音楽ビデオ、有料配信などCD販売以外の収益源を模索。ファン拡大の取り組みにも注目しよう
社団法人日本レコード協会によれば、2013年における音楽ソフト(CD、アナログディスク、カセットテープ、音楽ビデオなど)の売上額は2705億円。対前年比で13パーセント減少した。下表で示したように、市場規模はピーク時の1998年から減少傾向が続いている。
内訳を見ると、アルバムCDの売上額は1532億円で、前年比15パーセント減。音楽ビデオは720億円で、前年比13パーセント減。09年まで順調に伸びていた有料音楽配信も、417億円で前年比23パーセント減と大きく落ち込んだ。シングルCDは429億円を売り上げ、対前年比3パーセント減にとどまったが、ヒットチャートの上位はAKB48、EXILE、嵐など特定のアーティストに独占されており、そのほかのグループはなかなかヒット曲を出せない状況だ。その結果、2013年のミリオンセラー(100万枚以上の売り上げを記録した作品)はアルバム 1枚、シングル 4枚のみ。アルバム28枚、シングル20枚のミリオンセラーが登場した1998年などに比べると、寂しい結果となった。
以前の音楽業界では、テレビドラマやCMとのタイアップ、テレビの音楽番組出演などで楽曲やアーティストの知名度を高め、CDの販売増につなげるビジネスモデルが主流だった。しかし、CDの売れ行きが落ちたことで、こうした従来型のやり方は通用しにくくなっている。そこで各社は、音楽ビデオの販売、有料音楽配信、コンサートの入場料、音楽フェスへの出演料、グッズ販売といった多彩な方法を組み合わせ、トータルの売り上げを伸ばす道を模索中だ。特に注目されているのが映像の活用。デジタルテレビやブルーレイレコーダーが普及し、一般家庭でも高精細な映像が楽しめるようになったことで、アーティストのプロモーション映像やライブ映像を収めた音楽ビデオの需要増が期待されている。また、コンサート会場で映像を活用して盛り上げる取り組みも増えてきた。音楽を耳で聴くだけではなく、視覚的な面も併せて楽しめるよう工夫しているのである。
スマートフォン利用者が増えているのに対応し、スマホやタブレット端末向けの音楽配信・映像配信サービスに注力する企業も増えている。例えば、エイベックスグループはソフトバンクなどと共同で、スマホ向けに音楽や映像を配信するサービス「UULA(ウーラ)」を開始。定額の利用料金を支払えば、ミュージックビデオなどさまざまなコンテンツが楽しめる仕組みだ。また、アーティストの最新情報を届けたり、ファン同士でコミュニケーションしたりできる公式アプリ(アーティストアプリ)を提供するケースもある。ソニー・ミュージックエンタテインメントは、こうした分野に力を入れる企業の代表格。また、テクノポップユニットのPerfumeがリリースした、SNSとの連携機能を持つ公式音楽プレイヤー「Perfume Music Player」なども、スマホ活用の好事例として注目すべき動きだろう。
楽曲以外の切り口からアーティストの魅力を高め、売り上げ増につなげようとする取り組みも活発だ。例えば、「エアバンド」として知られるゴールデンボンバーは、コンサート中のパフォーマンスによってエンタテインメント性を高めている。また、ファンとの接点を増やすことでファン層の拡大、リピーター増加を目指すケースもある。AKB48などのアイドルグループは、握手会などのイベントを通じて人気拡大に成功。きゃりーぱみゅぱみゅはYouTubeでプロモーションビデオを配信し、世界中から数多くのアクセスを得たことで海外展開に成功した。このように、動画サイトの活用、SNSによる情報発信、握手会やイベントなどリアルな場の提供といった手段を組み合わせ、幅広い層にアーティスト、楽曲の魅力を届ける工夫が求められるだろう。
押さえておこう <音楽ソフトの生産金額は右肩下がりの傾向>
※日本レコード協会「音楽ソフト種類別生産金額の推移」より。音楽市場は、ピーク時の1998年に比べると半分以下の規模になっている。
このニュースだけは要チェック <新たな音楽ビジネスを創造する動きが活発>
・インターネット音楽ビジネスを手がけるITベンチャーのフェイスが、老舗レコード会社の日本コロンビアを買収。従来とは異なる流通チャネルで楽曲を提供したり、アーティストの情報提供・育成などで新しい試みがなされるのではないかと注目されている。(2014年3月19日)
・ソニー・ミュージックエンタテインメントが、ライブエンタテインメントの企画・制作を行う新会社「株式会社Zeppライブ」を設立すると発表。同時に、アジアをはじめとした海外に展開し、ビジネス規模の拡大を目指す方針も明らかにしている。海外展開は各社にとって、大きな焦点となっている。(2014年4月1日)
この業界とも深いつながりが <SNSを使ったプロモーションが活発化>
ポータルサイト・SNS
SNSを通じてファンとの交流を図るなど、宣伝活動に使われるケースが増加
出版
音楽を聞きながら文章を読み進められる、新しいタイプの電子書籍が登場
ゲームソフト
ゲームなどのデジタルコンテンツに楽曲を提供し、ヒットにつなげる例もある
この業界の指南役
日本総合研究所 主任研究員 吉田賢哉氏
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか