中国から見て北西側に位置するカザフスタンの首都アスタナにある日系メーカーに勤務。現地での楽しみは、駐在員仲間とのグルメ散策と、趣味を増やすこと。
赴任前、赴任後もロシア語を特訓
こんにちは。柴です。今回は、カザフスタン駐在で得たものについてお話しします。
入社1年目の時から南米への赴任を希望していた僕は、カザフスタンという赴任先はまったく想像していなかったので、カザフスタン駐在を命じられた時は、寝耳に水で驚きました。しかし、どんな国への駐在を命じられても「yes」と返事することは決めていたので、迷いはありませんでした。カザフスタン駐在を妻に告げた時の妻の第一声が「面白そう!」だったこともあり、命じられた以上は前向きに頑張ってみようという気持ちで駐在に臨みました。
「赴任前になるべくロシア語を勉強するように」と勤務先から指示があったため、赴任前は毎日15時から18時まで3時間ずつ、計150時間ほどロシア語を学習しました。聞けば当社が日本で行う駐在員向けの語学研修の時間数は、ほかの言語が50時間程度なのと比べると、ロシア語が一番長いとのこと。文法が難しいためだそうです。
確かに文法がとても難解だったために、150時間の赴任前の学習は、文法の基礎を習うのみとなってしまいました。その時点ではまだロシア語が聞き取れず、話せないという状態だったので、赴任後も半年間は、毎日午前中、語学学校でロシア語のマンツーマンレッスンを受けていました。半年間のレッスンが終わった後も、週2回のペースで終業後に語学学校に通い、1~2時間のレッスンを受けています。赴任後に、文法の復習と日常会話、ビジネス会話の練習を半年続けたあたりから、ようやく少し耳が慣れてきたように感じています。仕事上の話であれば、キーワードとなる単語をいくつか理解できれば、必ずしもすべての単語がわからなくても、どんな話なのかが想像できることが増えてきました。
“商売”の最前線にいる喜び
日本では、海外での事業の支援や管理を担当していたので、今、カザフスタンで “商売”の最前線に身を置くことで、「稼いでいる」という感覚をよりダイレクトに感じています。やはり、“商売”は、最前線にこそ楽しさや苦しさがあるもの。何かアクションを起こせば、すぐにその反応が返ってくる手応えや、さまざまなハードルを同僚たちと乗り越えて、その成果を喜び合い、分かち合う楽しさは、現場ならではだと実感しています。日本では、同僚は自分と似た成育環境や職務経歴の人がほとんどなので、阿吽(あうん)の呼吸があり、テキパキと仕事が進むことが多いのですが、カザフスタンでは、民族や文化、生活習慣、言語、育ってきた環境などの違いが大きく、スムーズに物事を進めるのは難しいもの。それだけに、そうした違いを乗り越えてお互いにわかり合えたときや、物事がお互いに納得した形で前に進んだときの喜びは大きいものです。
もちろん、民族や文化などの違いにより、なかなか意思疎通ができない苦労は相当なものです。言語の違いで微妙なニュアンスが伝えられなかったり、そもそも言葉が通じなかったりすると、やはりストレスがたまります。また、日本で管理業務や物流業務をしていれば、締め切りの都合上、社員それぞれが自分で「ToDoリスト」を作ってこなせるものですが、こちらの現場では、それぞれの社員にそのような気働きを期待することはできません。そのため、こちらの方で、月単位、週単位、日単位で、「何を」「どのように」「誰と」といった具合に、いわゆる「5W1H」を考え抜いて組み立てた上で業務をすることが必須となります。さらにそれを、現地の同僚にわかりやすく納得してくれるまで伝えなければならず、これがなかなか気力、体力を要するわけです。
このような業務に携わっていると、日本で仕事をしていた時よりもさらに刺激的な、“脳みそに汗をかく”感覚を毎日味わうことができます。これぞ海外駐在ならではの醍醐味(だいごみ)ではないかと思っています。
また、カザフスタン駐在生活を通じて、一人で生きていることに対する抵抗やストレスが薄れてきたように思います。もちろん、日本には妻や両親がおり、こちらでも同僚などがいるわけですが、一人で生活していることに変わりはなく、その寂しさや緊張感に慣れてきたという感覚でしょうか。体調管理に関しても、野菜を多めに取ったり、お酒の量を減らしたりと、日本にいた時よりも気をつけることが多くなりました。
仕事の場面では、現場の同僚と人的関係を構築することの大切さを痛感しました。そもそも、しっかりとした信頼関係なしでは仕事が進まないということもありますが、信頼関係が結べていないと、たわいもない雑談をしている時も楽しくないのです。双方とも楽しく仕事をするには、なるべく早く、雑談を楽しめるくらいの間柄になっておく必要があると思います。
特に、カザフスタンでは、どんなにつたないロシア語でも、一生懸命に伝えようとして話すとよいことがわかりました。たとえ言葉が完璧に伝わらなくても、気持ちは確実に伝わり、「こいつはこいつなりに頑張っている」と思ってくれるようです。一度、ロシア人の部長を交えてロシア語で会議をしたことがあったのですが、それ以来、カザフ人の同僚が積極的に僕に話しかけてきてくれる気がします。以前、別の駐在地にいた時も同様で、現地の言語で話しかけると、その後は向こうから積極的に話しかけてくれるようになったものです。僕自身、日本に来た外国人が日本語を頑張って話していると、応援したくなりますから、彼らも僕に対してそんな気持ちになってくれているのだと思います。
将来、海外で仕事をしたいと考えている皆さん、僕は、学生の間に社会人になることを考えすぎる必要はないと思っています。もちろん、学生の時から社会人になった自分の姿を想像して行動できる人はすごいと思いますが、個人的には、学生の間は学生の間しかできないことをすべきではないでしょうか。例えば、社会人になれば1カ月の休暇などは取れないので、今のうちに積極的に国内・海外旅行をするとか。また、同じ会社の内定者との関係づくりもよいですが、違う業界・業種に内定していたり、違う分野を目指している友達や知り合いとの交友関係を深めたり、広めたりするのもよいと思います。
そして、ぜひ、海外に出て海外駐在のつらさや楽しさを大いに味わってください。そうすると、日本での生活がどれだけ恵まれたものだったかを、心から実感できると思います。思いっきり駐在を楽しみ苦しめば、再び日本に帰った時、その経験は日本にとって、非常に有意義なものになるでしょう。駐在から帰った者同士、一緒に日本をいろいろな意味で豊かにしていけたら、素晴らしいですよね。僕自身、まだまだこれからだと思うので、頑張ろうと思います。一緒に頑張りましょう。
ショッピングセンター「ハンシャティール」は、駐在員の仲間うちで「お買い物テント」と呼ばれている。
晴天でこれほど陽ざしが降り注いでいても、この日の外気温はマイナス30度。外に出る際は、上から下までなるべく肌を出さないようにしており、耳当てや帽子は必須アイテムだ。
雪の多いカザフスタンでは、ドライバーたちも相当、雪道に慣れている様子。
冬になるとアスタナ市内の公園でクロスカントリーが楽しめるだけあって、市内のスポーツ用品店には、普通にクロスカントリー用のスキー板が売られている。
鉱物資源に恵まれているカザフスタンには、「資源国」との一面も。いくつもの鉱山を有している。
構成/日笠由紀