業績好調だが国内市場にはかげりも。新分野保険の開発や海外展開でさらなる成長を目指す
生命保険業界では、かんぽ生命保険、第一生命保険、日本生命保険、明治安田生命保険、住友生命保険などが大手として挙げられる。一般社団法人生命保険協会によれば、2014年度における同協会加入42社の総保険料収入は37兆2223億円。前年度(34兆7382億円)に比べ、7.2パーセント増だった。15年度の保険料収入も前年を上回る水準で推移しており、生保業界は順調と言える。円安を背景に外貨建ての保険商品が好調だったほか、相続税増税を受けて死亡保険金の非課税枠を使うことを目的とした一時払い終身保険に加入する人が増えたことなどが追い風となった。
一方の損害保険業界では、10年に大規模な業界再編が行われてMS&ADインシュアランスグループホールディングスとNKSJホールディングスが発足。現在は、東京海上ホールディングスを加えた「3メガ」による寡占体制となっている。一般社団法人日本損害保険協会によると、14年度における同協会加入26社の正味保険料収入(損保会社が保険契約者から受け取った保険料から、保険契約者に払い戻した解約返戻金、積立型保険の貯蓄部分の保険料を引き、さらに他社とやりとりした再保険料を足し引きした額のこと)は8兆831億円で前年度より4.0パーセント増。自動車保険の値上げや、住宅販売増に伴う火災保険の契約増が増収に寄与した。15年度の正味保険料収入も前年を上回って推移しており、こちらも上り調子だ。
ただし増収の要因には一時的なものも多く、生保、損保業界ともに楽観はできない。今後は人口減が進み、国内市場は小さくなる危険性が大きい。また、人々の寿命が延びたり子どもを持たない人が増えたりしていることで「死亡保険」の需要は減少しているし、若者の自動車離れなどによって自動車保険のニーズも縮小傾向だ。さらに、このところ株式市場や円相場が不安定で、預かった資産の運用収益が悪化する懸念もある。そのため生保・損保各社は、「第一分野(終身保険、定期保険、養老保険など生保が扱っている保険)」、「第二分野(自動車保険や火災保険など損保が扱っている保険)」以外の分野、いわゆる「第三分野(医療保険や介護保険など。生保、損保ともに扱うことが許されている)」を強化しようとしている。
このところ目につくのが、介護分野に進出する動きだ。例えば、損保ジャパン日本興亜ホールディングスは15年10月、居酒屋チェーンワタミの子会社だった「ワタミの介護」を買収すると発表。続く12月には、介護大手であるメッセージの買収も発表した(下記ニュース参照)。東京海上日動火災保険も15年6月、子会社を通じてサービス付き高齢者向け住宅の運営事業に参入することを発表している。日本生命保険は介護最大手のニチイ学館と提携し、保険契約者に各種介護サービスを提供・紹介。各社の狙いは、成長分野である介護マーケットの取り込みや、介護保険契約者にグループ会社や提携先の介護サービスを提供することなどだ。
新たな保険商品を開発する取り組みも活発化している。例えばソニー損害保険やあいおいニッセイ同和損保は、「ビッグデータ」(データベース上に集められた巨大なデータのこと)を活用した自動車保険の提供を開始。自動車の加速・減速スピードなどをチェックし、安全運転をしている人ほど保険料を割り引く仕組みで、自動車ユーザーの関心を集めている。また、深刻な自転車事故によって高額な賠償金を請求されるケースが増えていることを背景に、自転車向けの損害賠償保険も成長が期待できる分野だ。
生保業界では、業界再編の話題に注目しておきたい。15年9月に日本生命保険が三井生命保険の子会社化を発表(下記ニュース参照)。今後、また、国内生保が海外の保険会社を買収して海外事業を強化する動きも目立っている(下記データ参照)。今後も、各社が国内外でM&Aを行う可能性は十分にあるだろう。
国内生保による海外展開が加速
第一生命保険がアメリカの生命保険会社プロアクティブ生命を買収(買収金額:約5800億円)
明治安田生命保険がアメリカの生命保険会社スタンコープ・フィナンシャル・グループを買収(約6200億円)
住友生命保険がアメリカの生命保険会社シメトラ・フィナンシャルを買収(約4700億円)
日本生命保険がオーストラリアのナショナルオーストラリア銀行傘下であるMLC Limitedの生命保険事業を買収(約2000億円)
※日本の生保がアメリカなど海外の保険会社を買収し、海外展開を進める動きが活発化。また、東京海上日動火災保険も2015年6月、アメリカのHCCインシュアランス・ホールディングスを買収している。
このニュースだけは要チェック <日本生命保険による三井生命保険の子会社化は大ニュース>
・日本生命保険が三井生命保険を買収すると発表。2016年3月末までに経営統合を終える予定で、三井生命保険の社名やブランドは残すという。両社が持っている保険商品や販売網を活用し、販売力を強化することが狙いとみられる。(2015年9月11日)
・損保ジャパン日本興亜ホールディングスが、介護大手のメッセージを買収すると発表。これに先立つ10月にはワタミから介護事業を買収しており、介護事業業界ではニチイ学館に次ぐ2番手に躍り出る。(2015年12月18日)
この業界とも深いつながりが<銀行窓口で保険商品を売る動きがさらに進む>
メガバンク
多くの利用者が訪れる銀行の窓口は、保険商品の重要な販売チャネルとなっている
介護サービス
介護保険契約者の取り込みなどを目指し、介護業界に進出する保険会社が続出
IT(情報システム系)
ネット系生保・損保はもちろん、一般の保険会社でもネットサービスの拡充は重要
この業界の指南役
日本総合研究所 シニアマネジャー 高津輝章氏
一橋大学大学院商学研究科経営学修士課程修了。事業戦略策定支援、事業性・市場性評価、グループ経営改革支援、財務機能強化支援などのコンサルティングを中心に活動。公認会計士。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか