携帯電話編・2016年【業界トレンド】

海外大手と正面から戦うのは不利。国内各社は、特定の消費者に向けた商品で勝負している

リサーチ・コンサルティング企業のMM総研によれば、2015年度における携帯電話端末の国内総出荷数は前年度より5.6パーセント減の3658.5万台で、4年連続のマイナスとなった。国内の携帯電話契約数(16年6月末時点で1億5759万件)は、すでに全人口(約1億2700万人)を超えている。今後はさらに人口減少などが進むため、国内市場が拡大する見込みは薄い。一方、世界的に見れば、携帯電話端末の需要は拡大基調だ。アメリカの市場調査会社であるIDCによると、15年における世界のスマートフォン出荷台数は前年比10.1パーセント増の14億3290万台。新興国を中心に、市場は順調に拡大している。

世界のスマートフォン市場では、サムスン(韓国)、アップル(アメリカ)、ファーウェイ、レノボ、シャオミ(いずれも中国)が大手として知られる。15年は、この5社だけで6割弱のシェアを獲得。中でも勢いがあるのはファーウェイで、サムスン、アップルの2強を急ピッチで追撃中だ。一方、国内市場で最大のシェアを獲得しているのは、「iPhone」を擁するアップル。15年度における携帯電話国内出荷台数のうち、実に41.9パーセントを占める。これに対し、ソニーモバイルコミュニケーションズ、シャープ、京セラ、富士通といった国内メーカーは、国内市場でさえアップルに大きく水を開けられている状態だ。

国内メーカーが苦境に陥っている原因の一つは、1990年代に起きた国内市場の「ガラパゴス化」だ。93年に第2世代の通信規格(キーワード参照)が登場した際、日本は世界と異なる独自規格を採用。当時は「写メール」「着うた」「iモード」といった日本独自の機能が発達し、国内の携帯電話市場は大いに盛り上がった。ところが、通信規格が第3世代に移って世界と共通の規格が採用されると、日本独自の仕様は世界で受け入れられず、国内メーカーは世界的な競争から取り残されてしまったのだ。現在、国内メーカーの世界シェアをすべて合わせても、わずか数パーセントに過ぎない。

こうした中、国内メーカーが海外の大企業と正面から戦うのは不利だ。そこで各社は、「ニッチなニーズ」を満たす商品を開発して差別化を図っている。例えば京セラは、過酷な環境下でも確実に動作する防水・防塵・高耐久性を備えた「TORQUE(トルク)」ブランドの商品を開発。アメリカなどで一定のシェア獲得に成功した。また、富士通はシンプルで使いやすいシニア向け機種「らくらくスマートフォン」を発売し、海外でもある程度の支持を得ている。

次世代フィーチャーフォン(キーワード参照)の登場にも着目しておきたい。15年度のスマートフォン国内出荷台数は2916.5万台だったのに対し、フィーチャーフォンは742万台。市場は徐々に小さくなっているとはいえ、フィーチャーフォンには根強い人気がある。また、この分野では海外大手メーカーとの競争が避けられるし、過去に蓄積したノウハウも生かしやすい。そこでシャープや京セラは、2つ折りのデザインを踏襲しつつ、「LINE」などのアプリや、4Gと呼ばれる最近の通信規格に対応した「ガラホ」(ガラパゴススマートフォンの略)を生み出している。

携帯電話業界全般の変化についても注目しておこう。現在、総務省の要請によってSIMロック(キーワード参照)の解除義務化が進められている。また、携帯電話端末の「実質ゼロ円販売」(ニュース参照)や2年単位で使わせる施策(いわゆる「2年縛り」)の取りやめも進行中。これにより、1台の携帯電話端末を長く使い続ける人が増え、携帯電話端末の売り上げに影響が出る可能性がありそうだ。また、MVNO(キーワード参照)が提供する安価な通信プランとセットになった「格安スマホ」もシェアを拡大しており、国内での競争はさらに激化するとみられる。そこで今後も、高耐久性、シニア向け、次世代フィーチャーフォン、防水機能付き格安スマートフォンなどによって特定市場で存在感を発揮することが、各社の基本戦略となるだろう。

携帯電話メーカー志望者が知っておきたいキーワード

通信規格
携帯電話の通信規格を世代別に分類すると、現在のところ第1~5世代まである。現在の主流は4G(GはGenerationの略で、第4世代という意味)で、「LTE-Advanced」「WiMAX2」などがある。2020年には次世代通信規格である5Gの本格実用開始が予定されており、これによって業界の競争構造が変わる可能性もある。

フィーチャーフォン
一般には、二つ折りでキーボードがついた従来型デザインの携帯電話を指す。フィーチャー(feature)とは「特徴がある」という意味で、音声通話などの通信機能以外に、ワンセグ、おサイフケータイ、着うたなど特徴のある機能を搭載していることを示している。日本独自の発展を遂げたことから、「ガラケー」(ガラパゴス携帯)と呼ばれるケースも多い。

SIMロック
SIMカード(Subscriber Identity Module Card)とは、携帯電話の利用者を特定するため、携帯端末に差し込んで使われるカードのこと。購入元の携帯電話キャリアでしか使えない端末を、「SIMロック」タイプと呼ぶ。逆に、SIMカードを差し替えることでさまざまな携帯電話キャリアで使える端末を「SIMフリー」タイプと呼ぶ。

MVNO
Mobile Virtual Network Operator(仮想移動体通信事業者)の略。自前の無線通信設備を開設・運用せず、携帯電話キャリアからネットワークを借りて通信ビジネスを行う事業者のこと。「Y!mobile」(ソフトバンクとウィルコム沖縄が展開)や「楽天モバイル」(楽天)、「U-mobile」(U-NEXT)などがある。

このニュースだけは要チェック <新コンセプトの携帯電話開発に注目>

・シャープが、モバイル型ロボット電話「RoBoHoN(ロボホン)」の販売を開始。外見はロボットのような形をしており、二足歩行が可能。電話やメール、カメラなどの機能を、ロボホンと対話しながら利用することができる。携帯電話の枠組みを超えた新機種の開発は、各社の将来の業績を左右する可能性もある。(2016年4月14日)

・従来は、携帯電話を新規契約したり他社から乗り換えたりする際に、端末の価格を「実質ゼロ円」にする販売奨励策が多く取られていた。しかし、利用者の負担額が不明確、割引を受けられない利用者との公平性などが問題とされ、総務省がこうした販売策の中止を携帯電話キャリアに求めている。(2016年3月25日)

この業界とも深いつながりが <格安スマホ事業者とのつながりが強くなりそう>

家電量販店
ヤマダ電機やビックカメラなどの家電量販店が「格安スマホ」に参入

電子部品メーカー
電子部品の小型化・省電力化・高性能化は、携帯電話の性能向上に直結

パソコンメーカー
スマートフォンが高性能になり、パソコンやタブレットPCとの境があいまいに

この業界の指南役

日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門未来デザイン・ラボ コンサルタント
橘田尚明氏

橘田尚明

東京大学大学院技術経営戦略学専攻修士課程修了。中長期経営計画策定支援、新規事業テーマ構築支援、未来洞察などのコンサルティングを中心に活動。米国公認会計士。

取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー

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