ガラス編・2014年【業界トレンド】

既存製品のニーズが伸び悩む中、各社は「選択と集中」によってシェア拡大を目指す

代表的な国内ガラスメーカーには、幅広い種類のガラスを手がける旭硝子(2013年12月期売上高1兆3200億円)、建築用・自動車用ガラスに強い日本板硝子(13年3月期売上高5213億円)、カメラやメガネなど光学レンズ用ガラスの分野で存在感を誇るHOYA(13年3月期売上高3725億円)、ディスプレー用ガラスが主力の日本電気硝子(13年3月期売上高2873億円)、建築用・自動車用ガラスがメインのセントラル硝子(13年3月期売上高1735億円)などがある。大手企業の中には、海外売上比率が6~7割を超えているところも珍しくない。また、旭硝子が世界でもトップレベルの売上高を誇るなど、グローバル市場における日本企業の存在感は大きい。

ガラスの用途として最も多いのは、ビルや住宅などに用いられる建築用ガラスだ。また、自動車用ガラスや、液晶テレビなどに使われるディスプレー用ガラスも、売り上げの中でかなりの割合を占めている。デジタルカメラや医療器具に使われる光学レンズ用ガラス、食器や装飾品といった工芸品向けのガラスにも、一定のニーズがある。

このうち建築用ガラスの分野は、現在厳しい状態。国内市場は、東日本大震災の復興関連需要や東京オリンピックに向けた新規の建設需要などで一定の期待が持てるが、海外市場では、欧州や中国の経済が一時に比べると停滞しているからだ。また、ディスプレー用ガラス分野も苦しい。国内の薄型テレビ需要は、地デジへの切り替えやエコポイント制度が終わったことで激減。海外でも期待ほどは伸びていない。一方、スマートフォンやタブレット端末は普及を続けているが、成長は鈍化傾向にある。さらに、この分野では完成品の価格競争が激しく、ガラス価格にも値下げ圧力が高まっている。売り上げは増えても、利益が出にくい状況に追い込まれているのだ。

そのため、各社は「選択と集中」の戦略を進行中だ。まずは、国内外の不採算ラインを閉鎖。一方で、有望な事業領域や地域に新たな投資を振り向けようとしている。中でも注目されているのが「高付加価値ガラス」の開発だ。例えば太陽光発電パネル用ガラスの分野では、より透明度が高く、反射しにくい(=発電効率が高まる)ガラスづくりへの取り組みが進められている。太陽光発電パネルは世界的に普及が進んでおり、ニーズは今後も期待できそうだ。また、下で示したように幅広い分野で機能を高めるための挑戦が続いている。

海外展開も重要な課題だ。ASEANや中南米といった新興国の経済成長に伴い、建築用ガラスや自動車用ガラスなどの需要は高まる傾向にある。そこで各社には、適切な投資規模を見極め、それに応じた海外拠点の整備が求められている(ニュース記事参照)。

押さえておこう <主な「機能性ガラス」を知っておこう>

省エネ性
ガラスとガラスの間に遮熱性の高いガスを封入したり、ガラス表面をコーティングしたりすることで、熱を通しづらくしたもの。建物の冷暖房効率を高める働きがあるため、建設業界などから要望が高い。
防音性
ガラスとガラスの間に透明な防音素材を挟むことで、防音性を高めたもの。こちらも、建設業界などから期待されている。
防汚性
光触媒の技術などを用いて、ガラス表面に汚れを付きにくくしたもの。自動車や電車、高層ビルの窓ガラスなどで活用されるケースが増えている。
耐久性・安全性
ガラスに特殊なフィルムなどを重ね合わせることで、強度を高めたり、ガラスが割れた際の飛散を少なくしたりする。東日本大震災以降、ニーズが急増中。

このニュースだけは要チェック <グローバル展開はますます進みそう>

・日本板硝子が、ベトナム・ホーチミン市郊外にて超薄板ガラスの生産ラインを新設すると発表。稼働開始は14年下半期からの見込み。中国、東南アジアなどで、スマートフォンなどに使われるタッチパネルの需要が高まっていることに対応したもの。(2014年4月7日)

・旭硝子が、メキシコのサン・ルイス・ポトシ州に、自動車用ガラスの生産拠点を新設すると発表。稼働開始は16年からの見込み。メキシコは、北米市場における自動車の生産拠点として機能しており、生産拠点確保によってさらなるニーズ取り込みを図る。(2013年11月12日)

この業界とも深いつながりが <建設業界と自動車業界は重要な顧客>

建設
高層ビルや住宅向け製品は、各社の売り上げの中でかなりの割合を占める

自動車メーカー
UVカット性能、防汚性、防音性の高いガラスのニーズが高まっている

家電メーカー
スマートフォン、タブレット端末用のタッチパネルは、今後も期待できる分野

この業界の指南役

日本総合研究所 コンサルタント 吉田賢哉氏

yoshida_sama

東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。

取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか

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