キーワードは、デジタライゼーションとグローバリゼーション
「デジタライゼーション(デジタル化)」と「グローバリゼーション(グローバル化)」、この2つがこれからのビジネスキーワードになるだろうと考えています。ある領域ではすでにデジタライゼーションが進んでいますが、これまでとの違いは在庫管理、物流、人材のパフォーマンス管理などの社内業務はもとより、セールス、顧客接点、企業や業界の枠さえも超えたコラボレーションに至るまで、すべてがデジタライゼーションされていくこと。さらには、これまでデジタルとはあまり縁のなかった農業や医療などの分野や、中・小規模のビジネスにもデジタライゼーションの波が押し寄せているのが、最近のトレンドです。
これを受け、当社は2014年1月にデジタル コンサルティング本部を設立し、お客さまのデジタル活用施策立案から実装、運用に至るまで、一貫したサービスを強化しています。戦略コンサルティング、テクノロジー、アウトソーシングでお客さまを支援するコンサルティング企業から、デジタル テクノロジーを中核とした各種サービスを提供する総合コンサルティング企業へと大きく変わろうとしているのです。
グローバリゼーションは、近年の日本のアクセンチュアにおいて、海外拠点と連携して進めるプロジェクトが急速に増えている状況に象徴されています。特にテクノロジー分野では、中国やインド、フィリピンなどに拠点を置いてシステム開発などを行っているデリバリーセンターから、年間数百名が日本に来て一緒に仕事をしている状況です。
近年はお客さまのニーズが非常に高度化し、日本の知見や過去の導入事例のみならず、アクセンチュアがグローバル全体で培った成功例やスキルを結集して対応しなければなりません。また、お客さまに先んじて「世界中のアクセンチュア社員の知見を生かすことで、お客さまの成長をこのように実現させることができます」と提案してこそ、アクセンチュアの優位性が保たれると考えています。こうした対策が軌道に乗りつつあり、20年に向けて海外拠点と連携するプロジェクトは、日本法人が手がけるプロジェクトの大半を占めると見込んでいます。
リアルタイムにフィードバックする評価制度を導入し、社員の成長を促す
人材戦略については、「リアルタイムな評価制度」と「成長にフォーカス」の2つをキーワードに据えています。アクセンチュアでは、社長から新入社員までまったく同じ評価制度で運用していますが、2016年はその内容を大幅に刷新します。これまで、どちらかというと売り上げや利益、目標達成率などの成果に重きを置いてきましたが、これからはその人が1年間にどれだけチャレンジして成長したかという、人の成長に着目した評価を行っていきます。
もう1つ特徴的なのは、これまで年次で行っていた目標設定と評価をリアルタイムに行うことです。設定する目標は1週間のものもあれば、1カ月や3カ月、半年のものもあるでしょう。目標の達成度合いについて、上司と密にコミュニケーションを行って、その都度フィードバックを受けます。こうして1年間積み重ねた成果をベースに、総合的に評価していく仕組みです。
今やアクセンチュアの社員はグローバルで37万3000人、日本国内で6200人以上となり、日本法人は10年前の3倍強に増えました。数人だった部下が10人に増えれば、企業内の最小単位ともいえる上司と部下とのコミュニケーションが希薄化せざるを得ません。そこで、この評価制度によって最小ユニットを最強にすることで、部署、日本法人、ひいてはグローバル全体の強化につなげていこうという考えです。
世の中が激しく変化する中で、例えば世界的なメーカーでは、ハードを中心に据えた「ハコ売り」から、そのハードから派生する「サービス」に重きを据えた戦略へと舵を切っているように、成長をしている企業は、過去にとらわれることなくビジネスの在り方や、そのモデルさえも日々変化させています。規模の大きな企業の未来でさえ不透明な今の時代において、自分の市場価値を高めていくためには、「何かの領域でプロになる」という強い気持ちを持つことがとても重要です。
そして、もう1つ重要となるのが人間力。真の意味で世の中を良くしていくのは、ロジックや機械ではなく人間です。アクセンチュアが欲しい人材は、当社が注力しているデジタルの分野に興味を持っていることは大前提ですが、もっと重視しているのは、お客さまや周囲の人たちと良い関係性を構築し、主張するところは主張しつつ、互いを尊重してチームとして動ける人間性です。
アクセンチュアでは、各人が特定の領域でプロフェッショナルになれるよう、入社後3年から5年にわたってさまざまなプログラムやキャリアパスを提供し、成長をバックアップしています。また、グローバル全体で2万4000コースを超えるeラーニングを用意していますし、各領域の世界的権威が講師を務める講義をバーチャルに受講できる環境など、自分の成長に必要な知識やスキルを効果的かつ効率的に習得できる体制を整えています。
入社したらまずはさまざまなスキルを磨き、その領域でプロフェッショナルになる。そして最終的には、日本中、世界中の最高のメンバーから知見を集め、お客さまに最高のサービスを提供していくプロジェクトマネジャーを目指してほしいと考えています。
また、アクセンチュアでは数年前に、「キャリアズ・マーケットプレイス」という社内制度を導入しました。これは、ある業務に就いて1年を経過したら、自ら新しい業務に応募できる社内の転職サイトのようなものです。15年度には、200名近くがこの制度を利用して社内異動を果たしています。
デジタライゼーションとグローバリゼーションで実現される世界とは、国籍、性別に関係なく、異なる価値観や考えが共存される世界でしょう。この領域でお客さまを最適な方向へと導いていくためには、アクセンチュア自身が多様性を持つ組織でなければなりません。そのために、アクセンチュアでは、若いデジタルネイティブ世代の採用を増やしていきますし、同時に、新卒採用における女性比率を50パーセントに増やしていく計画です。
また、これからの時代は、女性だけでなく男性にとっても育児や介護を分担することが当たり前の社会になるでしょう。アクセンチュアでは、女性・男性社員を問わず、子が最大1歳半になるまで育児休業を認める制度、子が12歳になるまで時短勤務を認める制度や、子が最大12歳になるまでベビーシッター費用を補助する制度など、国が定める制度を超える支援体制を有しています。結婚・出産を経て活躍している先輩の姿や、男性の育児休暇取得率が業界平均を大きく超えている事実をもっとアピールし、「アクセンチュアは各ライフステージに合わせて、いろんな機会を提供している」ということを、広く知ってもらおうと考えています。
アクセンチュアの使命は、世の中にない新しい方法やソリューションを考え、チャレンジを続けていくこと。お客さまのマーケットバリューを上げるためにできること、より良いサービスを提供する仕事に終わりはありません。それに向かって、立ち止まらずに挑戦し続ける強い意志を持った人たちと共に働き、アクセンチュアでの経験をキャリアの第一ステップにしてもらえたらと願っています。
学生の皆さんへ
大学の授業でも生活でもアルバイトでもいいので、選り好みせずいろいろな経験をしてほしいと思います。世の中にこれだけ情報があふれていると、「どうしたら効率的に過ごせるか」と楽な方向に考えてしまいがち。ですが、学生時代はいろんなことを体験できるチャンスです。多くのことを経験することは、幅広い人間形成に必ず役立ちます。ですから、いろいろな経験をすることに、惜しまず時間を使ってください。
社会に出たら、変化の激しい世界で戦っていくことになります。一度何かを身につけたとしても、それが未来永劫通用する訳ではありませんから、社会人になっても常に勉強し、吸収していかなければなりません。ですから、どんなことでも構わないので、自分に必要だと思ったら行動に移し、吸収すること。そして、吸収したものを自分の力に変えていくことです。社会人になっても必要となるので、学生のうちから習慣づけておくといいですね。
同社30年の歩み
コンサルティング部門を分離独立し、経営と情報のプロフェッショナルとして経営革新を推進する新会社(アクセンチュア株式会社の前身)を設立。
東京都中央区勝どきソリューション・デリバリーセンターを設立。
アクセンチュアと社名変更し、ニューヨーク証券取引所に上場(ACN)。
大連(中国)にデリバリーセンターを開設。日本向けに本格的なアウトソーシングサービスの提供を開始。
北海道札幌市にデリバリーセンターを開設。
大阪府大阪市に大阪オフィス(現:関西オフィス)を開設。経営管理本部を神奈川県横浜市みなとみらいに移転。
京都府京都市に京都オフィスを開設。8月、福島県会津若松市にアクセンチュア福島イノベーションセンターを開設。被災地の産業振興と雇用創出を柱とした、復興支援活動を開始。
アクセンチュア 日本進出50周年。
1月、デジタル コンサルティング本部を新設。10月、熊本県熊本市に熊本BPOセンターを開所。
1月時点で、世界56カ国200都市以上に拠点を構え、グローバル売上高は310億米ドル、社員数は37万3000人(日本法人は6200人)。フォーチュン100(米国『FOTUNE』誌 が全米企業の総収入をランキングした上位100社)のうちの94社、フォーチュン500(同上位500社)の80パーセント以上の企業を顧客に持つ。
取材・文/笠井貞子 撮影/刑部友康