山田真哉

やまだしんや・1976年兵庫県神戸市生まれ。98年大阪大学文学部史学科卒業後、一般企業を経て2000年公認会計士試験に合格。中央青山監査法人/プライスウォーターハウスクーパーズ(当時)に勤務。04年独立し、公認会計士山田真哉事務所を設立。05年『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』を出版し、ミリオンセラーとなる。監査法人勤務時代に雑誌連載を始めた『女子大生会計士の事件簿』もシリーズ累計100万部を超えるなど作家としても頭角を現す。06年から1年間は東京糸井重里事務所CFO(最高財務責任者)も兼務。11年、芸能界専門で会計・税務のサポートを行う一般財団法人芸能文化会計財団の理事長に就任。BS11『宮崎美子のすずらん本屋堂』にレギュラー出演するなどテレビや雑誌でも活躍。企業の社外取締役や政府委員、経済番組・ドラマの監修も務めている。
『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』100万部?日記 http://plaza.rakuten.co.jp/kaikeishi/

 若いうちに思い切ったことをしないで、いつやるの?

「おじいさんになっても働ける」。これが、公認会計士になろうと僕が決めた理由のひとつです。会計士には年配の方が活躍しているイメージがあり、資格さえ取ればラクに長く働けると思ったんです。実際に会計士になってみると、「ラクに」というのはもくろみ違いでしたが、長く働けるのは事実だと感じています。時代が変化しても、会計の考え方が必要とされなくなることはありません。逆に、世の中が変化するからこそ、新たな会計を考えることが常に求められる。過去の経験にとらわれない「新陳代謝」のよい会計士であれば、「一生現役」は夢ではないし、僕もそうありたいと思っています。

 

なぜ僕が長く働き続けたいかというと、無職時代のトラウマがあるからなんです。僕はもともと歴史の専門家になりたいと大学で日本史を専攻したのですが、ライバルの多さに気づいて、ここでは一流になれないと思ったんですね。そこで、アルバイトでやっていた予備校講師の道なら極められるかもしれないと考え、学生なりに一生懸命仕事に取り組みましたが、当時は学習塾業界に1億円プレイヤーの「カリスマ講師」がたくさんいた時代でした。「彼らのようになる自信は持てないけれど、今さら教育業界以外の仕事も思いつかない」という状態で就職活動の時期を迎え、中途半端な気持ちのまま、東京の予備校の職員として就職。その結果、五月病(新しい環境に少し慣れたころに、気持ちが落ち込む症状)にかかって、わずか数カ月で退職したんです。

 

「就職難」と言われる時代でしたから、何の経験もない自分が簡単に再就職できるとは思えませんでした。そこで、神戸の実家に戻って、何か資格の勉強でもしようと思ったのですが、何をしていいのかわからないまま、2カ月ほど過ぎてしまったんです。すると、だんだんご近所の目が気になってくるんですよね。「真哉くん、大学まで出て無職なんだって」なんて言われているんだろうなと思うと、いたたまれなくて。社会の中で自分が何の役にも立っていないということが、こんなにも精神的につらいんだと骨身に刻まれました。仕事に対する考え方は人それぞれだけど、僕にとっては働いている方がストレスがたまらない。だから、今度は自分が興味を持って続けられ、業界としても長く働きやすい仕事をしようと考えて思いついたのが、公認会計士でした。

 

ところが、公認会計士試験に合格して監査法人に入ってみると、予想以上の激務。大量の案件を効率よく処理する力が求められる「スピード勝負」の世界で、物事をじっくり考えるタイプの自分には向いていないと感じました。でも、無職生活には二度と戻りたくない。そこで、どうすれば自分の苦手なことをあまりせずに働き続けられるだろうと考えて、活路を見出したのが、会計について世の中にわかりやすく伝える仕事をすることでした。監査法人に入って間もなく会計をテーマにした小説を書き始め、資格取得のスクールが発行する雑誌で『女子大生会計士の事件簿』の連載もしていたので、この路線でイケるかもと監査法人勤務4年目に独立しました。

 

独立を決めてすぐに原作を担当してた漫画の連載が終了するなど紆余曲折(うよきょくせつ)はありましたが、一般向けの会計書『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』がミリオンセラーに。顔が売れ、一時期はテレビ出演や講演の仕事でスケジュールがいっぱいの時期もありました。世の中の皆さんに会計のことを知ってもらえるのはうれしかったのですが、忙しさに追われ、自分のやっていることが本当に誰かの役に立っているのか実感しづらいところがありました。

 

そんな時にタレントの故・飯島愛さんから、事務所の経理について相談を受け、解決のお手伝いをしたら、飯島さんが「ありがとう。これで安心して仕事ができる」と言ってくれたんですね。監査法人時代は企業がクライアントでしたから、誰かから個人的にお礼を言われたことなんてなかった。だから、すごく新鮮でしたし、僕はもともと演劇など芸能が大好きなので、会計を通して飯島さんの芸能活動をサポートできたことがうれしかった。この気持ちが、今僕が力を入れている、俳優さんや、タレントさんなど芸能人専門に会計・税務のサポートを行う「芸能文化会計財団」の活動につながっています。

 

「仕事が続かないのは、ダメな奴だ」とよく言われますが、僕の場合、公認会計士になってからも何度も仕事内容を変えています。その結果、悲惨な人生を歩んでいるかというと、逆です。自分に合わないものにキッパリ見切りをつけ、「どうすれば、ストレスを感じずに仕事ができるか」を考えて次の道を選んできた結果、会計を通して芸能界をサポートするという自分にぴったりな仕事にたどり着きました。

 

自分が得意なことや、やりたいことを判断するのは意外と難しいものです。でも、嫌いだったり、やりたくないことというのはわかりやすい。だから、やりたいことがわからなくて立ち止まるよりは、まずは目先のことをやってみて、どうしても自分に合わないと感じたら、逃げるというのもアリだと思います。そのうちに、消去法でやりたいことが見えてきますから。ただし、30代、40代になると組織の中での責任も大きくなり、簡単に逃げるわけにはいかなくなります。「若いうちに思い切ったことをしないで、いつやるの?」という話ですよね。

 

信念があって、ひとつの仕事をずっと続けられる人はかっこよく見えますが、早いうちから「これが一生の仕事」と決め込んで視野を狭めてしまうと、時代に取り残されてしまうこともあります。僕はかっこよくならなくていいから、常に誰かの役に立っていたい。そのためには、会計を極めるだけでなく、世の中の動きに目を向けて、今、自分に何ができるかを問い続けることが大事だと思っています。

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企業が採用するのは「優秀な人材」ではなく、「求めている人材」

仕事というのは一人でやるのが一番気楽です。自分と自分の家族さえ守ればいい。ところが、組織のリーダーとして働くとなると、ダイナミックな仕事ができる半面、責任も大きくなります。僕が理事長を務める芸能文化会計財団にもスタッフがいますが、彼らの生活が自分にかかっていると考えたら、おそろしくて逃げたくなります(笑)。でも、逃げられませんから、スタッフに権限を委譲するよう心がけて、自分ひとりですべてを背負い込まないようにしています。

 

スタッフの採用を経験してわかったのですが、企業が採用するのは必ずしも「優秀な人材」ではないんですね。採りたいのは「求めている人材」なんです。例えば、僕は会計士をお客さまの経営課題を解決するサービス業と考えているので、スタッフに求めているのは「空気を読む力」。「空気を読む」といっても、何でも相手に同調しろと言っているわけではありません。相手が求めているものを理解する力のことです。

 

空気が読めるかどうかは、面接で10分も話せば十分わかります。履歴書でも一目瞭然ですよ。僕はマスコミで仕事をする機会も多く、やわらかいイメージがあるためか、「世界50カ国を放浪してきました」など会計とはまったく関係ないことばかりをアピールする応募者もいます。その内容がいくらすごいことでも、なぜうちの会計事務所で働きたいのかが伝わってこないと、「空気を読めない」と判断せざるを得ないですよね。では、相手が求めているものを理解するにはどうすればいいのかというと、そんなに難しいことではないんですよ。企業サイトひとつ見れば、その会社が何を目指していて、どんな雰囲気なのかはわかります。つまり、就職活動でまず大切なのは、相手を知ろうとする謙虚な姿勢だということです。その姿勢さえあれば、知識やスキルは入社後の訓練で何とかなる。そう考えている企業は少なくないと思いますよ。

 

それから、会計士としていろいろな会社を見てきた経験からお話しすると、行かない方がいいのは「人気企業」や「人気業種」です。人気のある企業や業種は競争が激しいですし、黙っていても働きたい人が集まるだけに、えてして給料が安く、勤務時間が長い。どうしてもその会社でやりたいことがあるという場合は別ですが、名前につられて入社するだけなら、リスクの割にリターンが少ないと言えるでしょう。それに、人気というのは時代によって変わります。皆さんには人気のようなあいまいなものに惑わされず、自分にとって譲れないこと、大切なことは何かを突き詰めながら就職活動に臨んでほしいと思います。大学時代というのは、その判断基準を学ぶ貴重な時間です。好きなこと、興味を持ったことを心のままにやって、自分の価値観を築いていってくださいね。

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INFORMATION

著書『問題です。2000円の弁当を3秒で「安い!」と思わせなさい』(小学館/税込み1365円)では、女子高生を主人公に講義形式と4コマ漫画で会計の基礎知識をわかりやすく解説。「消費税増税前に自動車などの高い買い物はするべきか?」「AKB48と関ジャニ∞の数字力」など話のネタになる情報もたくさん盛り込まれている。

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取材・文/泉彩子 撮影/臼田尚史

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