インドのグルガオン(首都デリーの近郊都市)にある日系メーカーの現地法人に勤務。日本人駐在員ファミリーとのホームパーティーを通じた家族ぐるみの付き合いや、写真サークルでの活動が現地での楽しみ。現地の気候に育まれたおいしい果物を味わうのも日々の楽しみのひとつ。
1年間に4カ所で水漏れが
こんにちは。はるおです。今回は、私のグルガオンでの生活についてお話しします。
こちらでの住まいは、会社で紹介された不動産会社を通じて、いくつかの物件を見学して決めました。家賃は全額会社負担で、月13万円ほど。この額は「家具付き」料金であり、生活に必要なすべての家具・家電製品が含まれています。日本人駐在員は、掃除やシーツ交換などのサービスが家賃に含まれている「サービスアパートメント」という形態で契約する人も少なくありませんが、私は、そういったサービスを含まない契約としました。その分、インド人のサーバント(ハウスキーパー)を月1万円で雇っており、1日約2時間で週6回、自宅に来てもらっています。
彼には、掃除、洗濯、アイロン、食事作りを頼んでいますが、日本食が作れる数少ないサーバントなので、大変助かっています。時間にルーズなところがあり、たまに休むこともありますが、仕事内容にはおおむね満足しているので大目に見ています。なにしろ、周囲の駐在員から、無断欠勤や、突然来なくなる無断退職、給料の値上げ要求といったトラブルを耳にすることが非常に多いからです。また、住み込みのサーバントが家主の不在中に勝手に家族や友人を家に入れているという話もたまに聞きます。最近は外国人駐在員の数が増えているため、英語を話せたり、インド料理以外のものが作れるサーバントの給与水準が大きく上昇しているとも聞きますね。なお、サーバントを雇う料金は自己負担となります。光熱費も自己負担ですが、ガス代は1カ月数百円と格安で、水道代はタダ。ただし、電気代は日本と同等かそれ以上で、月1万~2万円になります。
こちらの住宅に住んでみてつくづく思ったのが、新築住宅は極力避けた方が良いということ。ほとんどの場合、水漏れや配線不備、ドアや扉の立て付けがおかしいなどのトラブルがあるので、一度誰かが住んでメンテナンスをした物件に入ることが好ましいと感じます。現在は新築物件に住んで約1年になりますが、キッチンと2つのバスルームの両方、エアコンと、4カ所の水漏れが発生し、お湯と水の蛇口が逆になっていたり、壁に大きな隙間が空いていたりといった施工の不備もあります。特に、水漏れ修理には数カ月もの時間が掛かり、だいぶ悩まされました。なにしろ、修理業者は頼んでもなかなか来ないし、来ても前回の修理の内容が引き継がれていなかったり、見た目だけキレイにした場当たり的な修理が多かったりするのです。そのため、何度も同じ箇所で問題が起きたりして、一度修理したから終わりというわけにはいきません。だからこそ、前に誰かが住んだ家の方が良いわけです。特に、前の住人が日本人か韓国人と聞くと、きれいに使っていそうで安心します。
また、停電も日常茶飯事なので、家電が停電対応となっていることも大切。詳しい仕組みはわからないのですが、炊飯器、洗濯機などは停電復旧後に自動で作動するし、テレビやWi-Fiは、小型のUPS(無停電電源装置)に接続することで停電対応しています。この場合、停電した瞬間にUPSに切り替わるため、停電したからといって通信が途切れたりすることはありません。停電対応していない家電の場合、炊飯器や洗濯機は作動中に一度止まると最初からやり直しになってしまうし、DVDの再生やWi-Fi経由のインターネット接続は途切れ途切れになってしまい、場合によっては電化製品自体が壊れてしまったりするので大変です。現在住んでいるアパートは、アパート全体をカバーする発電機が装備されているため、停電してもたいてい30秒以内には復旧しますが、それでも短時間の停電は毎日のようにあります。一般のインド人家庭だと、電気の使用量が多い夏季は、毎日数時間の停電が当たり前のように起こるそうです。
なお、当社では、駐在手当以外に月8万円のハードシップ手当が支給されます。これは、駐在先がインドやロシアといった新興国の場合のみとなり、金額は国によって異なりますが、実はインドが世界で一番高額。加えて、年2回の日本への一時帰国費用(飛行機の運賃のみ会社支給)と、タイ・シンガポール・香港、いずれかの国への年2回の「食糧買い出し休暇」(飛行機の運賃プラス3泊分の宿泊費のみ会社支給)が与えられています。私はこの制度をフル活用しており、訪れるのは、物価の安いタイが多いですね。
こうした手当について、金額的には満足しています。ただし、大気汚染が年々悪化していることに加えて、劣悪な衛生環境による食中毒やデング熱などの感染病のリスクが高いことなど、お金という側面では測れない心配事が多いのも事実です。
快適だったインドでの出産
ところで、皆さんは、インドの医療水準が非常に高いというと驚かれるでしょうか? 実はここのところ、インドで出産する日本人が多く、妻もこちらで出産しました。出産費用は、日本の出産費用と同等の金額で、部屋はバス・トイレ付きの広くてきれいな個室。海外では主流となっている無痛分娩(ぶんべん)で、幸い大きなトラブルもありませんでした。病院食は、インド料理とコンチネンタル料理のどちらかが選べるほか、ホテルのルームサービスのように24時間好きなものを注文することもできます。
分業制のインドらしく、入院中は血圧などを測る人、栄養面のアドバイスをする人、赤ちゃんのチェックをする人、母体回復のためのエクササイズを指導する人、シーツを交換する人、掃除をする人、食事を運んでくれる人と、さまざまな人が出入りしてにぎやかでした。身の回りのことと赤ちゃんの世話はすべてやってくれるので楽ではありますが、分業制が徹底していて、担当外のことは一切やってくれません。英語が通じるのも、ドクターやナースのみ。日本とは乳児の予防接種スケジュールや食事、薬などに対する考え方が異なるので、自分なりに調べた上で最終的には自己責任で対応することが必要だと感じています。というのも、感染症のリスクが高いせいなのか、生まれてすぐに予防接種をしたり、ヨーロッパでは認可されていない強い薬を処方したりするのです。いったん自分で調べて、納得した上で医療を受けるべきだと身を以(もっ)て知ることになりました。
職場には、会社が社用車とドライバーをつけてくれているので、車で通っています。自宅から職場までは、道が混んでいなければ20分ほどの距離ですが、朝晩は通勤ラッシュで40分~1時間ほど要すことも。どこへ行くにも車を使うため、公共交通機関は基本的に利用しません。地下鉄には数回乗りましたが、時間通りに運行していたと思います。インド人に聞いたところ、「地下鉄とバスには時刻表があり、時間通りに運行されることが多い」ということなのですが、「時刻表」自体が日本のように乗客に示されているわけではないそうで、時間通りかどうかを確かめる術(すべ)はないとのことでした。なお、国内出張は大抵、飛行機で移動しますが、遅延が大変多いです。航空会社にもよりますが、概して1~2時間の遅延は日常茶飯事。10時間遅れたり、キャンセルになったりすることも珍しくありません。特に冬場の朝晩は靄(もや)のせいで、大きく遅延します。
会社が社用車と運転手をつけてくれている理由は、交通事情があまりに悪く、駐在員に車の運転を認めていないから。とはいえ、自宅から歩いて行ける範囲にはコンビニなどの便利な店舗がなく、どこへ行くにも、運転手と会社の車が必要です。気軽にカフェや買い物に行けない生活は、正直言って、かなりストレスが溜(た)まるものです。
加えて、深刻な大気汚染も、インドの欠点のひとつだと感じます。特に、11月~2月は、PM2.5などの数値にもはっきりと表れているほど、空気が悪く、そのひどさは中国を上回って世界一と言われるほど。気温が低下して、PM2.5などの物質が地表付近に滞留するのがその原因だそうです。加えて、路上生活者によるたき火や、お祭りのときの派手な花火・爆竹なども、大気に悪影響を及ぼしているように思います。この季節になると、空は常に白く、煙い状態。鼻や喉、気管支の調子が悪くなることも多く、全般に体調を崩す人が増えます。日本人駐在員の家族も、この期間は長期的に日本に帰ることが多いようです。
一方で、インドの良いところも同時に日々感じています。とにかく社会全体が子どもに優しいのです。子どもに対する視線が非常に温かく、レストランなどで騒いでいる子がいても、インド人は決して怒ったりしません。予防接種の時期などを小児科医が決めてくれて楽なことなども考え合わせると、子育てしやすい国だなとつくづく感じます。
日本からはなかなか訪れることのできないところに旅行できるのも、インド駐在の楽しみのひとつ。スリランカやネパール、ドバイ、オマーンなどには、デリーから直行便で3~4時間程度しかかかりません。世界的に人気のリゾート地であるモルディブには直行便こそないものの、乗り継ぎでも飛行時間は4~5時間程度で済みます。日本から行こうとするとかなり行きにくい国なので、インド駐在中に一度はモルディブに行く人が多いですね。スリランカやドバイは、もっと気軽に訪れることができます。どちらも同じくらいの距離にあり、ビーチリゾートとして人気です。
次回は、駐在生活で得たものを中心にお話しします。
自宅アパートから望む街の様子。住宅街には、高層住宅と低層住宅が混在している。
自宅付近の光景。工事車両と牛や犬が共存するなど、独特のにぎやかさがある。
サーバントが作った日本食。手前のおかずは麻婆(マーボー)豆腐だ。
妻の出産時の担当医。英語を話してくれるので、コミュニケーションも取りやすかった。
旅行で訪れたインド北部のジャイプールにあった宮殿史跡ハワー・マハル。ピンク色の砂岩が外壁に用いられているため、印象的な外観となっている。
構成/日笠由紀