに日本は世界から取り残されてしまう。もったいないですよ! いきなり大手企業の体質を変えたり、新卒採用のシステムを変えるのは難しいかもしれないけれど、あなた自身を変えることなら今日からできます。遊ぶのは自由だけど、学生時代にきちんと勉強し、物事を自分で調べて考える癖をつけておいた方が、時代の変化に対応できる人材になれると思いますよ。
ジェイソンさんにとって仕事とは?
−その1 ダメ出しされてヘコんでいたら、改善の余地はない
−その2 目的を達成するには、トライアンドエラーが必要
−その3 今やっていること、目の前の機会をどう生かすかを考える
INFORMATION
本名のジェイソン・D・ダニエルソン名義で執筆した著書『ジェイソン式英語トレーニング 覚えない英英単語400』(主婦と生活社/1300円+税)が2016年12月12日に発売予定。アメリカにいながら独学で「日本語能力試験」1級を取得したジェイソンさんが独自の勉強法を英語学習に応用。頭を“英語脳”に切り替える方法を順に追って説明している。
編集後記
ホワイトボードを使った漢字ネタでブレイクした厚切りジェイソンさん。今回の撮影ではホワイトボードの前でキメ台詞の「Why Japanese People!? (ホワイ ジャパニーズ ピーポー!?)」と叫んでいただきました。字も書いていただいたのですが、備えつけのマーカーが細字で目立たず…。そこで、すかさずジェイソンさんが「これ、あるよ」とかばんから取り出したのは「サクラクレパス ホワイトボードマーカー eタンク太字」。ライブの時にお客さんから見えやすいようにと太さや濃さを検討して選んだマーカーで、常に携帯しているそうです。「カートリッジ式で、ペン先が交換できるのもいい。2回ライブをやると、1本カートリッジがなくなります」とジェイソンさん。お笑いのネタは小道具ひとつもじっくり研究して作られているんだなとあらためて芸人さんのすごさを感じました。(編集担当I)
取材・文/泉 彩子 撮影/刑部友康