16年ぶりに売り上げが増加。外国人向けサービスと、顧客との接点を増やす取り組みに注目しよう
日本における大手百貨店グループには、三越伊勢丹ホールディングス(三越、伊勢丹を展開)、J.フロント リテイリング(大丸、松坂屋)、高島屋、セブン&アイ・ホールディングス(そごう、西武)、エイチ・ツー・オー リテイリング(阪急、阪神)、東急百貨店などがある。日本百貨店協会によると、2013年の全国百貨店売上高は6兆2171億円。ピーク時の1991年(9兆7130億円)に比べると、市場規模は3分の2程度に縮小した。背景にあるのが、各分野の「カテゴリーキラー」(特定分野で大きなシェアを獲得した専門販売店のこと)の存在。特に、従来は収益の柱だった衣料品分野では、ユニクロなどの低価格業態店にシェアを奪われ苦戦している。
ただし対前年比で見ると、売り上げは1.2パーセント増(全店ベース)で、16年ぶりにプラスに転じた。景気回復・株高などにより、腕時計や貴金属など高額商品の売れ行きが好調。また、消費増税前の駆け込み需要が売り上げ増に大きく貢献した。そして、増税後も富裕層の消費意欲は衰えていないのが、百貨店にとっては心強いところだ。さらに注目したいのが、訪日外国人向けの売り上げ。日本百貨店協会によれば、訪日外国人を対象とした2013年の売上額(免税カウンターベース)は384億円で、前年より91.6パーセント伸びた。売り上げ全体に占める割合はまだ小さいが、今後も成長が期待される分野だ。
ただし、不安な点もある。東京・横浜・大阪といった大都市の店舗は好調だが、地方の店舗は苦戦。都市部に比べて地方の景気回復ペースが遅いのに加え、大型ショッピングセンターなどに顧客を奪われているからだ。また、今後は少子高齢化、消費税の再増税への対応といった課題も重くのしかかってきそう。そこで各社は、3つの方向で取り組みを進めている。
1つ目はやはり、訪日外国人向けサービスの充実。14年10月、外国人向けの免税対象品が化粧品や食品にも広がったのに合わせ、各社が手続き用カウンターの整備・増設、外国語対応力の強化などを進めている。2つ目は、自ら企画したり、バイヤーが直接買いつけた「自主企画商品」の拡大。これまで主流だった「消化仕入れ」(商品の所有権を卸業者やメーカーに残したまま、店頭に陳列すること。売上仕入れとも呼ぶ)に比べると、在庫リスクを負う代わりに利益率が高いのが特徴だ。そして3つ目が、中・小型店舗を増やす試みである。これまでの百貨店は、品ぞろえの充実を目指して店舗規模を拡大しようとする傾向が強かった。ところが、店舗の小型化によって顧客と触れ合う機会を増やし、それによって需要を喚起しようとしているのが特徴だ。例えば東急百貨店は、バイヤーが海外から買いつけた婦人向けの雑貨などをそろえた小型店舗「ミッケ バイ トウキュウ デパートメント ストア」を14年10月にオープン。三越伊勢丹ホールディングスも、17年3月までに中・小型店舗を現在の約2倍となる150店舗まで増やす計画とされる。
アジアへの出店に力を入れる百貨店も、相変わらず多い。また、和食などの日本文化を全面に押し出すことで、現地への浸透を図るケースもある。さらに、官民ファンドの海外需要開拓支援機構(通称:クールジャパン機構)が、海外の百貨店を日本アニメ・ファッションの発信基地と位置づける試みにも注目しておこう(下記参照)。
「クールジャパン機構」が百貨店の海外店舗に出資
中国の浙江省寧波市においてエイチ・ツー・オー リテイリングが建設する大型百貨店に、クールジャパン機構が最大110億円を出資。施設内にイベント会場を設け、物産展や文化発信イベントを開催する予定だ。
マレーシアのクアラルンプールにある三越伊勢丹の店舗「LOT10店」の改装に、クールジャパン機構が9億7000万円を出資。日本の食品や家電製品、キャラクター商品などを販売する「クールジャパン発信店」にする。
※クールジャパン機構は、百貨店の海外店舗を拠点に日本の流行を発信しようとしている。今後も同様の動きが現れる可能性があり、注目が必要だ。
このニュースだけは要チェック <大阪地区で激しい争いが続く>
・大阪市阿倍野区の超高層ビル「あべのハルカス」が全面開業。地下2階から地上14階に入っている「あべのハルカス近鉄本店」は、売り場面積約10万平方メートルと、日本最大級の規模だ。ただし、開業半年後の来館者数は計画より100万人少ない2200万人とされ、集客には苦労している。(2014年3月7日)
・大阪伊勢丹三越が改装工事を開始。売り場面積は、従来の5万平方メートルから6割程度減らす見通しだ。同店は、近隣の阪急百貨店うめだ本店、大丸梅田店などと激しい争いを繰り広げており、あべのハルカスの開業でさらに苦境に追い込まれた形となった。(2014年7月28日)
この業界とも深いつながりが <低価格帯のアパレル会社とは激しく競合>
アパレル
ユニクロなどは強力なライバルだが、テナントとして協力する機会も多い
鉄道
百貨店を経営する鉄道会社がある。百貨店が「駅ナカ」に出店するケースも
総合商社
百貨店が海外出店する際に、商品の供給などの面でサポートを受ける
この業界の指南役
日本総合研究所 副主任研究員 高津輝章氏
一橋大学大学院商学研究科経営学修士課程修了。事業戦略策定支援、事業性・市場性評価、グループ経営改革支援、財務機能強化支援などのコンサルティングを中心に活動。公認会計士。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか