佐渡島庸平

さどしまようへい・1979年生まれ。幼少期を東京と関西で過ごし、中学時代は南アフリカ共和国で過ごす。灘高校から東京大学文学部に進学。2002年に講談社に入社。週刊『モーニング』編集部で『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)などを担当。『宇宙兄弟』を累計発行部数1600万部を超えるヒット作に育て上げ、テレビアニメ化・実写映画化にもかかわった。マンガ以外にも伊坂幸太郎『モダンタイムス』や『16歳の教科書』の編集を担当。12年に講談社を退職し、作家エージェント会社を設立。
株式会社コルク http://corkagency.com/

「新人だから」と言い訳するのは甘え。プロの世界では通用しない

編集者として10年勤務した講談社を退職し、2012年に作家エージェント「コルク」を立ち上げました。「コルク」が挑戦しているのは、漫画家さんや作家さんといった「ストーリーを作れる才能」の周りで新しい産業を立ち起こすこと。従来、漫画家さんや作家さんがその才能を世に出す場所は本だけでした。でも、作品をひとつのコンテンツとしてとらえ、自由にメディアを選択しながら作家や作品を世界につなげていけば、彼らの才能の価値がもっと生かされる。そういう仕組みを、拡散力があり、能力を平等に評価されやすいインターネットの長所を取り込みながら作り上げていこうというのが、僕のやろうとしていることです。

 

小説家、漫画家、批評家のすべてをカバーしている作家エージェントは日本には「コルク」くらいしかないと思います。新しいことをやるにはリスクも伴いますから、最初は3人くらいで会社を始めようと思っていましたが、ありがたいことに「働きたい」と人が集まってきてくれて、現在は10名を超えるスタッフがいます。そのうち新卒で入社したのはひとり。コルクには採用試験はなく、インターンシップで頑張っている人にアルバイトをしてもらい、働きぶりを見せてもらって採用をしています。

 

インターンシップ生には「コルクでは仕事を与えません。みんなが何を必要としているかを自分で見つけてください」と話をします。次に、上手に仕事を見つけられる人には難易度の高い仕事を与えることにしています。すると、たいていの人が最後までやり切らず、「自分には荷が重い」と言ってきます。自分には経験がないから、最終的には誰かがフォローしてくれると思っているんですね。

 

でも、それではダメなんです。「コルク」が仕事をする相手は、プロの作家さんです。プロの作家さんが読者に対して、「新人だから、教えてもらいながら成長します」と言いますか? あり得ないはずです。プロとしてミスが許されない世界で勝負している人たちを相手に仕事をしているのに、なぜ自分のミスは許されると思ってしまうのか。その理由は編集者という職業を甘く見ているからです。作家はプロでないとできないけれど、編集は誰かに代わってもらえる仕事だと思っている。「新人だから」という言い訳は、プロの世界では通用しません。プロとして対等に接する関係を作れないと、作家さんとの仕事は成り立たないんです。

 

僕自身が社会に出たばかりの時に、プロ意識を持って仕事をできていたかというと、そうではありませんでした。自分にはできなかったことをやれと言っているわけですから、インターンシップ生に高い要求をしていることは重々承知です。でも、あえて言う理由はふたつあります。ひとつは、僕ができなかったことを早い時期にできれば、若い世代が僕よりももっと成長できるチャンスが生まれるから。もうひとつは、僕が社会に出たころに比べて今は、多くの企業が若い人の成長を時間をかけて見守る余裕を失っているからです。

 

僕の場合、新卒で配属された漫画雑誌の編集部で、いきなり井上雄彦さんの『バガボンド』を担当したことがその後の仕事に大きな影響を与えました。井上さんは初めてお会いした時から僕のことを「佐渡島さん」と呼んでくださったのが印象的でした。実績ゼロの僕のことを、仕事相手として対等に扱おうとしてくれているのが、態度から伝わってきました。当時の僕にとって、井上さんといえば雲の上の存在です。その井上さんが対等に接してくれるのなら、早くその地位に行かなければいけない、与えられた役割に見合った実力を身につけないと井上さんに申し訳ない。社会に出たころは焦燥感みたいなものがずっとあって、そういう気持ちが成長を促してくれたと思っています。

 

出版社は現場の裁量権が比較的大きいと思いますが、新人のころはやはり先輩の指示を仰がなければ決められないことがたくさんありました。周囲が意見を聞いてくれるようになったのは、入社2年目に担当した三田紀房さんの『ドラゴン桜』がヒットしてからです。「いいアイデアがあるのに、誰も耳を傾けてくれない」という話をよく聞きますが、「いいアイデア」というのはこの世に存在しなくて、アイデアをどう実行するのかが一番難しいんですよね。アイデアを聞いてもらうには、実績を作ること。実行し、やり抜くことが世の中で一番大切なことだと思います。

 

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自分でコントロールできない組織に、人生をゆだねていいのか?

講談社から独立した理由は、直感のようなもの。デビュー当時から担当してきた小山宙哉さんの『宇宙兄弟』がヒットし、実写映画化にかかわる仕事をひと通り終えたタイミングでした。作品を世に出すために映画化を実現して、アニメも作り、関連書籍も10冊ほど出して…と半年間休みなしで仕事をしました。周りのみんなは大成功と評価してくれましたが、僕の頭の中では、もっとブレイクする予定でした。これだけやっても苦労するということは、産業構造自体に大きな変化が起きていて、居心地のいい大手出版社にいたら、その変化に気づけないのではという危機感を抱いたんです。

 

講談社を辞めた時、多くの人から「怖くないの?」と言われました。でも、僕にとっては大企業にいて時代の変化に気づくことが遅れたり、僕自身のやったことが世の中にどんな影響を与えるのかをダイレクトに感じにくくなることの方がよほど怖い。新聞などに掲載される学生の就職人気企業ランキングを見ると、僕の感覚では「危ない企業ランキング」にしか見えません。上位には20世紀半ばに隆盛を極めた大企業が多く、「自分でコントロールできない組織に、身をゆだねていいの?」と思ってしまいます。

 

大企業を否定しているわけではありません。大企業だからこそできる仕事もあります。でも、組織が大きくなればなるほど、世の中での自分の仕事の価値は見えにくくなります。企業の寿命が自分の人生よりも長いことが当たり前に思えた時代なら、それでも困らない人がほとんどだったかもしれませんが、今は大企業でもいつなくなるかわかりません。組織の力に甘んじ、自分で道を見つける術を身につけることを怠りやすいという点では、企業規模が大きいほど危険なんです。企業を選ぶときには、そのことを認識しておいた方がいい。

 

ブランドで企業を選ぶのは、他人に頼って生きるのと同じなんですよ。ブランド力のある企業に入ることで、自分の価値を上げようとしている。それは僕には「俺、おこづかい100万円だけど、付き合わない?」と女の子を口説くのと大差ない恥ずかしいことに見えます。社会に出るというのはそういうことではなくて、「自分が世の中の何を変えられるのか」「自分が何者なのか」ということを必死に考えること。恋愛でも結婚でも、自分の家柄ではなく人柄を認めてもらいたいじゃないですか。仕事も同じで、自分という人間をいかに世の中に認めてもらうのかが大事だと思います。

 

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INFORMATION

佐渡島さんが編集を手がける漫画『テンプリズム』は、『シャカリキ!』『capeta』などの作品で知られる漫画家・曽田正人さんが初めて描くファンタジー。コミック小学館ブックスで連載中(http://csbs.shogakukan.co.jp/serial/?id=tenth-prism)。単行本化もされており、第3集『テンプリズム3』(小学館/税抜き552円)は2015年2月27日に発売予定。

 

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取材・文/泉彩子 撮影/刑部友康

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