空運(旅客)編・2017年【業界トレンド】

LCCのシェアが拡大。「メガ・キャリア」は路線拡充やサービス改善などで差別化を図る

国土交通省の「航空輸送統計調査」によれば、2016年度の国内旅客数は9812万人で、前年度(9606万人)より2.1パーセント増えた。また、2016年度の国際旅客数は2105万人で、前年度(1885万人)より11.7パーセント増えている。東日本大震災などの影響で旅客数が落ち込んだ2011年度(国内旅客数7905万人、国際旅客数1259万人)に比べると、国内市場は2割以上、国際市場は7割近くも伸びており、好調が続いている。背景としては、訪日外国人旅行者の増加に伴い、国内線を利用する外国人が増えたこと。また、原油価格が一時より下がったことで、航空料金にお得感が出たことなどが挙げられる。

航空会社は、「メガ・キャリア」(Mega Carrier。大規模航空事業者)と「LCC」(Low-Cost Carrierの略。格安航空会社)に大別できる。メガ・キャリアは豪華な空港ラウンジを用意したり、映画やビデオゲームなどの機内エンタテインメントや機内食の内容を充実させたりするなど、付加価値の高いサービスが売り物だ。また、多様な航空網を整備して乗客の利便性を高めるなどの努力を重ねている。一方、LCCの最大の特徴は料金の安さ。機内食や荷物の持ち込みを有料にする、1機あたりの座席数を増やして運行効率を高める、機内や空港の設備を簡素化するなどの取り組みによってコストを削減し、運賃を下げている。国内メガ・キャリアの代表格は全日本空輸(ANA)と日本航空(JAL)。一方、LCCにはピーチ・アビエーション、バニラ・エア、ジェットスター・ジャパン、春秋航空日本などがある。

LCCの利用者数は、現在、急激に伸びている。国土交通省によれば、2012年における国内線のLCCシェアは2.1パーセント、国際線のLCCシェアは5.2パーセントだった。ところが、2015年には国内線10.0パーセント、国際線13.5パーセントに拡大。さらに、政府が2015年2月に決めた「交通政策基本計画」では、2020年のLCCシェアを国内線14パーセント、国際線17パーセントまで伸ばす目標が定められており、LCC各社には追い風となっている。なお、東南アジアの国内線におけるLCCシェアは53パーセント、国際線のLCCシェアは28パーセント。EUでは国内線が48パーセント、国際線が16パーセント。北米では国内線が32パーセント、国際線が13パーセント。これらと比較すれば、日本国内でLCCがさらに広まる可能性は十分にあるだろう。

こうした動きに対応し、メガ・キャリアも別会社でLCCを経営するなどして、ビジネスチャンスの取り込みを図っている。全日本空輸を傘下に抱えるANA ホールディングスは、2013年、LCCのバニラ・エアを100パーセント子会社化。2017年には、LCCのピーチ・アビエーションへの出資比率を67.0パーセントに引き上げた(下記ニュース参照)。日本航空も2011年、カンタス航空グループ・三菱商事と共同出資してLCCのジェットスター・ジャパンを設立している。

メガ・キャリアは、ビジネス需要などが拡大中の新興国で路線拡充も図っている。例えば、全日本空輸は2016年、成田-武漢線と成田-プノンペン線を新規開設した。一方、2010年の経営破綻後に新路線の開設を制限されていた日本航空も、2017年4月以降は自由に新路線を開けるようになった。今後、新路線を巡る動きには注目しておきたい。また、機内サービスの良さや高い定時到着率(下記キーワード、ニュース参照)をアピールするなどして、LCCとの差別化を目指す取り組みも目立つ。

政府は2020年の訪日外国人旅行者数を、2015年(1974万人)の倍にあたる4000万人まで増やす目標を立てている。また、社会のグローバル化が進むことで、国際旅客数の増加も期待できるだろう。そこで、東京国際空港(羽田空港)や成田国際空港などの発着枠(下記キーワード参照)は拡大される方向だ。今後、増えた発着枠をどの航空会社が確保するかについても注目していきたい。

順調に成長を続ける業界だが、パイロット不足は懸念材料。新興国をはじめ世界的に航空需要が拡大しているため、限られたパイロットを各国の航空会社が奪い合っている状況だ。航空会社は、パイロットの給与引き上げや外国人パイロットの雇用などで人材確保を進めているが、今後、経営上の課題となる可能性もある。

空運(旅客)業界志望者が知っておきたいキーワード

定時到着率
飛行機が予定された時刻通りに目的地に着く割合のこと。航空会社のビジネスについてさまざまな分析を行っているフライトスタッツ社(アメリカ)では、「定刻に対して遅延15分未満に到着した便の全体に占める比率」と定義している。

発着枠
航空機が1日に離着陸できる回数は、各空港の運用時間や管制の処理能力などによって制限される。この回数が「発着枠」で、羽田・成田などの利用者が多い空港では、限られた発着枠を確保することが航空会社の収益を大きく左右する。

東京上空の飛行ルート
首都圏の航空需要増大に伴い、羽田空港などでは発着枠の増加が望まれている。その一環として、都心上空を飛ぶ飛行ルートの新設が検討中。新たな飛行ルートを導入した場合、羽田空港の1時間あたり発着回数を、現在の80回から90回に増やせるという。半面、騒音や安全性の面から反対意見も出ている。

FSA、FSC
FSAとは「Full Service Airline」、FSCとは「Full Service Carrier」の略。サービスを簡素にすることで料金を安くするLCCに対し、メガ・キャリアをはじめとした従来型の航空会社をFSA、FSCと呼ぶケースが増えている。

このニュースだけは要チェック<LCC強化を目指す動きが活発に>

・ANAホールディングスが、ピーチ・アビエーションへの出資比率を38.7パーセントから67.0パーセントに高めると発表。伸び続けるLCC市場を取り込むことが、ANAホールディングスの狙いだ。一方、ピーチ・アビエーション側はさらなる飛躍を目指すため、ANAホールディングスとの連携強化を目指した。(2017年2月24日)

・日本航空はフライトスタッツ社の定時到着率ランキングにおいて、アジア・パシフィック地域の「メインライン部門」(運航会社単体の実績)、および「ネットワーク部門」(グループ会社の運航便を含めた実績)の両方で1位となった。定時到着率が高いほど利用者からの信頼も増し、経営によい影響を与える。(2017年1月6日)

この業界とも深いつながりが<旅行、ホテル業界とは切っても切り離せない関係>

旅行
協力する機会は多いが、最近は自社サイトで搭乗客に直接チケットを売ることが増加

ホテル
互いに関係性の深い業界。航空会社がホテルを経営しているケースもある

重工メーカー
航空会社の中には、国内重工メーカーが開発した新型ジェット機を導入するところも

この業界の指南役

日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー
吉田賢哉氏

yoshida_sama

東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。

取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー

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