新興国市場での取り組みと「IoT」が成長へのカギを握る。国内企業の再編にも要注目
生活家電とは、冷蔵庫や洗濯機、エアコンなどのように暮らしの中で使われている家電製品のこと。白い色をした商品が多かったため、「白物(しろもの)家電」と呼ばれることもある。幅広い製品を提供する「総合電機メーカー」としては、パナソニック、三菱電機、東芝、日立製作所、シャープなどが代表的。また、空調機器を手がけるダイキン工業や富士通ゼネラル、調理家電を手がけるタイガー魔法瓶や象印マホービンなど、特定の分野に強い企業もある。一方、グローバル市場ではハイアール(中国)、ワールプール・コーポレーション(アメリカ)、LGエレクトロニクス、サムスン電子(ともに韓国)、エレクトロラックス(スウェーデン)などが広く知られた存在だ。
一般社団法人日本電機工業会(JEMA)が発表した「2015年度 電気機器の生産見通し」によると、15年度における生活家電の国内出荷額は2兆2032億円の見通し。14年は消費税率アップの影響で対前年度比12.7パーセント減の2兆1134億円と落ち込んでいたが、15年度は4.2パーセント増となり、市場は回復の兆しを見せている。ただし、国内企業の動向は不透明な部分が多い。東芝とシャープは業績の悪化が報じられており、今後は事業の売却や業界再編の可能性が考えられるからだ。
一方、グローバルな競争は激しさを増している。かつて世界の生活家電市場は、日本企業が席巻していた。ところが最近では、中国・韓国メーカーがシェアを拡大中。とりわけ強力なライバルとして立ちはだかっているのが、世界トップ級のシェアを獲得しているハイアールだ。以前は低価格を武器に戦っていたが、11年に三洋電機の生活家電分野を買収して「AQUA」ブランドを立ち上げ、高価格帯商品の分野でも存在感を発揮するようになった。また、16年には米ゼネラル・エレクトリックの家電部門であるGEアプライアンスを買収し、米国市場への展開も加速している(下記ニュース参照)。
国内市場では人口減少が予測されており、大きな成長は期待できない。そこで国内各社は、中国、東南アジア、インド、中南米などの新興国マーケットで世界のライバルたちとしのぎを削っている。先進国の消費者がすでにひと通りの生活家電を持っているのに対し、新興国では普及率が低いものが少なくない。経済的な豊かさが増していることもあり、これらの地域では新たに生活家電を購入しようとする意欲が旺盛なのだ。ただし、国内で生産された商品をそのまま輸出しても、大きな売り上げは期待できない。現地の生活習慣やニーズに合わせた製品を提供したり、低所得者層でも購入しやすい価格設定にしたりするため、製品の機能を見直すことがポイントになるだろう。
生活家電業界も、IoT(キーワード参照)が注目されている。生活家電をネットワークにつなげることで、「離れた場所から冷蔵庫の中身を確認する」「室内にいる人の健康状態に合わせてエアコンの設定温度を変える」「洗濯機内の洗剤が減ってきたら、自動的にネットで注文する」などの機能を備えた商品が登場。また、体重や血圧などのデータをネットワーク上に蓄積して健康管理に役立てたり、利用状況を記録してエコな使い方をしたりするなどの提案も行われている。こうした機能が受け入れられれば、多少高価でも消費者から選ばれる可能性が高まるだろう。また、ネットワークを通じて家電製品同士を連携させれば、複数の自社製品を買ってもらえるかもしれない。
「省エネ機能」を開発する動きも活発だ。エコの意識が高まるにつれ、節電・節水機能を強化した洗濯機やエアコンへのニーズは強まっている。また、家事の手間を軽くする食洗機、乾燥機付き洗濯機、自動掃除機ロボットなども成長が期待できる分野だ。
生活家電業界志望者が知っておきたいキーワード
IoT
Internet of Thingsの略称で、「モノのインターネット」と訳される。身の回りのさまざまなモノをインターネットに接続し、活用することを指す。家電製品の状況を遠隔地からリアルタイムで確認することや、データの蓄積・分析を通じた各種サービスの提供などが期待されている。
HEMS
Home Energy Management Systemの略。「ヘムス」と発音する。エネルギー使用量を表示して省エネを促す、人がいない部屋の照明・冷暖房を自動的にオン・オフするなど、ITやセンサーを活用して住宅内のエネルギーを管理する仕組みのこと。現在住宅業界では、エネルギー消費を最適化した住宅の開発を積極的に進めており、HEMSの需要も伸びるとみられている。
デザイン家電
ひと昔前の生活家電といえば、実用性ばかりを重視してデザインは二の次という製品が少なくなかった。しかし最近では、機能・性能で差別化を図ることが難しくなったこともあり、デザインにこだわった製品を生み出すベンチャー企業が数多く参入。大手メーカーを脅かしているところだ。特に先進国市場ではおしゃれな生活家電を望む消費者が増える傾向で、各社はデザイン力の向上に力を注いでいる。
見守りサービス
センサーなどを活用して高齢者や子ども、ペットの様子を見守り、安全を確保するサービスのこと。電子ポットなどの使用状況をチェックして高齢者の安否を確認したり、室内の気温や居住者の体温を自動的に把握してエアコンの温度を調整したりする仕組みが提案されている。
このニュースだけは要チェック <業界再編に関わるニュースに関心を払おう>
・ハイアールが、アメリカの総合電機メーカーのゼネラル・エレクトリック(GE)から、家電部門であるGEアプライアンスを買収すると発表。自社事業を見直しているGEと、アメリカでの事業拡大を図りたいハイアールとの利害が一致したもようだ。(2016年1月15日)
・東芝が、家電事業の海外売却やシャープとの統合などが報じられたことに対し、現時点で個別に合意した事項は存在しないと発表。ただし、事業再編の可能性も含め、家電事業の構造改革は進めていくとした。今後も、国内外の業界再編については目を離せない。(2015年12月7日)
この業界とも深いつながりが <センサーやネットワークを扱う企業と協力する機会が増加>
半導体メーカー
高機能な家電製品を生み出すためには、センサーや半導体が欠かせない
住宅メーカー
家電製品の消費電力を抑え、エネルギー消費量の小さい住宅造りを実現
携帯電話キャリア
ネットワークにつながれた生活家電を携帯電話で操作するケースは多い
この業界の指南役
日本総合研究所 シニアマネジャー 吉田賢哉氏
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか