既存顧客を引き留める取り組みが盛んに。電気小売業に乗り出す動きにも注目しよう
携帯電話キャリア(単にキャリアとも言う)とは、音声通話やインターネット接続などの携帯電話関連サービスを提供する事業者のこと。国内の大手事業者としては、NTTドコモ、au、ソフトバンクの3社が挙げられる。社団法人電気通信事業者協会(TCA)によると、2016年3月末における大手キャリア3社の携帯電話契約数は、対前年比5.5パーセント増の1億5648万件。10年前の06年3月末(9179万件)に比べ、約70パーセントも伸びた。
携帯電話の契約数は、すでに日本の人口(約1億2700万人)を上回っている。しかし、スマートフォンなどを複数持つ(2台持ち)人が増え、PC・タブレット端末などに接続して使われるデータ通信端末の需要も伸びていることで、市場は順調に拡大中。競争は激しさを増しているが、大手各社は10~20パーセントという高い営業利益率を確保している。なお、16年3月末時点でのシェアは、NTTドコモが45.3パーセント(前年同時期は45.0パーセント)、auが29.3パーセント(前年は29.4パーセント)、ソフトバンクが25.3パーセント(前年は25.5パーセント)だった。ここ数年はソフトバンクのシェアが拡大し、NTTドコモのシェアが減る傾向にあったが、15年は逆にNTTドコモが伸びた。
契約者数を増やすためには、新規契約者を取り込むだけでなく、既存顧客をつなぎ止める必要がある。そこで各社は、「契約後2年以内に解約すると解約金がかかる」「家族間通話を無料にする」「家族間でデータ通信可能な容量を分け合える」などの仕組みを設け、顧客の流出を防ごうとしてきた。長期利用者に対して値引きやデータ容量追加を行い、長く利用してもらおうとする取り組みも盛んだ。そして最近目立つのが「セット割引」を提案する動き。16年4月の電力自由化(キーワード参照)を受けてauとソフトバンクは一般家庭向けの電気小売業に参入し、携帯電話と電気のセット割引料金を打ち出している。こうしたサービスは料金が割安になる半面、他社の携帯電話に乗り換えようとするとセット割引が受けられなくなったり、電力などを含めた切り替え手続きが煩雑になったりするデメリットがある。そのため、解約率低下に歯止めがかかると期待が高まっているのだ。
この業界では契約数だけでなく、契約者一人当たりの支払金額(ARPUと呼ばれる。キーワード参照)も経営を左右する重要な指標。しかし、各社のARPUは右肩下がりの傾向にある。原因の一つは、LINEやSkypeなどの無料通話サービスが登場し、音声通話が減ったことにある。そこで各社は音声通話定額プランを設定し、音声通話料の減少に歯止めをかけようとしている。一方、これまで定額制のことが多かったデータ通信料についても見直しが進行中。スマートフォンの普及で映像など大容量のデータをやりとりする機会が増え、携帯電話キャリアにはインフラ整備などの負担が重くのしかかるようになってきた。そこで、一定以上のデータ通信を行ったユーザーには通信制限を行い、制限解除のために追加料金を請求する料金体系が主流となっている。
「格安スマホ」としてMVNO(キーワード参照)が拡大していることは、大手3社にとって脅威だ。MVNO各社は、音声通話が不要な人、データ通信量が少ない人、通信速度が遅くても構わない人などをターゲットに、安価な料金プランで訴求している。MVNOのシェアが拡大すると、大手3社への値下げ圧力は高まることだろう。そうなれば、ARPUのさらなる低下は避けられない。
こうした中、携帯電話以外の事業を強化しようとする試みもある。例えばNTTドコモは、グループ企業のらでぃっしゅぼーやなどと連携してダイエットやメタボ予防に最適な「健康弁当」の販売を行うなど、健康や生活に関連した事業を強化している。ソフトバンクは、「Pepper(ペッパー)」に象徴されるロボット事業を積極的に展開。また、auは保険事業に力を入れつつある(ニュース参照)。
携帯電話キャリア志望者が知っておきたいキーワード
電力自由化
2016年4月、一般家庭向けの電力小売りが自由化された。これにより、ガス会社や石油元売り・販売会社、新興の電力専業会社などが参入。携帯電話キャリアであるau(auでんき)とソフトバンク(ソフトバンクでんき)も参入を果たした。
ARPU
Average Revenue Per Userの略。携帯電話の1契約あたり売上高のことで「エーアールピーユー」あるいは「アープ」と読む。基本料金、音声通話料、データ通信料などからなる。例えばNTTドコモの場合、2012年3月時点のARPUが月5140円だったのに対し、16年3月は4420円だった。このうち音声ARPUは、12年3月が2200円だったのに対し、16年3月は1090円と大きく落ちこんでいる。
MVNO
Mobile Virtual Network Operator(仮想移動体通信事業者)の略。携帯電話キャリアからネットワークを借りて通信事業を行う事業者のこと。大手キャリアに比べ、低料金で携帯電話サービスを提供している。OCNやFREETELといった事業者がテレビCMを展開したことで、注目が高まっている。
ISP
Internet Service Providerの略で、インターネット接続サービスを手がける事業者のこと。大手3社は傘下にISPを抱えており、インターネット回線と携帯電話のセット割引サービスを提供している。携帯電話を解約するとインターネット使用料の割引が受けられなくなることから、顧客囲い込みに一役買っている。
このニュースだけは要チェック <長期利用者優遇サービスの行方に注目>
・NTTドコモが、長期利用者を優遇する新料金体系を発表。2年定期契約満了後に解約金がかからない「フリーコース」と、解約金が必要な「ずっとドコモ割コース」があり、後者を選んだ場合は大きな割引やポイント付与が受けられる。これにより、解約率の低下が期待できそうだ。(2016年4月14日)
・auが新たなネット型金融サービス「auの生命ほけん」、「auの損害ほけん」、「auのローン」を開始すると発表。医療保険、自転車向け保険、ペット保険、住宅ローンなどを提供する。スマートフォンは消費者にとって身近なツールであるため、生活関連のサービスを展開するチャンスが大きい。(2016年2月17日)
この業界とも深いつながりが <電力小売業への参入で、電力会社がライバルに>
デジタル家電
スマートフォンを製造する電機メーカーとは非常に深い関係
電力・ガス
大手通信キャリアが電力小売業に参入し、電力会社などと競合に
ポータルサイト・SNS
LINEやtwitterといったSNSの普及は、音声通話料減少の一因
この業界の指南役
日本総合研究所 シニアマネジャー 吉田賢哉氏
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか