外国人客増加は追い風だがLCCのシェア拡大で競争は激化。今後はパイロット確保が課題に
国土交通省の「航空輸送統計調査」によれば、2014年の国内旅客数は9451万人で前年より3.9パーセント増。また、国際旅客数は1604万人で前年より8.0パーセント増だった。東日本大震災などの影響で旅客数が大きく落ち込んだ11年(国内7759万人、国際1216万人)に比べると、国内市場は2割、国際市場は3割以上伸びている。背景にあるのは、インバウンド(下記キーワード参照)需要の拡大だ。また、景気が回復傾向となったことや、原油安で燃料コストが下がり航空料金が手軽になったことも大きな要因である。
航空会社は、「メガ・キャリア」(Mega Carrier。大規模航空事業者)と「LCC」(Low-Cost Carrierの略。格安航空会社)に大別できる。メガ・キャリアは豪華な空港ラウンジを用意したり、充実した機内エンタテインメント・食事を提供したりするなど、付加価値の高いサービスが売り物だ。また、多様な航空網を整備して乗客の利便性を高めるなどの努力を重ねている。一方、LCCの最大の特徴は低料金。機内食や荷物の持ち込みを有料にする、1機あたりの座席数を増やして運行効率を高める、機内や空港の設備を簡素化するなどによってコストを削減し、運賃を下げている。国内メガ・キャリアの代表格は全日本空輸(ANA)と日本航空(JAL)。一方、LCCにはピーチ・アビエーションやジェットスター・ジャパンなどがある。
手ごろな運賃で人気上昇中のLCCは、今後も利用者数が伸びそうだ。国土交通省によると、東南アジアにおけるLCCのシェアは5割以上。欧州や北米でも3割以上に達している。これに対し、日本のLCCシェアは14年時点で国内線6.4パーセント、国際線9パーセントにとどまる。政府が15年2月に決めた「交通政策基本計画」では、20年のLCCシェアを国内線14パーセント、国際線17パーセントまで伸ばすことが定められており、LCC各社には追い風と言える。
一方、メガ・キャリア側はLCCとの競争に打ち勝つため、さまざまな取り組みを進めている。その一つが、これから需要が高まりそうな新興国市場での路線拡大だ。例えば、全日本空輸を傘下に持つANAホールディングスは16年1月、国営ベトナム航空に出資し業務提携することで合意したと発表。今後は「共同運航便」(キーワード参照)を増やすことなどで訪日旅行客の利用増を目指している。アジア、中南米などに新たな路線を開いて「ドル箱路線」に育てることができれば、航空会社の経営は大きく上向くだろう。また、政府や旅行会社などと協力して日本の魅力を海外にアピールする動きも活発だ。
航空需要が最も多いのは、やはり東京を中心とした首都圏。20年には東京オリンピックも控えており、ニーズはさらに拡大する可能性が高い。そこで、成田国際空港と東京国際空港(羽田空港)は、発着する便を増やすために努力を重ねている。成田国際空港は15年4月、LCC向けの施設「第3ターミナル」をオープンして利用者増に対応する準備を整えた。また、羽田空港では発着枠を増やすために飛行ルートの見直しを検討中。現在の飛行ルートは都心部を避けているが、都心上空に変更することでかなりの増便が可能になるという。騒音問題などがあって先行きには不透明な部分も多いが、関連ニュースにはぜひ注目しておきたい。
明るい材料が多い航空業界だが、パイロット不足は懸念材料だ。国際民間航空機関(ICAO)の推計によれば、10年時点における世界のパイロット数は46.3万人。これが30年になると、98.1万人のパイロットが必要になると予測されている。さらに、国内の航空会社ではパイロットの年齢構成が40代に偏っていると言われ、30年前後に大量の定年退職者が出る見込み。各社は人員不足を補うため、パイロットの給与引き上げや、育成システムの強化などに取り組んでいる。
航空業界志望者が知っておきたいキーワード
インバウンド(観光客)
元の意味は「外から中へ入ってくる」ということ(inbound)。航空業界では、外国から日本へやってくる観光客や、その関連需要を指す。ビザの条件緩和や円安などが有利に働き、2011年に622万人だった訪日外国人旅行者数は、15年には1974万人まで増加した。
燃料サーチャージ
航空燃料が値上がりした際に、運賃とは別に請求される燃料費のこと。原油価格が大きく値上がりした2000年代初頭から、本格的に導入が始まった。15年に入って原油価格が下がり、燃料サーチャージが徴収されないケースも増えている。
MRJ
三菱航空機などが開発・製造している小型旅客機「三菱リージョナルジェット」の略称。座席数は70~90席程度で燃費性能が良く、国内の短距離路線に向く機体と言われる。1号機は17年ごろに全日本空輸の国内線で就航する予定。
共同運航便
複数の航空会社が共同で飛ばす便のこと。コードシェア(code sharing)便とも呼ばれる。航空会社にとっては、自社が運航していない路線で経費を抑えながら便を運行できるのがメリット。
アライアンス
元の意味は「同盟」「連合」など(alliance)。ビジネスの世界では企業同士の連合体を指す。航空業界には、「スターアライアンス」(全日本空輸などが参加)、「ワンワールド」(日本航空などが参加)、「スカイチーム」という3つのアライアンスがある。
このニュースだけは要チェック <パイロット確保に向けた動きが活発化>
・日本航空は労働組合に対し、パイロットの給与を年100万~200万円引き上げる方針を提示。同社は2010年の経営破綻時に賃金を大幅カットし、多くのパイロットが他社に転職した。今回の給与アップによって人材の流出を食い止め、パイロットを確保するのが狙い。(2016年1月28日)
・全日本空輸がメキシコへの直行便を新たに就航させる見込みだと報道された。同社は15年6月に中南米への乗り継ぎ拠点である米ヒューストンに路線を開設。同年7月にはメキシコシティ営業支店を新設しており、中南米のビジネス客需要を取り込もうと努力している。(2016年1月29日)
この業界とも深いつながりが <地方自治体と協力してインバウンド客を増やす試みも>
地方自治体
地方自治体や政府と協力して日本の魅力を発信し、インバウンド客を増やす
旅行・ホテル
旅行会社と協力して魅力的なツアーを提供。航空会社がホテルを経営するケースも
重工メーカー
国内重工メーカーが開発した新ジェット機は、小型・省エネで国内線にピッタリ
この業界の指南役
日本総合研究所 シニアマネジャー 粟田 輝氏
慶應義塾大学大学院理工学研究科修士課程修了。専門は経営・事業戦略、各種戦略策定・実行支援や事業性評価。幅広い業界・規模の企業を対象としている。最近では、今後さらなる発展が期待されるブラジル市場に注目し活動中。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか