高級路線とファストファッションに二極化。国内外の販路拡大が成長のカギ
アパレル業界は、衣服・下着やファッション雑貨などの製造から流通にかかわる業界である。大企業の寡占ではなく、中堅規模の企業を含めて数多くのプレイヤーが存在。各社が、それぞれのターゲットに訴求するブランドを構築しているのが業界の特徴だ。従来は、商品の企画・デザイン・製造・販売だけを手がけるメーカーが多かったが、近年では企画から小売までを一貫して手がける「SPA」(キーワード参照)型の企業が増えている。「ユニクロ」「GU(ジーユー)」を運営するファーストリテイリングが代表格。また、「ハニーズ」などを展開するハニーズや、「ローリーズファーム」などを展開するポイントなども、SPA型企業として知られている。
経済産業省の「商業動態統計」によれば、2012年におけるアパレル小売業の年間販売額は10兆9420億円。前年(10兆6860億円)に比べ、2.4パーセント増となった。節電を目指して打ち出された「クールビズ・ウォームビズ」の需要と景気回復により、東日本大震災後の消費低迷は抜け出しつつある。ただし、ピーク時の1991年(15兆2760億円)に比べると、国内市場は3割近く小さくなった。今後懸念されているのは、2014年4月の消費税増税による消費の冷え込み。また、アパレル商品の多くは中国など人件費の安い国から輸入されているため、13年以降の円安傾向によって調達コストが増加しているのも気がかりだ。
国内市場は、中高年やビジネスパーソンをターゲットに高級感を打ち出した衣料品と、安価なファストファッション(キーワード参照)に二極化。低価格路線を打ち出し、順調に成長してきたファストファッション系企業だが、国内市場は飽和しつつあり、さらに外資系企業の攻勢によって伸び悩みを見せ始めた。そこで、ファーストリテイリングやしまむらなどは、中国をはじめとする海外市場に積極的に進出。アジアでは日本のファッション誌がいくつも発行されて人気を集めるなど、日本ファッションへの注目度が高いため、期待は大きい。半面、すでに海外では外資系企業が大きな存在感を発揮しているため、激しい競争も避けられないだろう。
従来型のアパレルメーカーとしては、「タケオキクチ」「アンタイトル」などを展開するワールド、「組曲」「23区」などで知られるオンワード樫山などがある。こうした企業にとって、以前は百貨店が主な販路だった。ところが、このところ百貨店での売り上げ減少に歯止めがかかっていない。経済産業省の「商業販売統計」によると、04年には4兆4600億円だった百貨店の衣料品販売額は、12年には3兆980億円まで落ち込んでいる。そこで各社は、「駅前ファッションビル」「郊外型ショッピングセンター」という新しい販売チャネルに注力。中には、ショッピングセンター向けの新ブランドを構築して、新しい顧客層を発掘しようとするところも現れている。
インターネットを通じた衣料品販売は、完全に定着。Amazon、楽天などの総合系ECサイトのほか、スタートトゥデイが運営する「ZOZOTOWN」、丸井が運営する「マルイウェブチャネル」などのファッション専門ECサイトが存在感を高めている。また、メーカーが自社の通販サイトを充実させたり、有力なECサイトに積極進出したりするケースも多い。
古くなった衣料品の回収活動によって、既存顧客とのつながりを強めようとする動きにも注目しておきたい。例えば、回収した衣料品をバイオエタノールなどにリサイクルする「FUKU-FUKUプロジェクト」には、「無印良品」の良品計画、アウトドアファッション大手で環境問題への取り組みにも注力しているパタゴニアなど複数企業が参加。また、ユニクロは店頭回収した古着を、難民や災害被災者に届けている。このように、CSR活動の一環として環境問題に取り組みながら、衣料品のリサイクルによって来店頻度を高めようとする試みは、今後も増えていきそうだ。
押さえておこう <アパレル業界志望者が知っておきたいキーワード>
Speciality store retailer of Private label Apparelの略。「製造小売業」とも呼ばれる。店頭で顧客と直接触れあうことで、流行を機敏に取りこんだ商品企画・開発が可能。また中間マージン削減による利益率向上も期待できる。ワールドのように、従来型のアパレルメーカーがSPAに乗り出すケースも増えている。
流行を取り入れた衣料品を短いサイクルで大量生産し、低価格で提供するアパレルブランド・業態を指す。国内ブランドとしてはユニクロ、しまむらが代表格。海外ブランドでは、ZARA(スペイン)、H&M(スウェーデン)、GAP、FOREVER21(ともにアメリカ)などが挙げられる。
Online to Offlineの略。OtoOと表記することもある。ネット上の働きかけにより、リアル店舗の購買活動を活発化させること。インターネット経由で割引クーポンを発行して来店客増加につなげる、来店するとスマートフォンアプリ上でポイントがたまるなどは、O2Oの一種。アパレル業界でも、ネットを活用したマーケティング活動が盛んに行われている。
このニュースだけは要チェック <新たな市場を目指す取り組みが活発>
・ファーストリテイリングが、香港証券取引所への上場手続きを発表。成長著しい中国、および東南アジア地域において、「ユニクロ」などのブランドイメージを浸透させるのが狙い。同社では、中国はもちろん、インドネシア、マレーシア、タイなどでも積極出店を続けており、そうしたグローバル化施策の一環とみられる。(2014年1月27日)
・紳士服チェーンの「青山」を展開する青山商事が、30代の男女をメインターゲットとした商業施設向け新業態「NEXT BLUE」の出店を発表。これまで同社にとって「空白エリア」となっていた、郊外駅前のショッピングセンターやファッションビルを中心に展開する予定。5年で100店舗の出店を計画している。(2013年11月19日)
この業界とも深いつながりが <ショッピングセンターとのつながりが強まる>
総合商社
アパレル企業が海外進出する際に、総合商社の協力を得るケースは少なくない
繊維
ユニクロと東レが「ヒートテック」を共同開発するなど、商品開発で連携
ショッピングセンター
大型ショッピングセンターやファッションビルが、重要な販路になりつつある
この業界の指南役
日本総合研究所 副主任研究員 千葉岳洋氏
一橋大学社会学部社会問題・政策課程卒業。専門は、国際会計、経営管理・グループ経営改革、グローバルマーケティング、グローバルサプライチェーンマネジメント。製造業を中心として、グローバルを共通テーマに、マーケティング・会計・業務改革などを幅広く手がける。米国公認会計士。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか