旅行・ホテル編・2015年【業界トレンド】

増え続ける外国人旅行客への対応が最大の課題。地方を盛り上げる企画力も重要に

観光庁の「宿泊旅行統計調査」によると、2014年の延べ宿泊者数は約4億7350万人泊(「人泊」とは、宿泊人数×宿泊数のこと)。前年に比べて1.6パーセント増えた。とりわけ、外国人宿泊者の伸びが目立っている(下のデータ参照)。なお、外国人延べ宿泊者数を国籍別に見ると、第1位は台湾(794万人泊)、第2位は中国(780万人泊)、第3位は韓国(434万人泊)という順位だ。

訪日外国人が増えた理由のひとつは、03年から始まった「ビジット・ジャパン事業」だ。観光庁などが中心となり、海外消費者に向けた宣伝活動や、旅行会社への働きかけを強化したことで客足が伸びた。また、円安も強力な追い風となった。11年には1ドル=75円台まで上昇した円相場は13年初頭から円安傾向に転じ、15年6月には125円台になった。これにより、外国人にとって日本での旅行や買い物が手ごろになったのだ。為替の動きは外国人旅行者の増減と関連性が強いので、ぜひチェックしておこう。

外国人対応策のひとつが「多言語対応」。英語版や中国語版のホームページやパンフレットなどを作成したり、外国語を話せるスタッフをそろえたりして、外国人を呼び込む取り組みが活発だ。イスラム圏からの旅行者が増えていることに対応し、イスラム教徒の人たちが安心して食べられることを示す「ハラル認証」を取得してイスラム圏からの訪日外国人獲得を目指す動きもある。また、「ビッグデータ」への期待も大きい。スマートフォンの情報提供アプリなどを通じ、訪日外国人が日本滞在中にたどったルートや、関心を持った施設などの情報を取得。それらを分析することで、新たな観光資源の発掘や、より良い旅行ルートの提案に生かそうとする試みも始まっている。

外国人の地方誘導も重要だ。東京~大阪間は「ゴールデンルート」と呼ばれ、外国人観光客に人気が高い。しかし、今後も訪日外国人が増えると、この地域で受け入れられる人数の限界を超えるとみられている。そこで、ゴールデンルート以外の地方へと外国人を誘導することが必要だ。例えば、愛知県、岐阜県、静岡県、三重県、石川県、富山県、福井県、長野県、滋賀県の9県は合同で「昇竜道プロジェクト」を立ち上げ、外国人に魅力的な地方観光ルートを新たに作ろうとしている。

設備の増強も課題。「宿泊旅行統計調査」によれば、14年の東京都、大阪府、京都府では、ビジネスホテルとシティホテルの客席稼働率がどちらも8割を超えた。とりわけ、中国の旧正月(2月後半)や春の花見の時期には、ホテルの予約が取りにくい状況となっている。そのため、新たなホテルを開業する動きが活発だ。例えば、ビジネスホテルチェーンの「ワシントンホテル」などを手がける藤田観光は、15年4月、東京・新宿の旧コマ劇場跡地に「ホテルグレイスリー新宿」を開業。また、アパホテルは14年12月に「アパホテル東新宿歌舞伎町」を、15年1月には「アパホテル神田神保町駅東」を開業したほか、15年中に新宿、品川、六本木などで、新たに新規開業する予定だ。

この業界を志望する学生は、「着地型観光」というキーワードに注目しておこう。これは、旅行者を受け入れる地域が主体となり、お勧めの観光資源を生かした旅行商品や体験プログラムを企画・運営する取り組みのこと。農作物の収穫や伝統行事への参加など、従来の定番旅行では味わえない体験を用意することで、旅行者の長期滞在を促そうとしている。また、MICE(マイス)への関心も高まっている。これは、Meeting(会議)、Incentive tour(報奨・招待旅行)、Convention/Conference(学会・国際会議)、Exhibition(展覧会)の頭文字をとった造語。一度の開催でかなりの売り上げが期待できるため、力を入れる企業が増えそうだ。

外国人の延べ宿泊者数は伸びている

2010年の延べ宿泊者数
……4億1305万人泊 うち外国人2751万人泊(全体の6.7パーセント)
2011年
……4億1723万人泊 うち外国人1842万人泊(全体の4.4パーセント)
2012年
……4億3950万人泊 うち外国人2631万人泊(全体の6.0パーセント)
2013年
……4億6589万人泊 うち外国人3350万人泊(全体の7.2パーセント)
2014年
……4億7350万人泊 うち外国人4482万人泊(全体の9.5パーセント)

※東日本大震災の影響で、11年の外国人延べ宿泊者数は大幅に減少。しかし、その後は円安などの追い風もあって急激に伸びている。

このニュースだけは要チェック <外国語サービスに関する新技術に注目>

・旅行会社のジェイティービーが、パナソニックとの間で包括的協業を開始することに合意。パナソニックが開発中の多言語翻訳技術を用いた自動翻訳機について、共同で実証実験を行うと発表した。旅行会社が異業種と連携し、新事業の創出を目指す事例として注目があつまっている。(2015年6月22日)

・日本政府観光局(JNTO:Japan National Tourism Organization)の発表によると、15年1~6月に日本を訪れた外国人数は914万人を記録。過去最高を記録した14年の同時期に比べ、46.0パーセント、288万人増となった。政府は「20年の訪日外国人数2000万人」を目指してきたが、前倒しの達成が見えてきた。(2015年7月22日)

この業界とも深いつながりが <IT企業と協業する機会が増えるかも?>

IT(情報システム系)
外国語の翻訳、観光情報提供サービスなどで協業の可能性が増加

百貨店
百貨店や家電量販店を観光ルートに取り入れるケースが多い

建設
新規ホテルの開設や、既存ホテルの設備更新などで協力する

この業界の指南役

日本総合研究所 主任研究員 吉田賢哉氏

yoshida_sama

東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。

取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか

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