デジタル・ネット対応や、子どもなど新規読者層への働きかけを強化。新聞事業以外の取り組みも進む
新聞社の売り上げは、主に販売収入と広告収入の2つから成り立つ。一般社団法人日本新聞協会によれば、2015年度における同協会加盟91新聞社の販売収入は1兆466億円で、05年度(1兆2560億円)より16.7パーセント減った。一方、15年度の広告収入は3983億円で、こちらは05年度(7438億円)に比べて46.5パーセントも減っている。ここ数年、広告収入の減少率は鈍化しているもの、今後も楽観を許さない状況だ。
こうした傾向の原因としては、スマートフォンやタブレット端末といったデジタルデバイスの利用が活発化したことや、インターネットメディアの拡大が挙げられる。博報堂DYメディアパートナーズ・メディア環境研究所の「メディア定点調査(東京)・2016」によると、携帯電話・スマートフォンの利用時間は、12年が40.4分、13年が50.6分、14年が74.0分、15年が80.3分、16年が90.7分と急増している。これに対して新聞は、12年が24.0分、13年が27.1分、14年が23.4分、15年が19.9分、16年が20.4分だった。消費者がデジタルデバイスに触れる時間が長くなり、相対的に紙の新聞の存在感は小さくなっていると言えるだろう。また、電通が毎年公表している調査「日本の広告費」によると、10年に7747億円だったインターネット広告費は、15年に1兆1594億円に達して新聞広告市場の2倍以上の規模となった。ここでも、インターネット広告の拡大によって新聞広告の存在感が低下するという構図が表れている。
中長期的に見れば、日本の人口は減少が予測されているため、新聞の発行部数はさらに低下することが懸念される。そこで新聞各社は、新たなビジネスモデルの模索を迫られている。
1つ目の方向性は、デジタルやインターネットへの対応強化だ。新聞各社は、紙の新聞の読者に対し、数百円から1000円程度の追加料金を支払えばデジタル版も利用できるプランを提供している。また、デジタル版のみを読む人には、紙の新聞より数百円程度お得になるプランを用意。さらに、「過去記事の検索」「お気に入り記事のスクラップ」などのデジタル版ならではの機能をを提供することで、売り上げ増を目指している。
2つ目の方向性は、読者層を拡大する取り組みである。特に注目されているのが、未来の読者となる子ども・若者向けの新聞だ。例えば読売新聞社は、11年3月に「読売KODOMO新聞」、14年11月「読売中高生新聞」を創刊した。若いうちから新聞に慣れ親しみ、新聞の良さを理解する人を増やしていくことができれば、購読者数の維持・拡大に役立つと期待される。また、朝日新聞社が14年7月、ユーザーとともにコンテンツを作る双方向型ニュースサイト「withnews(ウィズニュース)」をオープンするなど、インターネットを通じて若年層にアプローチする試みもある。
また、海外の読者層を獲得する試みも進められている。例えば、日本経済新聞社は15年11月、イギリスの有力経済紙であるフィナンシャル・タイムズ・グループを買収。こうした動きは、単に読者層の拡大にとどまらず、グローバル規模の取材がしやすくなる、国内外の情報を素早く報道できるなどのメリットをもたらすだろう。今後は、このように新聞社が海外進出を強化したり、国内外の新聞社同士が連携を深めたりする可能性も十分あり得る。
新聞事業以外のビジネスを模索する動きにも注目しておきたい。新聞は多くの読者を抱えていることに加え、長年培ってきた信頼感・安心感を持っている。これを生かして、通販事業などを強化していくことは一つの道だ。また、地方新聞社は地域に密着した情報を持っており、地域の抱えるさまざまな課題を理解し、それを発信する力も兼ね備えている。それらを生かし、地域の研究機関などと協力して課題解決・地域活性化に一役買うことができるかもしれない。さらに、多くの新聞販売所を有していることも、重要な強みだ。新聞配送・配達網を活用し、地域のさまざまな配達業務を担っていくといったことも考えられるだろう。
新聞社の総売上高、販売収入、広告収入の推移
2005年度
総売上高……2兆4188億円
販売収入……1兆2560億円(総売上高に占める構成比51.9パーセント)
広告収入……7438億円(同30.8パーセント)
その他収入……4191億円(同17.3パーセント)
2010年度
総売上高……1兆9375億円
販売収入……1兆1841億円(同61.1パーセント)
広告収入……4505億円(同23.3パーセント)
その他収入……3029億円(同15.6パーセント)
2015年度
総売上高……1兆7904億円
販売収入……1兆466億円(同58.5パーセント)
広告収入……3983億円(同22.2パーセント)
その他収入……3455億円(同19.3パーセント)
※一般社団法人日本新聞協会公表のデータより抜粋
このニュースだけは要チェック <地方の課題を解決するための取り組みも行っている>
・山形新聞社が山形大学との間で、地方創生の推進を目的とした連携協定を締結。地域社会が抱える課題についての調査・研究や、地域で活躍できる人材の育成などに取り組む。(2016年10月25日)
・朝日新聞社が、インターネットで出前注文を受け付けるサイト「出前館」を運営する夢の街創造委員会株式会社と業務提携契約を結んだと発表。全国に展開する新聞販売所の販売網を生かし、デリバリー機能を持たない飲食店の宅配代行を実現するのが狙い。(2016年12月15日)
この業界とも深いつながりが <広告とのつながりは依然として強い>
広告
広告収入は新聞社にとって大きな収益源。広告代理店とのつながりは強固だ
ポータルサイト・SNS
SNSなどでニュースを配信して自社サイトに呼び込むのが当たり前のことに
外食
新聞販売所が、飲食店に宅配サービスを提供する試みがスタートしている
この業界の指南役
日本総合研究所 日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー
吉田賢哉氏
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。
取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー