出版編・2016年【業界トレンド】

市場は縮小傾向。しかし、電子書籍を中心とした定額読み放題サービスなどに期待ができる

全国出版協会・出版科学研究所の『2016年版  出版指標年報』によると、15年における書籍・雑誌の出版販売金額(紙媒体)は、対前年比 5.3パーセント減の1兆5220億円。市場規模は右肩下がりの傾向が続いており、ピークだった1996年(約2兆6500億円)に比べて約6割の水準にまで落ち込んでいる。

内訳を見ると、書籍の出版販売金額は7419億円で、対前年比1.7パーセント減にとどまった。一方、雑誌は7801億円で対前年比8.4パーセントの大幅減。雑誌分野は18年連続でマイナスとなっており、非常に苦しい状況が続いている。出版取次(とりつぎ。キーワード参照)大手の日本出版販売では、15年度決算において書籍の売上高が雑誌の売上高を32年ぶりに上回り、「雑高書低」(雑誌の売り上げが大きく書籍の売り上げが小さい)の状況に変化が起きつつある。休刊に追い込まれる雑誌も多い。16年には、過去に一大ブームを巻き起こした女性向けファッション誌『AneCan』や、小学生の定番雑誌だった小学生シリーズ(『小学一年生』を除く)などが休刊となった。

出版不況の背景には、メディアの多様化による消費者の活字離れがあるとされる。加えて、Amazon.co.jpや楽天ブックスといったネット書店の参入により、競争は激しくなるばかりだ。これらの影響を強く受けているのが、紙媒体を主戦場とする出版取次と書店である。近年、苦況に立たされた出版取次の業界再編が進行中。大手取次大阪屋と粟田屋との合併や、大手取次太陽社の自己破産といった暗い話題が目立つ。また、首都圏の書店チェーン芳林堂書店のように、倒産する書店も珍しくない。

一方、今後も拡大が見込まれるのが電子書籍の分野だ。『2016年版 出版指標年報』によれば、国内電子書籍の市場規模は1502億円(うち、コミックが7割を占める)。紙媒体に比べればまだ小さいものの、対前年比31.3パーセント増と急成長している。こうした流れに、出版社も急ピッチで対応。電子書籍を自社サイト上で提供したり、電子書籍ストアへのコンテンツ提供を積極的に行ったりする出版社が増えているところだ。例えば集英社では、自社のマンガポータルサイト「集英マンガネット」やテーマ別のスマートフォンアプリで電子書籍を販売。そういった取り組みが功を奏したのか、15年度決算で雑誌・書籍・広告の売上高は減少したものの、電子書籍などが含まれる「Web・版権・物販などの事業」が好調で増収増益を記録した。

また、近年目立つのが「電子書籍の読み放題サービス」だ。NTTドコモの定額雑誌読み放題サービス「dマガジン」は、16年に契約件数300万を突破(ニュース参照)。楽天も16年に「楽天マガジン」を発表するなど、新規参入が続いている。一方、書籍・雑誌のすべてをカバーして話題となったAmazon.co.jpの「Kindle Unlimited」は、人気が集中して運営者に想定以上の負担がかかる事態が生じた。定額の読み放題サービスは大きな流れになる可能性もあるが、それには、関係する企業同士のルールを整備するといった努力が欠かせないだろう。

流通においても変革が進んでいる。従来の出版業界では、「再販売価格維持制度」(キーワード参照)によって書籍や雑誌の定価販売が義務付けられていた一方、店頭で売れ残った書籍・雑誌は出版社に返品することができた。しかし近年、返品率は上昇傾向にあって出版社の経営を圧迫。そこで最近注目されているのが、発売から一定期間を過ぎた書籍・雑誌を書店が自由に値付けできる「時限再販」制度だ(ニュース参照)。ほかにも、「書店が出版社に返品しないことを前提に仕入れ値を下げる・書店での割引を許可する」などのケースも出てきている。返品率改善と売り上げ増加を目指し、出版社・出版取次・書店の間で新たな関係性を構築する取り組みには、今後も注目が必要だ。

出版業界志望者が知っておきたいキーワード

出版取次
出版社と書店の間で書籍・雑誌などの流通を手がける企業のこと。単に「取次」と呼ばれることもある。出版業界では、出版社・出版取次・書店が売り上げを分け合っており、強い関係性で結ばれている。

再販売価格維持制度(再販制度)
出版社などが書店に定価販売を義務付ける代わりに、所定期間内であれば書店が出版取次を通じて出版社に書籍を返品できる仕組み。出版社側には商品の値崩れを防ぐメリットが、書店側にとっては在庫リスクを小さくするメリットがある一方、返品率の高まりが出版社の収益を圧迫しつつある。

電子書籍の閲覧用端末
電子書籍を読むための端末としては、iPad(アップル)などのタブレット端末と、Amazon Kindle(Amazon.com)やKobo(楽天)などの専用端末が広く使われている。タブレット端末には汎用性の高さという長所があるが、専用端末の方が読みやすさの面で優位と言われる。

マルチメディア商品
出版社が書店店頭で発売するために開発した、書籍や雑誌以外の新しい商品。例えば、14年には『松岡修造カレンダー』(PHP研究所)が累計100万部を突破する大ヒットとなった。「書店で本以外の商品を売る」という考え方は、今後も求められていくだろう。

このニュースだけは要チェック <電子書籍にかかわる取り組みが活発に>

・NTTドコモが月額400円で提供している雑誌読み放題サービス「dマガジン」が、14年6月のサービス開始から2年弱で300万契約を突破。雑誌1冊程度の料金でたくさんの雑誌が読み放題になるとあって、人気を集めている。(2016年3月13日)

・取次大手の日本出版販売やトーハンが主体となり、発売から一定期間が経過した雑誌を書店が自由に値付けできる「時限再販」を全国約600書店で導入。2カ月間の期間限定だが、結果次第では、今後定着する可能性もあるだろう。(2016年8月1日)

この業界とも深いつながりが <SNSとのつながりは強くなっている>

ポータルサイト・SNS
マンガ・書籍などを宣伝するためにSNS を利用するケースが増加

eコマース
楽天やAmazonなどの大手eコマース企業が、電子書籍端末に参入

携帯電話キャリア
スマートフォンなどで楽しめる雑誌定額読み放題サービスが人気に

この業界の指南役

日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門未来デザイン・ラボ コンサルタント
市岡敦子氏

市岡敦子

東京大学大学院農学生命科学研究科国際開発農学専攻修士課程修了。未来洞察による新規事業構築支援、官公庁・自治体におけるビジョン策定支援などのコンサルティングを中心に活動。

取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー

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