旅行編・2017年【業界トレンド】

国内旅行者の増加で市場拡大中。今後は、訪日外国人向けの取り組みが加速しそうだ

観光庁によると、2015年度における国内主要旅行会社49社の旅行取扱額は6兆6363億円。前年度(6兆4282億円)より3.2パーセント増え、4年連続での増加となった。内訳を見ると、国内旅行が4兆4435億円で前年度比8.3パーセント増、海外旅行が2兆186億円で同8.4パーセント減、訪日外国人旅行が1742億円で同44.0パーセント増となっている。円安と、海外で続発するテロ事件などによって海外旅行に出る日本人は減少したが、景気回復を背景に国内旅行者が増加したことで、業界全体の売り上げは伸びた。

ただし、このところ国内旅行の需要が頭打ちになっていることには注意が必要だ。2016年5月以降、国内旅行取扱額は10カ月連続で前年同月を下回っている。3連休が少なかったことに加え、熊本地震(2016年4月に発生)や台風、大雪など自然災害が多発したことが主な原因だ。旅行商品は単価が比較的高く、また旅行は余暇活動であるため、その売れ行きは景気や為替の動向、海外でのテロ事件、自然災害といった外部環境の影響を受けやすい。旅行業界を目指す人は、こうしたニュースに注目をしておきたい。

旅行会社大手としては、ジェイティービー、エイチ・アイ・エスが挙げられる。また、KNT-CTホールディングス(近鉄系)、日本旅行(JR西日本系)、阪急交通社(阪急阪神系)、ANAセールス(ANA系)といった鉄道会社や航空会社の系列企業も広く知られる。また近年では、リクルートライフスタイル(じゃらん、エイビーロードを運営)、楽天(楽天トラベルを運営)、一休(一休.comを運営)など、店舗を持たないインターネット専業旅行会社が勢力を拡大中だ。そのため既存の旅行会社も、自社ウェブサイトの拡充、ネット専業旅行会社との提携などによってネット販売の強化を目指すケースが増加。例えばジェイティービーは、2013年からネット系旅行会社のエクスペディアジャパンと包括的業務提携を結び、両社が持つ国内外のホテル・旅館のネットワークを互いに提供し合うことでネットサービスの強化を図っている。

このところ、旅行市場全体は緩やかに拡大をしてきた。しかし一方で、ネット専業旅行会社の成長、他業界から参入する企業やネット直販に乗り出す航空会社・ホテルの増加などにより、業界内の競争は激化。そのため、一部の中堅・中小旅行会社は競争に耐え切れず、経営が傾くところも出てきている。2017年3月には中堅旅行代理店の「てるみくらぶ」が経営破たんし、大きな話題となった。そこで各社には、「多様化した個人のニーズに沿って、オーダーメイド型の旅行商品を企画・販売する」「地域の特性を生かした体験プログラムなど、従来のツアーにはなかった要素を取り入れる」などにより、他社との差別化を図って競争に打ち勝つことが求められるだろう。

また最近は、インバウンド需要の取り込みにも注目が集まっている。日本の旅行会社はこれまで、訪日外国人向けの旅行商品をあまり取り扱ってこなかったが、訪日外国人の増加に伴って、この分野に力を入れる企業が増えているのだ。例えばKNT-CTホールディングスは、訪日外国人向け旅行予約サイト「TABEE JAPAN」を2013年から開設。エイチ・アイ・エスは全日本空輸の子会社であるANAセールスと共同で、2015年から訪日外国人を対象とした個人型自由旅行商品(団体旅行型のパッケージツアーとは異なり、個人旅行者の希望に添って旅行会社が航空会社やホテルなどを手配する商品のこと)の発売を開始している。ほかにも、各旅行会社や官公庁などは、下で取り上げているような施策によって売り上げ増・観光業界の活性化を目指している。

インバウンド需要取り込みに向けた施策の一例

多言語対応の端末・サービスを開発
訪日外国人への対応力を高めるための端末・サービスの開発が進んでいる。例えばジェイティービーは、2015年からパナソニックと共同で、タブレット端末を使って英語をはじめとする多言語で観光案内や接客を支援するサービスの実証実験を行っている。

ビッグデータ活用による消費者ニーズの把握
観光庁が、訪日外国人の保有するスマートフォンなどのGPSデータや、SNSでの発言データを分析し、観光モデルルートの作成などに役立てる取り組みを進めている。ビッグデータを活用して旅行者の行動実態やニーズを把握する取り組みとして注目が集まっている。

広域観光周遊ルートの提案
これまで訪日外国人の多くは、東京~大阪のいわゆる「ゴールデンルート」に集中していた。しかし観光庁の主導によって、地域振興や、リピーターに日本の魅力をさらに知ってもらうことを目的とした地方の周遊ルートが提案されている。代表的なのが、中部~北陸の9県にまたがる「昇竜道」だ。

「ニューツーリズム」の提案
訪日外国人の増加や、趣味・嗜好(しこう)の多様化などを背景に、観光名所を巡るだけの観光とは違った「ニューツーリズム」をアピールして地域に人を呼び込もうとする動きが盛んに 。食や自然、イベントなど地域固有の観光資源を生かし、体験型・交流型の要素を取り入れた旅行商品が続々と誕生している。

このニュースだけは要チェック<統合型リゾート施設に関するニュースには注目が必要>

政府が、カジノ・ホテル・エンターテインメント施設などを備えた「日本型統合リゾート施設」の整備を進めるための推進本部を始動させた。カジノを含む施設は旅行商品の目玉になる可能性を秘めており、今後の動向に注目が必要だ。(2017年4月5日)

安倍総理を議長とする「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」が、2020年の訪日外国人数を4000万人とする目標を明らかにした。従来は2020年に2000万人という目標を立てていたが、訪日外国人の急増により、さらに高い目標を目指すこととなった。(2016年3月30日)

この業界とも深いつながりが<IT企業と連携する機会がさらに増えそう>

IT(情報システム系)
訪日外国人向けのサービス開発や、旅行者のニーズ探索などで協力する機会が増加

百貨店
買い物をしたい訪日外国人のため、旅行ルートに百貨店を組み込むこともある

鉄道
鉄道会社や航空会社、ホテルと協力しながら、顧客ニーズに合った旅行商品を開発

この業界の指南役

日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 関西コンサルティンググループ コンサルタント
木下直紀氏

木下直紀

東京大学法学部卒業。大学卒業後、大手都市銀行を経て現職。民間企業向けの事業戦略策定、業務プロセス改革、組織風土変革等の調査・コンサルティング業務に従事している。

取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー

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