大塚いちお

おおつかいちお・1968年新潟県生まれ。書籍や雑誌、広告、音楽関係のイラストレーションを数多く手がけるほか、展覧会やワークショップなどの活動も積極的に行っている。2005年『GIONGO GITAIGO J”ISHO』(ピエブックス)』で東京ADC賞受賞。おもな仕事に「8月のキリン」(キリンビール)のパッケージイラスト、日本郵政グループメッセージ広告、横浜ゴム「PRGR」ブランド広告、オリンパス企業キャラクター、カルビー「素材まるごとトート」イラスト、パトリス・ルコント監督『ドゴラ』、TBSドラマ『ハタチの恋人』タイトルバックアニメーションなど。アートディレクターとしても活躍し、教育番組『みいつけた!』(Eテレ)、横浜銀行「あなたのそばで、夢みる未来。」シリーズ、川崎フロンターレのユニフォームのデザインなどを手がける。
公式サイト http://ichiootsuka.com/

自分のセールスポイントは、鏡を見ているだけでは見つからない

デザイン専門学校を卒業後、グラフィックデザイナーとして広告制作会社への就職が決まっていましたが、絵を描いて生きていきたいという思いがどうしても消えなくて。内定をお断りし、アルバイトをしながら、フリーランスのイラストレーターとして活動を始めました。当時は出版や広告の世界が今よりも元気で、華やかに活動するイラストレーターも多く、自分にも何かができると思ってしまったんです(笑)。

 

ところが、仕事はなかなか増えませんでした。プロのイラストレーターの登竜門と言われていた賞に21歳で入選し、「さあ、いよいよ忙しくなるぞ」と期待したものの、景気が悪くなってきたこともあって仕事の依頼はほとんどなく、アルバイト代で生計を立てる日々。「自称・イラストレーター」状態の自分が恥ずかしくてたまりませんでした。何が何でもイラストで食べていきたい。そのためにはどうすればいいかを考えた時に、仕事というものに対して自分が根本的な勘違いをしていたことに気づきました。

 

そのころ僕は、漠然と独自の表現方法を突き詰めれば、黙っていても仕事は来ると考えていました。個性や才能みたいなものは自分の内側にあって、それを頑張って見つけて外に出すことで社会とつながれて、仕事ができるんじゃないかと勝手に思っていたんです。でも、当然、世の中そうはいかない。賞を少しもらっただけの、実績のない人間にいきなりたくさんの仕事が来るなんてことは、まあ、起きませんよね。厳しい現実に直面して、どんなに技法を磨いても、誰かの反応がなければ、結局は何の意味もないんだと学びました。

 

それからは、とにかくたくさんの人に会って作品を見てもらうことに。同じ会うなら、好きな人に会って刺激を受けたいと気になる雑誌の編集部や憧れのアートディレクターの連絡先を調べ、アルバイトの休憩時間に電話をしてアポイントメントを取りました。もちろん、断られることもありましたが、4年ほど同じことを繰り返して、多いときには1日に3、4件訪れていたこともあります。

 

仕事をもらえるとは限りませんでしたが、作品を見てもらえるだけでありがたかったし、出版や広告の現場を垣間見られたのも勉強になりました。どんな仕事をしているのか、事務所には何があってどんな雰囲気なのか、自分のどの作品にどんな反応をするのか。お邪魔する30~40分の間にできるだけの情報を得ようと神経を集中するようにしていました。

 

仕事への向き合い方も自然と変わっていきました。以前はただ自分が面白いと思うものを描いていただけだったけれど、それだけではなく、どうすればもっと誰かに面白がってもらえるか、例えば、笑顔になってもらえるかということを考えてそれを絵にするようになったんです。そのころから仕事が少しずつ増えて、レギュラーの仕事も頂けるようになり、25歳の時にアルバイトをやめました。「イラストレーターの大塚です」と胸を張って言えるようになったことが本当にうれしかったですね。

 

イラストレーターとしての個性とか自分らしさみたいなものも、いろいろなタイプの仕事をするうちに見つけていった感じです。苦手なことを無理に頑張っても限界があるということもわかったし、それがもともと得意な人にはなかなか太刀打ちできないけれど、自分が何を得意として何を苦手とするのかも、まずはやってみなければわからないんですよね。就職活動で自分のセールスポイントを探して悩む人も多いと思いますが、ひとりで鏡を見て分析しても、自分から見た自分でしかない。自分が何をできるのか、何をしたいのかというのは、一歩外に出て、たくさんの人と交わることでようやく初めて認識できるものだと思います。

 

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自分で肩書を作れる時代。先の見えないことを怖がらないで

最近はアートディレクターとしての仕事も増えています。テレビ番組のキャラクターデザインからセットや衣装などのディレクションまでしたり、Jリーグ・川崎フロンターレのユニフォームやグッズ、フラッグなどのデザインをしたり。絵を描いて完結するのではなく、メッセージや思いをどう伝えるかまでを考える仕事に自分が携わるとは、学生時代は想像もしていなかったです。

 

ただ、表現方法は変わっても、新しいことをやってみることに不安を感じたことはありません。それは僕がイラストレーターとして順調なスタートを切れなかったおかげかもしれないと、今では思っています。自分の理想としていることがあるのに、それが社会から求められていなかったり、逆に、自分では「向いていないかも」と思うタイプの仕事をすることになって苦労したり。当時はすごく悩んだけれど、そんな時期があったからこそ、絵を描くって何だろうと、むしろ深く掘り下げて考えることができました。

 

絵を描くというのは単純に目に見えるものを作るだけではなく、世界観を作ることだと僕は思っています。例えば、犬を描くときにただ黒い犬だったり、白い犬だったりを表現するのではなく、目の大きさひとつで妙に愛らしくなったり、悲しそうに見えたり。ストーリーが見えるものを描くことを大事にしてきたので、テレビ番組を作ったり、プロダクトのデザインをするときも、結局、一枚の絵を描くことと同じだと思うことができたんです。

 

アートディレクターとしてチームで仕事をする場合、一枚の絵とは違って「ここは自分が作った」というものがはっきりとは見えないこともあります。田舎のおじいちゃんやおばあちゃんには「お前が描いた絵はどこにあるんだ」と言われてしまうかもしれないけれど、極端な話、形は残らなくてもアリだと僕は思っています。もちろん、形は残った方がうれしいですけれどね。残らなくても、普段は絵を描くことをなりわいにしている自分の感覚だったり、ノウハウみたいなものをチームに持ち込むことで、潤滑油としての役割を果たせたり、全体として面白いものができればそれでいい。僕がチームに入る前よりも入った後の方がより良いものになったのであれば、その差額分ってまさに自分がやった仕事じゃないですか。

 

ひとりで絵を描いていると、どういう絵を描けばその仕事のクオリティーを上げることができるか不安になる時もあります。ディレクションの仕事でも、みんなが嫌がっているのに無理にその仕事に入ったということなら別ですが、僕らの場合は必ず誰かの依頼で仕事をするわけですから、何を求められているのかを自分なりに把握して、あとは、呼んだ側にも責任はあると(笑)、その時にできる最大限のことをしてみるとそれほど悪い結果にはならないことの方が多いと思います。それに、そうやってたくさんの人と交わって得たものというのは、何物にも代え難い経験値にもなります。

 

僕は「イラストレーター」とか「アートディレクター」と名乗ったりしていますが、大きなくくりでは、世界観を作るのが自分の仕事だと思っていて、厳密には当てはまる肩書がありません。一枚の絵を描くことはもちろん大事にしていますが、洋服のデザインもするし、イベントを考えたり、企業のメッセージをどう伝えるかを考えたりと、表現の場や方法は限定しないようにしたいんです。

 

将来の職業を考えるときに「企画をやりたい」「Webデザイナーになりたい」と肩書や職種名を思い描く人も多いけれど、肩書や職種名というのは過去に作られたイメージでしかないんですよね。同じ企画職でも企業や扱うものによって仕事内容は違うし、Webデザイナーにしてもインターネットの普及期と今では必要な力が変わってきているはず。もしかしたら、あなたならではの企画職になれたり、Webデザイナーになれるかもしれないのに、既存のイメージに縛られて可能性を閉じてしまうのはすごくもったいない。すでにある仕事に自分を合わせるのではなく、こんなことをしたら楽しいんじゃないかなとか、やってみたいなというのが先にあって、それを実際にやってみたら仕事になったという方が面白いことができるし、新しいものというのはそういうところから生まれると思います。

 

テクノロジーの進化もあって、今は以前に比べて個人が発信をしやすくなっているので、少し行動を起こしてみたら、自分なりの何かを実現できる時代なのではと感じています。みんなそれぞれが「私はこういう仕事をしています」と自分で肩書を作れる時代になってきたと思うんです。裏を返せば、自分なりのやり方でやっていかないと生き残っていけず、先が見えにくいということでもありますが、それを怖がらないでほしい。形がないからこそ自由で楽しいと考えた方が可能性がぐっと広がるし、そういうパワーを持った人が出てくれば、世の中はもっと面白くなるんじゃないかなあと思っています。

 

 

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INFORMATION

作品集『MAGIC!―illustration book, ICHIO Otsuka’s』(誠文堂新光社/税抜き2500円)。大塚さんが手がけた仕事や作品を原画を中心に掲載。本人の思考(ことば)やラフスケッチなどもおさめ、その創作のすべてを伝える。詩人・谷川俊太郎さんと作りおろした絵本も収録。

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取材・文/泉彩子 撮影/刑部友康

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