国内市場が縮小、世界市場のシェアも低下。各社は高価格帯へのシフトで利益向上を目指す
「デジタル家電」とは、デジタルデータを扱える家庭用電化製品のこと。薄型テレビ、DVD・BD(ブルーレイ・ディスク)・ハードディスクレコーダー/プレーヤー、携帯オーディオプレーヤー、デジタルカメラなどが該当する。最近では、ネットワークに接続して使用する「情報家電(スマート家電)」と同義で扱われることも多い。国内では、テレビなどのAV機器を提供するソニー、パナソニック、デジタルカメラなどの光学機器を提供するキヤノン、ニコンなどが代表的な存在。一方グローバルでは、アップル(アメリカ)、サムスン電子、LGエレクトロニクス(ともに韓国)、ハイセンス、TCL(ともに中国)、フィリップス(オランダ)などが広く知られている。
国内メーカーにとって大きな柱の一つである薄型テレビ事業だが、国内市場は低迷。一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)によると、2010年には地上波デジタル放送への切り替えなどが追い風となり、国内出荷台数は2519万台に達した。ところが12年以降は大きく落ちこみ、15年には512万台となっている。一方、グローバル市場は新興国を中心に拡大中だが、日本メーカーの存在感は低下。調査会社の米IHSによれば、16年1~3月の世界出荷台数に占める日本メーカーのシェアは12.7パーセント。韓国メーカー(シェア34.2パーセント)や中国メーカー(シェア31.4パーセント)に大きく水をあけられた。こうした中、日本メーカーは売り上げより利益を重視する戦略に方向転換している。ソニーとパナソニックは4K対応テレビ(キーワード参照)やハイレゾ(キーワード参照)対応スピーカー搭載テレビなど、利益率の高い高価格帯商品に注力。両社ともに売り上げは減少したものの、長年続いた赤字から脱却して黒字化を達成した。また、業績の悪化が報じられている東芝は海外市場から撤退し、国内市場に集中するとの方針を示している。
BD(Blu-ray Disc)レコーダー/プレーヤーの分野でも、国内市場は縮小中。レコーダー/プレーヤー機能内蔵のテレビが増えていることに加え、インターネットを介したオンデマンド配信の普及により録画の必要性がなくなりつつあることが原因だ。そこで国内各社は、ハードディスク容量やチューナー数を増やしたり、ネットワーク連携を強化したりした高機能モデルに注力。ここでも、売り上げより利益率重視の傾向が見て取れる。
オーディオ機器の市場では、「ハイレゾオーディオ」の存在感が増している。調査会社のジーエフケー マーケティングサービス ジャパンによると、15年における国内のハイレゾオーディオ機器の市場は、販売数量ベースで前年比1.5倍に拡大した。ハイレゾ音源の音楽配信サービスが拡大しており、今後、市場の伸長が見込める。
デジタルカメラの分野は厳しい状況が続いている。一般社団法人カメラ映像機器工業会(CIPA)によれば、15年の国内外向け総出荷台数は前年比18.5パーセント減の3540万台となった。総出荷台数は10年をピークに減少傾向が続いている。ここでも、カメラを内蔵したスマートフォンとの差別化を図るため、各社は高価格帯の商品にシフト。先駆けとなったのはソニーのデジカメ「RX1」シリーズで、レンズ一体型にもかかわらず、20万円を超える価格と高性能ぶりで話題を呼んだ。また、アウトドアスポーツでの使用を想定し、画質の高さより「いつでもどこでも動画を撮れる」ことを優先して開発された「GoPro」(米ウッドマンラボ)のように、新たな利用シーンを提案してヒットにつなげる取り組みにもぜひ注目したい。
アップル製の「アップルウォッチ」に代表されるスマートウォッチや、腕時計のように装着して歩数計・活動量計として使われるスマートリストバンド、メガネ型のディスプレー端末であるスマートグラスのように、身体に装着して使う「ウェアラブル機器」も有望。前述の「GoPro」も、ウェアラブル機器の一種と言える。調査会社の矢野経済研究所によると、15年の世界市場はメーカー出荷台数ベースで7106万台で、前年比253.6パーセントという大幅な伸びとなった。同研究所は、20年の市場規模を3億2278万台と予測しており、今後も市場は拡大する見込みだ。
デジタル家電メーカー志望者が知っておきたいキーワード
4K(対応)テレビ
横3840×縦2160画素のテレビのこと。Kとはキロ(1000)のことで、横方向の画素(水平画素)が約4000のため「4Kテレビ」と呼ばれる。2020年の東京オリンピック開催を控え、今後は4Kに対応したコンテンツが増えそう。また、11年前後に発売されたテレビの買い替え需要などを背景に、20年前後に販売数が伸びるのではないかと期待されている。
ハイレゾ
ハイレゾリューション(High Resolution)の略。情報量を増やし、CDの音質より原音に近づけたデジタル音源を指す。アーティストの息づかいやライブの空気感など、より臨場感あふれる音を再現することが可能。
ハイブリッドキャスト
テレビ放送とインターネット通信を連携させたサービス。これまでのデータ放送はデータを放送波に乗せてやりとりをしていたが、「ハイブリッドキャスト」はインターネット通信を利用するため、より容量の大きなデータのやりとりが可能になる。そのため、放送に動画などの大容量データを重ねて表示することができる。
CMOSイメージセンサー
CMOSとは、Complementary Metal Oxide Semiconductor(相補型金属酸化膜半導体)の略。レンズから入ってきた光を電気信号に変換する、デジタルカメラの心臓部分。一般的に、CMOSイメージセンサーのサイズが大きいほど、高解像度・高感度な画像が撮影しやすい、背景をぼかした写真を撮りやすいなどのメリットがある。
このニュースだけは要チェック <高価格帯機へのシフトが進みそう>
・パナソニックが、「有機EL」を採用したテレビを世界各地で販売すると発表。有機ELを採用したディスプレーには、応答速度が速くスポーツ中継など動きの速い動画でもクリアに楽しめる、コントラスト比が大きく微妙な色彩が表現できるなどの特徴がある。今後パナソニックは、有機EL採用モデルのような高級機に注力するとみられる。(2016年6月2日)
・日本放送協会(NHK)がBSで4K・8K(横7680×縦4320画素)の実験放送を開始。18年には実用放送が始まる予定となっている。4K対応コンテンツが増えれば、4K対応テレビやBDレコーダー/プレーヤーなどの需要も高まりそうだ。(2016年8月1日)
この業界とも深いつながりが <4Kコンテンツの充実がテレビ普及の原動力になるか?>
テレビ
テレビ局が対応コンテンツを増やすことが、4Kテレビ普及のカギになる
生活家電
テレビを使って冷蔵庫やエアコンなどを管理しようとする取り組みもある
携帯電話メーカー
スマートフォンのカメラが進化し、小型デジカメの市場を奪っている
この業界の指南役
日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門未来デザイン・ラボ コンサルタント
小林幹基氏
京都大学大学院情報学研究科修士課程修了。大手電機メーカー、ニューヨーク大学客員研究員を経て現職。専門は、海外進出戦略、事業戦略、未来洞察による新規事業開発。
取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー