フォトグラファー・ヨシダナギが少数民族に言われて、はっとした言葉。「今幸せじゃない人に、将来楽しいことなんてないんじゃないの?」

ヨシダナギさん写真

プロフィールヨシダナギ1986年生まれ。幼少期からアフリカ人へ強烈な憧れを抱き、「大きくなったら彼らのような姿になれる」と信じて生きていたが、自分は日本人だという現実を10歳で両親に突き付けられ、 挫折。2009年より単身でアフリカへ。その後、独学で写真を学び、アフリカをはじめとする世界中の少数民族を撮影、発表。その唯一無二の色彩と生き方が評価され、テレビや雑誌などメディアに多数出演。2017年には雑誌『日経ビジネス』「次代を創る100人」、雑誌『PEN』「Pen CREATOR AWARDS」に選出される。同年、講談社出版文化賞【写真賞】を受賞。2018年4月、ヨシダナギBEST作品集『HEROES』を刊行。近著には、写真集『SURI COLLECTION』(いろは出版)、アフリカ渡航中に遭遇した数々のエピソードをまとめた紀行本『ヨシダ、裸でアフリカをゆく』(扶桑社)がある。

アフリカをはじめ、世界中の少数民族を撮影するヨシダナギさん。テレビや雑誌のほか、今年10月からはラジオ番組「野性に還ろう。」のパーソナリティとしても活躍されています。最初からフォトグラファーになることを目指していたわけでなかったヨシダさんが、唯一無二の現在のポジションを得るまで、また実際に会って感じたアフリカの少数民族の魅力について聞きました。

美しい少数民族たちの生きざまを伝えたい、そのための手段が写真だった

―世界中の少数民族を撮影する唯一無二のフォトグラファーとして活躍されています。ご自身をフォトグラファーだと認識したのはいつのタイミングでしたか。

初めて「フォトグラファー」という肩書きがついたのは、テレビ番組『クレイジージャーニー』(TBS系)の出演がきっかけでした。

それまで、「このままでいいのだろうか」という焦りはあったんですが、具体的にやりたいこともなくて…。ただ、物心ついたころから集団生活が苦手だったので、OLみたいに組織に所属して働くのは無理、ということだけははっきり自覚していました。

―「フォトグラファーになりたい」という思いがあったわけではないんですね。

具体的にこの仕事がしたい、と目指したことはないんです。むしろ仕事はしたくないタイプ。初めてアフリカに行った時の写真をブログにあげて褒めてもらった時は、イラストレーターとして仕事をしていました。その時はフォトグラファーのなり方すらわからなかったし、誰かに弟子入りしてまでなりたい、という思いもありませんでした。

―将来が漠然としながらも、アフリカに向かったのはなぜでしょう。

アフリカへの憧れは、5歳の時にテレビでマサイ族を見て心奪われて以来、ずっと抱いていたんです。大きくなったらマサイ族のようになるのだと信じていたので、「日本人だから彼らの容姿のようにはなれない」と両親に告げられた時は、かなりショックでしたね(笑)。彼らを直接目で見て確かめたい、ただその思いから23歳の時にアフリカに行ったんです。

―少数民族を撮り始めたのはなぜですか。

私にとって、少数民族たちのたたずまいは本当に美しくてカッコいいんです。まるで、現実世界には存在し得ない、カッコいいゲームのキャラクターを再現したみたい。彼らと同じ時代に同じ世界にいられること自体が感動的です。でも、いくらカッコいいと言っていても、周りの友人は誰もわかってくれませんでした。ならば、自分が写真を撮ることで「こんな民族たちが実在するんだよ」ということを伝えたいと思ったんです。

―伝える最適な手段が「写真」だったんですね。

そうです。フォトグラファーになりたかったのではなくて、彼らのことを多くの人に知ってほしかった。大好きなものを「見て見て!すごいでしょ!?」と周りの人に見てもらいたい、という自己満足からですね(笑)。

―写真はそれから勉強したんですか。

カメラは海外に出かけるときしか持っていかず、完全に独学です。フォトグラファーの友人に教わったこともあったのですが、専門用語が頭に入ってこなくてあきらめました。いまだに勉強中ですし、正解もわかりません。だから、今も写真が仕事になったなんて実感がありません。

ヨシダナギさんインタビュー写真

同じ格好をすることで、特別な人たちの特別な存在になりたかった

―鮮やかな色彩の写真自体はもちろん、「被写体と同じ格好をして撮影する」スタイルが注目されています。このスタイルはどのように生まれましたか?

マサイ族を初めて目にした時から「同じ格好をすれば、きっと仲良くなれる」と直感的に感じていて。
少数民族の集落を訪れると、最初は私を観光客の一人として歓迎してくれます。踊ったり歌ったり、彼らなりの儀式で出迎えてくれる。でも、それが終わると「後は写真を撮って、チップを置いて帰ったら?」というそっけない態度に変わってしまうんです。
特に服を着ていない少数民族は、服を着ている外部の人と自分たちの違いを、はっきりと理解しています。「服を着ている人は自分たちをどこか見下している」という思いから、高い壁があるんです。それが寂しくて、なんとか距離を縮めたかった。そこで、子どものころに考えていた「仲良くなれる方法」を試してみようと考えたんです。

―そうしたことで、撮れる写真は変わりましたか?

同じ格好をするのは、いい写真が撮りたいとか、いい表情を引き出したいからというわけではないんです。私にとって特別な彼らの、特別な人になりたいから。これも自己満足ですね(笑)。
ただ、実際に同じ格好をさせてもらうと、みんなの表情が柔らかくなりますし、何より、こちらの意図をくみ取ろうとしてくれるようになりました。少数民族の方は時間で縛られることがなくて、他人から行動を指示されることもありません。そのため、撮影のために同じ場所で同じポーズのまま5分も立っていなくてはいけない意味が理解できません。でも、同じ格好をしたことで、「あいつが言っているんだから聞いておこう」と動いてくれるように。一定の信頼関係をつくることができたのかなと思います。

ヨシダナギさんインタビュー写真

未来のことを考えすぎない。少数民族たちのシンプルな生き方に教わった

―特に印象的だった少数民族との出会いはありますか。

エチオピアのスリ族です。これまでいろんな民族に会ってきましたが、彼らは最もシンプルで、複雑な感情を持ち合わせていない民族でした。
彼らと数日間過ごし、帰国が迫ってきていたある時。私は日本に戻った後のことを考え、「この仕事をいつまで続けられるだろう」と将来が少し不安になっていました。すると、私の曇った表情に気づいた彼らが「どうして悲しい顔をしているの?」と聞いてきました。
「帰ってからのことが心配なんだよ。私が2年後、3年後に何をやっているかが見えてこない。この先どうなるんだろう、ってふと思うんだよね」と話したら、彼らは不思議そうに言ったんです。
「数年後なんて先のことはわからないのに、わからないことに対してなぜ悲しい顔をしているの?今日みんなでおなかいっぱいご飯を食べられて眠れたら、それで幸せじゃないの?今幸せじゃない人に、将来楽しいことなんてないんじゃないの?」って。

―ドキッとさせられる言葉ですね。

本当にそうだなと、はっとさせられました。今自分が楽しい思いをしていれば、周りはきっと付いてきてくれる。見えないことにとらわれて今を無駄にするよりは、今を楽しく過ごしている方が、先にもいいことにつながるのかなと。それからは、まだ起きてない未来について、あれこれ考えすぎることがなくなりました。

―では、今後挑戦したいことなどもあえて持たずにいるのでしょうか。

「将来はこうしたい」といった思いは、これまでも持ったことがないんです。そもそも、目標を立てるのが嫌いなんです。

―あえて流されていたいということでしょうか。

目標を立ててしまうと、そこにたどり着かなかったときに「達成できなかった自分」になってしまうじゃないですか。そこで心が折れたり、自分を責めたりするのが嫌なんです。自分のことは甘やかしていたい。誰も甘やかしてくれませんから(笑)。目標は定めないことで、いつでも方向転換できるようにしていたいなって思っています。
ただ、これからやりたいこととして、アジア圏の少数民族に会いに行きたいと思っています。アフリカよりも見た目や文化は日本に似ているかもしれませんが、価値観や考え方はきっと全然違うはず。自分の目で見て、耳で聞いて知りたいですね。

―多くの少数民族に出会ってきて、あらためて、彼らの魅力は何ですか。

最初は、ただその見た目に引きつけられていました。でも、同じ場所に何度も通いコミュニケーションを取れるようになっていくと、彼らのシンプルな考え方、生き方そのものがすてきだなと思うようになりました。
彼らは、学校では絶対に教えてくれない「生き抜くすべ」や、時間の概念がないからこそ「今が幸せである」ことの大切さを教えてくれます。会うたびに、そんな考え方があるんだ、もっとシンプルに生きていいんだと気づき、私自身が楽になっていく。今は、彼らの内面の豊かさを好きになっていますね。

―これからの将来を真剣に考えている学生の中には、「やりたいことがわからない」と悩んでいる人も少なくありません。そんな学生に向けて、伝えたいことはありますか

うーん。必ずしも、やりたいことを仕事にする必要はないんじゃないかな。私もやりたいことはわかりませんでしたし、集団行動が苦手だったので、自分にできるものがあるなら、正直なんでもよかった。
やりたい仕事ではなくて、自分にできる仕事、これだったらできそうだなと思える道に、いったん進んでみるのもいいと思います。

―やりたいことがあっても一歩踏み出す勇気がない…という学生がいたら、どんな言葉をかけますか。

やりたいことがあるのにやっていないのは、言い訳だと思うんですよね。まずは、自分への投資だと思ってお金や時間を費やしてみてはどうでしょう。
私は23歳でアフリカに行って、そこからカメラを購入し、すべて自腹でアフリカに通い続けました。これで何者にもなれなかったら今までの投資が無駄になってしまう…と不安になることはあったけれど、人生で一番お金をかけたものが仕事になるんじゃないかとどこか信じている自分もいました。実際に、フリーランスでやってきた人を見ていても、好きなことにお金を使い続けていれば、その特化した道の何かになっています。かなりの確率で仕事になるはずなので、決して無駄にはならないんじゃないかと思います。

―ヨシダさんは、「自分にしかできない仕事」をつくっていますよね。それができたのはなぜだと思いますか。

なんだろうなぁ。「自分の人生なので、これでいいんだ」と、自分を認めて甘やかしているからかな。人はいつでも、他人の人生について、好き勝手なことを言います。「そんなことを続けて何になるんだ」とか。でも、人さまに迷惑をかけない以上、しちゃいけないこと、いちゃいけない場所なんてないと思っています。他人の評価にばかりとらわれていると、時に自分を過小評価してしまいます。でも、自分はこれでいいんだと思えれば、どこへ行っても自分を卑下することはなくなると思いますよ。

ヨシダナギさんラジオ番組「野性に還ろう。」ロゴ画像

ラジオ番組『野性に還ろう。』
ヨシダナギさんによる冠ラジオ番組、『野性に還ろう。』が、2018年10月4日(木)より、福岡のLOVE FMでスタート。「好きという感情は、自分を動かす原動力となる。」「自分と向き合いありのまま行動すると、いつの間にか苦手なことすらも超越できる」そんなメッセージをヨシダさんの等身大の生き方を通じて伝えていく。
放送日時:毎週木曜日19:30~20:00
出演:ヨシダナギ、キミノマサノリ、(アシスタント:デビ)
放送エリア:福岡県全土、熊本、長崎、佐賀、大分、山口県放送のエリア★AbemaTVのRADIOチャンネルで毎週土曜日12:30~13:00で放送中!全国各地での視聴も可能。

取材・文/田中瑠子
撮影/中川文作


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