日本メーカーが世界的な競争力を誇る業界。各社はスマホ・タブレットPC向けなどで小型化技術を競う
一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)によると、2012年における電子部品・電子デバイスの生産実績は6兆6242億円。11年(7兆3421億円)に比べて9.8パーセント、07年(10兆4423億円)に比べると36.6パーセントも減少した。背景には、欧州債務危機の影響で欧米での電子部品需要が低迷していること、新興国の経済成長が鈍化していること、ここ数年の円高によって価格競争力が弱まっていることなどが挙げられる。ただし、12年末から始まった円安傾向などにより、13年はプラス成長に転じる見込みだ。
この分野では、さまざまな日本企業が実力を発揮してきた。セラミックパッケージ(京セラ)、積層セラミックコンデンサ(村田製作所)、HDD用磁気ヘッド(TDK)、小型モーター(マブチモーター)など、日本企業が世界で主要な地位を占めている分野も少なくない。日本メーカー全体の世界シェアは約4割とされており、「お家芸」とも言える業界だ。ただし、低価格を武器にした韓国、台湾、中国メーカーからの追い上げは、毎年激しさを増している。そのため日本メーカーには、高性能・低価格化を実現するための技術革新が日々求められている。
特に焦点になっているのが「小型化」だ。このところ、スマートフォンやタブレットPCの需要が急増。このようなハイテクモバイル機器は電子部品のかたまりで、電子部品の需要拡大にも寄与しているが、この種の機器はほかの分野以上に小型化への要求水準が高い。電子部品メーカーは長年小型化技術を競ってきたが、ここにきて、各社は少しでも軽く小さい部品の開発にますます注力するようになっている。
また、「選択と集中」も重要なキーワードだ。自社の不採算分野部門を見極め、成長性の高い分野に経営資源を投入することが、各社の成長を左右する大きな要因となるだろう。例えば、13年2月に村田製作所が東光を連結子会社化、東京電波を完全子会社化すると発表したのは、象徴的な動きだ。東光は、スマートフォンやタブレットPC向け小型コイルを生産している企業。一方、東京電波はスマートフォンなどに使われる水晶製品が事業の中心。この2社を傘下に収めることで、村田製作所はスマートフォン・タブレットPC向け部品の開発強化を狙ったとみられている。事業分野を見直していく中では、グループ会社のみならず、時に競合他社も含んだ連携によって、競争力の強化を目指していく必要がある。従来の日本メーカーは、自社だけで技術開発を進めようとする「自前主義」の傾向が強かったが、今後は企業買収(M&A)、他社が持つ有力技術のライセンス獲得、共同研究などによって技術力を高める取り組みなどが、さらに進んでいくだろう。
新たな事業の種を育てることも大切である。現在注目されているのが、スマートコミュニティ(キーワード参照)。エネルギーの利用状況を正しく把握するためには多くのセンサーや通信機器が必要であるため、スマートコミュニティが拡大・発展すれば、電子部品メーカーの活躍の場も広がるとみられている。また、多彩な電子部品が使われている4Kテレビ(キーワード参照)、電気自動車、先端医療機器なども、今後の成長が期待できる分野だ。
押さえておこう <電子部品メーカー志望者が知っておきたいキーワード>
太陽光や風力などの再生エネルギーを最大限活用し、一方で、エネルギーの消費を最小限に抑える社会を実現するため、家庭やビル、交通システムをITネットワークでつなげ、地域でエネルギーを有効活用する次世代の社会システム。経済産業省を中心に推進されている。
解像度が横3840×縦2160画素のテレビのこと。Kとはキロ(1000)のことで、横方向の画素(水平画素)が約4000のため「4Kテレビ」と呼ばれる。現在のハイビジョンテレビ(横1920×縦1080)に比べて画素数は4倍となり、より美しい映像が表示可能。すでに製品も登場している。
半導体メーカーのインテルが提唱している、薄型軽量パソコンの一分類。従来のノートPCより薄くて軽く、バッテリー駆動時間が長いなどの特徴を持ち、電子部品の使用点数も多いとされる。今後、売り上げの拡大が見込まれており、電子部品メーカーにとっては期待できる分野の一つ。
要チェックニュース! <各メーカーは「選択と集中」を進めている>
・TDKが、14年3月までにブルーレイディスク事業から撤退すると発表。同社は、11年9月にも有機ELディスプレイ事業からの撤退を発表している。採算のとれない事業を整理し、中核である電子部品事業に経営資源を集中するのが狙いとみられる。(2013年4月26日)
・京セラの米国子会社であるAVXが、コンデンサ製造などを行うニチコンのコンデンサ事業の一部を買収すると発表。ニチコンは不採算事業を整理し、同社にとって利益の見込める自動車・エネルギー関連分野に集中する姿勢を打ち出した。(2012年10月17日)
つながりの深い業界 <部品の供給先と密接な関係がある>
携帯電話メーカー
スマートフォンの売り上げ増加によって、電子部品の需要も急激に拡大中
自動車
電気自動車には、従来型自動車よりずっと多くの電子部品が使われている
デジタル家電
電子部品の小型化・性能向上は、デジタル家電の付加価値性アップに直結
この業界の指南役
日本総合研究所 研究員 吉田賢哉氏
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか