住宅ローンなどの事業が急成長中。今後は他企業との提携やセキュリティ向上が焦点に
「ネット銀行」とは、インターネットによる取引がサービスの中核に据えられている銀行のこと。比較的新しい業態で、日本で最初のネット銀行であるジャパンネット銀行は、2000年10月に営業を開始した。その後も、ソニー銀行(01年に開業)、楽天銀行(01年)、住信SBIネット銀行(07年)、じぶん銀行(08年)、大和ネクスト銀行(11年)などが誕生している。また、セブン銀行(01年)、イオン銀行(07年)といった流通系の企業グループに所属する銀行を、ネット銀行に分類する考え方もある。
主要6行(ジャパンネット銀行、ソニー銀行、楽天銀行、住信SBIネット銀行、じぶん銀行、大和ネクスト銀行)の15年3月末時点での総預金額は13.3兆円。一方、一般社団法人全国銀行協会によると、同協会に所属する都市銀行、地方銀行、第二地方銀行、信託銀行116行の、15年3月末時点における総預金額は654.7兆円だった。ネット銀行の総預金額は全国銀行の50分の1程度に過ぎず、規模の面ではまだまだ大きいとは言えない。しかし、ネット銀行のシェアは急速に高まっており、存在感は着々と大きくなっている。
シェア拡大の背景にあるのが、消費者にとってうれしいサービスの提供だ。ネット銀行は、実店舗ゼロ、あるいは実店舗を最小限に絞り込んで経営を行っている。例えば、預金残高でネット銀行中トップの住信SBIネット銀行や、口座数でネット銀行中トップの楽天銀行は、16年8月時点でどちらも実店舗を開設していない。その分、一般の銀行より人件費や店舗運営費を抑えられ、預金金利を高めに設定できるのだ。また、ATM手数料の無料化や、外貨預金などの金融商品を豊富に取りそろえるなどの手法で消費者にアピールする銀行もある。その結果、10年3月末から15年3月末までの5年間で、ネット銀行主要6行の総預金額は年22.7パーセントの割合で増加。今後もしばらくは、順調な成長が期待できそうだ。
ネット銀行は一般の銀行と同様に、有価証券の運用によって利益を得ている。また、住宅ローンやカードローンなどのローン金利も大きな収益源だ。例えば住信SBIネット銀行は、低金利な住宅ローンや、住宅ローンの契約者に疾病保険を無料提供するなどしてシェアを拡大中。同行の16年3月末における住宅ローンの貸付残高は1.8兆円に達しており、大手地方銀行(例えば、横浜銀行の15年12月末時点における住宅ローン貸付残高は3.1兆円)に迫る勢いだ。また楽天銀行は、専業主婦やパートタイマー・アルバイターも対象にするなどしてカードローン事業を順調に拡大。同行のカードローン残高は、15年5月末で3000億円を突破している。
今後は、グループ内の企業と連携してサービス向上を目指す動きが増えそうだ。ネット銀行として最初に住宅ローン事業を手がけたソニー銀行は、同グループに属するソニー損保・ソニー生命との連携強化によって住宅ローンのシェア拡大に成功。また、楽天銀行は取引に応じて楽天スーパーポイントが貯まる「ハッピープログラム」を導入し、楽天市場などのユーザー取り込みを目指している。さらに、グループ外の企業と連携する動きもある。ジャパンネット銀行はファミリーマートとの業務提携し、Tカードと一体化した銀行カードを発行。利便性を高めることで、さらに多くの顧客を呼び寄せようとしているのだ。
セキュリティの向上も重要な課題だ。近年、インターネット口座のIDとパスワードが盗まれて不正な送金が行われるケースが多発しており、各行はさまざまな対応策を打ち出している(下記参照)。
セキュリティ向上に向けた取り組みの一例
小型機器「トークン」の配布
ジャパンネット銀行などが、取引する際に1度だけ有効なパスワードを生成する小型機器「トークン」を、契約者全員に無料配布。使い捨てのパスワード(ワンタイムパスワード)を利用することで、不正を起こりづらくしている。
スマホを活用した本人確認システム
じぶん銀行などが、パソコンで振り込みなどを行った際に、顧客のスマートフォンで承認を求めて本人確認を行う仕組みを導入。手軽にセキュリティを高める手法として注目を集めている。
ビッグデータによる不正ログイン・送金の発見
住信SBIネット銀行が、ビッグデータを活用して不正なログイン・送金を識別するサービスの導入に向けた取り組みを開始。銀行利用者の振る舞いを分析し、残高照会を繰り返すなど怪しい行動をしているユーザーをいち早く見つけ出すことができる。
このニュースだけは要チェック <新たなネット銀行が誕生する予定>
・あおぞら銀行とあおぞら信託銀行、インターネット関連企業のGMOインターネットが、ネット銀行の共同運営に関する資本業務提携を締結。2017年度中の営業開始を目指しているという。中小企業や小規模事業者、個人顧客を対象に、ITを活用したサービスを提供する予定。(2016年6月24日)
・金融庁が、小売店のレジや宅配業者の端末などから預金を引き出せるサービスを解禁する方針だと報道された。これにより、ATMが少ない地方では現金引き出しが便利になる。一方、ATMの手数料を主な収入源とする流通系のネット銀行は、ビジネスモデルの転換を迫られそうだ。(2016年1月20日)
この業界とも深いつながりが <コンビニなど他業界の企業と提携する動きが活発>
コンビニ
ネット銀行にとって、コンビニ内に設置されたATMは顧客との重要な接点
住宅メーカー
収益の柱である住宅ローン事業を拡大するため、住宅メーカーと協力する
生保・損保
生保や損保と組んで総合的なサービスを提供し、顧客囲い込みを目指す銀行も
この業界の指南役
日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門未来デザイン・ラボ コンサルタント
小林幹基氏
京都大学大学院情報学研究科修士課程修了。大手電機メーカー、ニューヨーク大学客員研究員を経て現職。専門は、海外進出戦略、事業戦略、未来洞察による新規事業開発。
取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー