就活の重要なステップの一つが「企業選び」。自分がやりたいこと、得意なことに照らし合わせながら、企業選びの「軸」を持つことが重要です。しかし中には、「やりたいことは特にないから、働きやすい会社に入社したい」と考えている人もいるようです。でも、「働きやすい会社」ってどうやって探せばいいのでしょう?
そんな悩める就活生の相談を、仏のような慈愛の心で受け止め、女神のように温かく励ましながら、これからのことを一緒に考えてくれるキャリアアドバイザーがいます。この連載では、彼らの元を訪れる就活生とアドバイザーとのやりとりを公開します。同じ迷いや悩みを抱える就活生は、きっとヒントが見つかります。
<今回のご相談>
やりたい仕事が特にないので、働きやすい会社に入りたいなと思っています。が、企業や求人を見ても、どれも同じように見えてしまって…働きやすい会社かどうかってどうやって見極めればいいんでしょうか?
大学3年生のHさん。就活に当たってどんな企業に応募すればいいのかと企業サイトや募集情報を見ていますが、どこも同じように見えてしまうそう。「将来は結婚もしたいし、出産した後もガツガツはしたくないけど働いてはいくイメージ」「オフィスがきれいだったり、おしゃれな街にある会社はやっぱりイメージもいい」「若い人が多そうな会社は楽しそうかな~と思ったりもするし…働きやすいってなんなんでしょう?」
※相談内容の掲載および本記事に掲載した内容については、ご本人の了承を得ています。
中里文香(なかざと・あやか)
株式会社リクルートキャリア・リクナビ就職エージェントのキャリアアドバイザー。理系出身のキャリアを生かし、主に理系学生に対して求人紹介や模擬面接、面接アドバイス、エントリーシート(ES)の添削、自分史やモチベーショングラフを用いた自己分析など、総合的な就活アドバイスを行っている。「就活は自己分析が肝。まず『自分』を知らないと第一歩は踏み出せません。そのために、共にこれまでの人生を振り返り、自分では気づけなかった希望や適性を洗い出すお手伝いもしています」
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「働きやすい」にはさまざまな基準がある
Hさん「働きやすい会社」に入社したいと思っているのですが、そういうところをどうやって探せばいいのか、見るべきポイントがわからず悩んでいます。
キャリアアドバイザー中里(以下、CA中里) あなたにとって働きやすい会社はどんな会社ですか?逆に働きにくい会社とは? まずあなたにとっての働きやすさを考えていきましょう。
「働きやすい会社」とひと口に言っても、さまざまな基準があり、何を重視するかは人それぞれです。
一般的には、以下のようなキーワードに当てはまる企業が「働きやすい会社」と言われています。
- 勤務時間や条件
- 残業が少ない、ワークライフバランスが取れている、有給消化率が高い、転勤が少ない、副業OK、自宅からのアクセスが良い、など。
- 社風
- 風通しがいい、組織がフラット、若手が多い、上下関係が厳しくない、年齢に関係なく意見やアイデアが言いやすい、など。
- 人事制度
- 育児休暇が整備されている、出産後に復職しやすい環境がある、託児所がある、時短勤務制度がある、教育・研修制度が充実している、テレワーク・リモートワークができる、など。
Hさん なるほど…いろいろな切り口がありますね…。どの条件も気になるなあ…。
CA中里 例えば、休日が大事なのであれば、休日の制度を調べる。そして、休日出社の有無や有給申請ができて使えているのか、実態を確認していく必要があると思います。
ただ、これらの条件が満たされていればいいというものではなく、さまざまな角度から判断することが重要ですよ。「好きなこと=働きやすい」と勘違いしている学生も非常に多いですが、それだけで判断すると後悔する恐れがあるので注意が必要です。
「その企業に何を求められているかを見極める」と働きやすさを実現しやすい
Hさん ええ?好きなことを選ぶのはNGなのですか?
CA中里 いえいえ、好きなことであるかどうかも重要ですし、先ほどのキーワードの条件が満たされているかどうかも重要です。ただ、どれか一つに偏るのではなく「総合的に見る」ことが重要なのです。
Hさん どんな視点が欠けているケースが多いのでしょう?
CA中里 業務内容です。会社から求められているミッションが自分に合っていると働きやすいです。
それに加えて、評価の仕方(目標達成の割合や評価基準、評価者とその頻度)をチェックしておくと日々の日常を想像しやすく、自分の働きやすさに合うかイメージがつきます。
条件的には希望に合っているのに、日々の業務内容や評価制度が自分に合わず毎日が苦痛…ということは起こり得ます。実際、一つの側面だけで就職先を決めたばかりに、入社後にギャップに苦しんだケースをたくさん見てきました。
Hさん 失敗例ですね…同じ轍(てつ)を踏まないためにも、どんな例があったか教えていただけますか?
CA中里 はい、いくつかお話ししますね。
例えば、営業職だと、成果のみ評価をする会社の場合、「自分であれこれ考えて行動しながら、自分のやり方を見つけることが好きな人」は成果にコミットすれば自由度が高いので働きやすい会社といいます。そして、同じ会社でも、「一歩一歩プロセスを踏んで頑張りたい人」の中には失敗だったという人もいます。
事務職でも同様です。都心のキレイなオフィスで残業も少なく、マニュアルやルールも整備された会社で、事務処理の確実性が求められるという場合、「ルールに沿って確実に業務に取り組むことが好きな人」は働きやすくて良いと言いますが、「自分なりに工夫をしてやり方を決め、柔軟に業務に取り組みたいという人」は働きにくいと言いますね。
残業が少なく年間休日が多い会社でもギャップは生じています。例えばWebデザインのお仕事、残業制限が厳しく休日出社も不可な場合、「プライベートの時間が取れることがうれしい人」もいれば、「時間をかけてでも、自分のより良いデザインを追求したい、好きなことを好きなだけやらせてくれる環境が良い人」にとってはこの環境は働きづらいと言う声を聞きました。
このように、働きやすさを考えるときには、労働条件だけでなく、業務内容などが自分に合うかを考えることが大事です。同じ職種でも、その企業で求められることによって働きやすさの感想が違ってきます。評価制度と実態まで確認をしていくと良いですよ。
Hさん 「きれいなオフィス=働きやすい会社」と思っていたので、このまま何も考えずに就活していたら、私もギャップを感じていたかも。
CA中里 そうですね。好きだと思える商品やサービスは、仕事へのモチベーションを大きく左右しますし、前述した「働きやすい会社」のキーワードはどれも重要ですが、そればかりに気を取られて「企業から何を求められるか」の視点が抜けていると、このように入社後にギャップを感じてしまい「こんなはずじゃなかった…」と後悔する恐れがあります。自分の適性に合った業務内容や評価制度かどうかも併せてチェックすることが、ストレスなく働き続けるためのポイントであると心得ましょう。
仕事内容の向き・不向きを判断するには「自己分析」が必須
Hさん 企業が求めるものが自分に合うか、合わないかを判断するためには、何をすればいいでしょうか?できれば難しいことは避けたいのですが…。
CA中里 「自己分析」は避けては通れないですね。自分の会社選びの軸を明確にするためにも、自分のことを他人にわかりやすく説明するためにも必要不可欠です。
Hさん 「就活には自己分析が大事」と学校の先生も先輩も言うけれど、具体的に何をすればいいのかピンときません。
CA中里 一般的な自己分析は、生まれてから現在までを振り返り、いろいろな出来事やエピソードを書き出してみるという方法。これまでの人生で頑張ったこと、自分で選択したこと、楽しかったこと、挫折したことなど、印象に残っている出来事やエピソードを書き出し、「自分史」を作ってみましょう。
そして、なぜ頑張れたのか、なぜ楽しいと感じたのか、なぜそれを選択したのかなど、一つひとつの出来事において「なぜ」を繰り返して深掘りしていきます。その過程で、自分が大切にしているものは何か、どんなことに価値を感じているのかが明らかになり、「自分に合うのは新しいことを追求する仕事ではないか」「人とかかわり、介在価値を感じられる仕事ではないか」など、自分に向いていることが見えてきます。
Hさん うーん、頑張ってやってみようかな…。自己分析で「自分に向いていること」がある程度洗い出されたら、その後はどうすれば?
CA中里 「自分に向いている業務内容や業界」の条件に合いそうな企業を調べ、積極的に会社説明会に参加してみることをお勧めします。その上で、魅力に感じた点を書き出してみましょう。いろいろな企業を見れば比較検討ができるので、より自分に合いそうな企業がわかります。
ある程度企業が絞れたら、条件面を確認しましょう。例えば、「風通しの良さは重視したい」「通勤時間は1時間以内の方が疲れず働きやすそうだ」など、働きやすさ向上のため譲れない条件を洗い出し、1社1社確認しましょう。実際に働きやすいかどうか、働く社員の生の声を聞いてみるのも一つの方法。OB・OG訪問や、会社説明会の場で確認したり、ある程度面接が進んだ後ならば社員との交流をお願いしたりするなどして「本当のところ」を確認するといいでしょう。
まずは自分にとっての働きやすさを言語化していきましょう!
ポイントまとめ
- いくら条件が良くても、仕事に前向きに取り組めなければ結局は「働きやすくない」
- 評価制度と実態を確認して、日々の日常をイメージしよう
- 条件や環境、好き・嫌いだけでなく、自己分析で「向き・不向き」を洗い出した上で、多方面から総合的に判断しよう
取材・文/伊藤理子
撮影/刑部友康
編集/粟屋寛子
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