各社は「非資源ビジネス」に注力。海外での病院経営や航空機リースなどが拡大している
総合商社は、特定の分野に的を絞った「専門商社」とは異なり、幅広い分野で取引を行っている企業。エネルギー、金属、インフラ、機械、化学品、繊維、食品、情報・通信サービスなど、実に多彩な商材を手がけている。慣習的に、三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅の5社を「5大商社」、豊田通商、双日を加えた7社を「7大商社」と呼ぶことが多い。
総合商社にとって、収益の柱は2つある。1つは、原料や商品などの取引にかかわり、手数料を得る「トレーディング」。もう1つは、有望な事業を手がける企業に投資を行い、株式の配当や、投資先の成長後に株式を売却することなどで利益を得る「事業投資」だ。20世紀中において、総合商社の収益はトレーディングが大半を占めていたが、近年では事業投資の割合が高くなっている。
特に2000年以降、総合商社に大きな利益をもたらしたのが「資源ビジネス」だ。BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国の4カ国の総称)など新興国の成長により、石炭・鉄鉱石・銅などの資源需要が世界的に増加。これに応じ、各社は資源権益を積極的に買収して利益を上げた。しかし15年以降、景気減速に伴う需要縮小などにより、資源価格は低迷。15年度決算では、資源領域の比重が高かった企業を中心に、減損処理などを迫られることになった(ニュース参照)。こうした中、各社とも「非資源」領域に力を入れている。例えば、三菱商事は「食料、自動車、インフラ」、伊藤忠商事は「食料、機械、繊維」、住友商事は「自動車、電力、メディア」などの事業領域に注力しており、今後も各社はそれぞれが強みとする非資源領域に取り組んでいくだろう。
新たな領域に挑戦する動きも加速している。例えば、海外での病院経営は代表的な取り組みの一つ。三菱商事は14年から、フィリピンを中心としたアジアにおいて高度医療を担う病院の経営に参画している。また、以前からアジア富裕層向けの病院経営に参画していた三井物産は、16年、インドやマレーシアなどで約30カ所の病院を運営するコロンビア・アジアグループに出資して中間層向けの病院経営にも乗り出し始めた。また、同社はシンガポールで透析を行う病院にも出資している。
航空産業への進出も活発だ。航空機リースの分野では、住友商事や三菱商事が世界的に大きな存在感を発揮。双日もシンガポールの航空機リース会社に出資(ニュース参照)するなど、各社が取り組みを拡大している。また、豊田通商は東京急行電鉄、前田建設工業などと共に、仙台空港民営化に伴う空港運営事業に参入した。滑走路をはじめとする施設の所有権を国に残したまま、運営の権利だけを民間に売却する「コンセッション方式」(キーワード参照)をとっていることでも注目されている。
総合商社は次世代の収益の柱となる事業を育てるため、スタートアップ企業・ベンチャー企業への投資にも積極的だ。そこで総合商社を目指す人には、有望なビジネスを発掘したり構想したりする力や、社会全体を巻き込みながら新ビジネスを推進する力が求められるだろう。加えて、投資先の経営陣と一緒に事業の発展を推進する「ハンズ・オン」(キーワード参照)型の事業経営力も問われるはずだ。また、今まで以上に事業ポートフォリオ(キーワード参照)を意識しながら、リスクマネジメントを徹底し、迅速な意思決定をすることも求められる。
総合商社志望者が知っておきたいキーワード
コンセッション方式
公共施設の所有権を国や公的機関に残したまま、民間事業者に対してインフラなどの事業運営・開発に関する権利を長期間にわたって与える仕組みのこと。事業に必要な資金は民間事業者が負担し、利用者から料金を徴収するなどして回収する。公的機関が施設を運営する場合に比べて収益の可能性が高まる一方、企業側には長期的に収益を生み出す力やリスクマネジメント力が求められる。
ハンズ・オン
Hands-on。ビジネスの世界では、企業を買収したり投資を実行したりする際に、買収元企業が投資先企業の経営層に人材を派遣し、経営に参加するやり方を指す。一方、投資先企業に任せることは「ハンズ・オフ」と呼ぶ。
事業ポートフォリオ
さまざまな事業の組み合わせ方を指す。複数の事業を並行して手がけることで、特定事業の業績が落ち込んだときにも、他分野の売り上げでカバーすることが可能。また、事業間の相乗効果(シナジー)が生まれることも期待できる。
このニュースだけは要チェック <資源ビジネスに関わるニュースに注目>
・住友商事が、2016年3月期の連結最終損益が745億円の黒字に終わったと発表。当初は1000億円程度の黒字を見込んでいたが、ブラジルの鉄鉱石事業、オーストラリアの石炭事業などで損失を被ったことで黒字額が減った。(2016年5月9日)
・双日が、シンガポールの中古航空機リース・販売会社のキーストーン・ホールディングスと資本提携すると発表。アジア新興国を中心に航空需要は急激に拡大しており、航空機リースの市場はさらに拡大すると見込まれている。(2016年2月22日)
この業界とも深いつながりが <幅広い業界で事業を手がけている>
食品
商社が食品メーカーに出資し、バリューチェーンの一環にする動きが盛ん
電力・ガス
海外の発電プロジェクトなどでは協力関係にあるが、国内小売事業では競合
マンションデベロッパー
不動産関連会社や鉄道会社と協力し、空港運営などのコンセッション事業を受託
この業界の指南役
日本総合研究所 未来デザイン・ラボ シニアマネジャー
田中靖記氏
大阪市立大学大学院文学研究科地理学専修修了。同大学院工学研究科客員研究員。専門は、未来洞察、中長期事業戦略策定、シナリオプランニング、海外市場進出戦略策定など。主に社会インフラ関連業界を担当。また、インド・ASEAN市場の開拓案件を数多く手がけている。
取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー