国内市場はいずれ縮小の見込み。各社は新たな需要の掘り起こしや海外市場に活路を求める
農林水産省の「平成27年度食品産業動態調査」によれば、2014年 の「食品製造業 製造品出荷額等」は、前年(29兆2015億円)より3.3パーセント増の30兆1617億円。東日本大震災が起きた11年以降、3年連続の成長となった。また、総務省の「家計調査」を見ても食料支出は4年連続で増えており、このところの食品業界はおおむね堅調だと言える。ただし、長期的には日本国内の人口減少に伴い、国内市場は縮小傾向となる見通しだ。また、輸入原料の高騰や人件費上昇によるコスト高も悩みの種。カゴメや森永製菓などが商品の値上げを強いられるなど、各社は利益確保が難しい状況となっている。
こうした中、各社はさまざまな戦略で成長を目指している。1つは、多様化する消費者ニーズをつかむことで、新たな需要を掘り起こす取り組みだ。例えば、近年の健康・美容志向の高まりを受け、栄養バランスのとれたシリアル食品の需要が拡大している。代表格は、ヒット商品となったカルビーのグラノーラ食品シリーズ「フルグラ」。日清食品などもシリアル食品に力を入れ、市場をけん引している。また、15年4月から開始された機能性表示食品(キーワード参照)制度を活用する動きもある。雪印メグミルクは、既存商品のヨーグルトを「内臓脂肪を減らす」機能性表示食品としてリニューアルし、売り上げを大きく伸ばした。日本水産も、「中性脂肪を下げる」機能性表示食品として「海から、健康EPA life(エパライフ)」ブランド商品を販売開始し、力を入れている。
高齢化が進み、単身世帯や共働き世帯が増えている状況に対応し、「簡便調理」や「使い切り」需要を取り込もうとする動きも盛んだ。エバラ食品工業では、使い切りのポーション容器を採用した「プチッと調味料」の商品ラインナップを拡充した。日本ハムは、レンジで加熱するだけで調理ができる「レンジ調理革命」シリーズを販売している。また、少子化が脅威となる製菓会社では、なつかしの商品を大人向けにリニューアルする動きを見せている。例えば明治は、甘さ控えめで良質なカカオを使用した「大人のきのこの山」と「大人のたけのこの里」を販売中だ。
国内市場の縮小に備え、経済成長が著しいASEAN向けの商品を強化するなど、グローバル化に力を入れる企業も多い。キッコーマンや味の素などはいち早く海外進出を進めており、実績を挙げている。また、イスラム教徒の人口が多いASEANでは、ハラル(キーワード参照)対応が重要だ。キユーピーは、海外子会社のキユーピーマレーシアが製造したハラル認証取得商品「マヨネーズ ジャパニーズスタイル」を、日本国内で販売開始。近年増加する日本在住のイスラム教徒、およびイスラム圏からの訪日外国人の需要を見込んでいる。このように、現地のさまざまなニーズに対して地道な対応を行うことが、海外市場での成長のカギを握りそうだ。
食品業界志望者が知っておきたいキーワード
機能性表示食品
「おなかの調子を整える」「脂肪の吸収をおだやかにする」など、保健に関する特定の目的が期待できる食品の機能性を表示できる食品。販売の60日前までに科学的根拠を示しながら届け出を行えばよく、後述の特定保健用食品に比べて販売へのハードルは低い。
特定保健用食品
「トクホ」とも呼ぶ。機能性表示食品と同様、保健に関する特定の目的に役立つ成分を含んでいる食品。ただし、商品ごとに試験を行って有効性・安全性の審査を受ける必要があるため、販売許可が下りるまでかなりの期間がかかる。
健康食品
機能性表示食品や特定保健用食品のように国が定めた基準を満たしているわけではないが、広い意味で健康の保持増進に役立つ食品を「健康食品」と呼んで販売するケースもある。
ハラル
ハラールとも呼ぶ。イスラム教の戒律で摂取が禁じられている豚肉、アルコールなどを使っていないなど、イスラム法に則って製造されたものであると認めるもの。例えば、インドネシアでは全人口2.5億人の9割近くがイスラム教徒とされており、ビジネスチャンスは大きい。
このニュースだけは要チェック <健康関連の研究が積極的に進められている>
・明治は、「コラーゲンペプチドおよびミルクセラミド入りヨーグルト」が紫外線に対する肌の抵抗性を高め、紫外線による肌の赤みや色素沈着を抑えるとの研究成果を発表。同社のヨーグルト製品への応用も進みそうだ。(2016年8月24日)
・雪印メグミルクは、乳酸菌の一種である「ガセリ菌SP株」が寿命延長効果をもたらすメカニズムを解明したと発表。体内で酸化と抗酸化のバランスが崩れ、酸化に傾くことによって生じる「酸化ストレス」への抵抗性を向上させる働きがあるという。(2016年8月10日)
この業界とも深いつながりが <コンビニは重要な販路>
コンビニ
重要な販売チャネルだが、コンビニのPB食品は食品メーカーにとって脅威
総合商社
原材料の輸入する際のパートナー。海外市場への進出時に協力するケースも
専門商社
国内市場における食品の流通は、「食品卸」と呼ばれる専門商社が担っている
この業界の指南役
日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門成長戦略グループ コンサルタント 堀内くるみ氏
ケンブリッジ大学大学院化学工学科修士課程修了。企業のビジョン作り、経営戦略・事業戦略策定支援、マーケティング戦略策定支援などのコンサルティングを中心に活動。
取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー