中国の輸出拡大で競争環境が激化。国内各社は設備の集約や技術力向上で競争力強化を狙う
鉄鋼メーカーは、鉄の生産方法によって「高炉」を使って鉄鉱石から鉄を取り出す「高炉メーカー」と、鉄スクラップを「電炉」で溶かして鉄を作る「電炉メーカー」とに大別される。また、電炉メーカーの中で、鉄にさまざまな元素を加えた「鉄合金」を生産する企業を「特殊鋼メーカー」とも呼ぶ。国内の高炉メーカーは、新日鐵住金、JFEホールディングス、神戸製鋼所、日新製鋼の4社。このうち、2017年3月に日新製鋼が新日鐵住金の子会社となる予定だ(ニュース参照)。また、電炉メーカーの代表格は東京製鐵や共英製鋼など、特殊鋼メーカーの代表格は大同特殊鋼、山陽特殊製鋼などである。なお、日本の粗鋼(鉄に圧力をかけて板や棒などの形にする「圧延」や、鉄を叩いて形を整えながら強度を高める「鍛造」などの加工を施す前の鋼)生産量の4分の3程度を高炉メーカーが占めている。
経済産業省の「鉄鋼・非鉄金属・金属製品 統計年報」によれば、08年に1億1874万トンあった国内粗鋼生産量は、リーマン・ショック後の09年に8753万トンまで激減した。その後、アベノミクス効果や、東京オリンピック・パラリンピック開催で建設関連の投資が活発化したことを受け、14年には1億1067万トンにまで回復したが、15年には1億513万トンと再びマイナスに転じている。
国内生産量が頭打ちになっているのは、世界的に価格競争が激化しているからだ。特に目立つのが、中国メーカーの存在である。世界鉄鋼連盟によると、00年の中国での粗鋼生産量は1億2724万トン。その後、中国経済の発展によって中国国内での鉄鋼需要が高まったのに伴い、15年における中国国内の粗鋼生産量は8億383万トンにまで急伸した。ところが、15年前後から中国経済が急速に冷え込んで内需が低迷したため、中国の鉄鋼メーカーは余剰生産分を安値で輸出するようになったのだ。このため、世界中で鋼材価格が下落し、日本を含め世界各国の鉄鋼メーカーは苦境に立たされている。こうした中、アメリカやEUは、中国の鉄鋼製品に対してアンチダンピング課税(不当な安売りを防ぐために関税をかけること)を行っている。これに対し、中国側はWTO(世界貿易機関)の協定違反だとして提訴するなど反発を強めている。
こうした中、日本の鉄鋼メーカーは生産設備を集約し、メンテナンス費用の削減や稼働率の向上によるコストの削減に努めている。例えば、新日鐵住金は16年3月、君津製作所(千葉県君津市)の3基の高炉のうち1基を休止。また18年度末には八幡製作所小倉地区(福岡県北九州市)の高炉1基を休止し、八幡製作所戸畑地区(福岡県北九州市)に設備を集約するとしている。また、神戸製鋼所は17年に神戸製鉄所(兵庫県神戸市)の高炉を休止するため、加古川製鉄所(兵庫県加古川市)の増強を進行中。そして日新製鋼は、呉製鉄所(広島県呉市)の高炉2基のうち1基を19年度末までに拡大改修し、残りの1基を休止すると発表している。
世界中のライバル企業に対し、競争優位を確保する動きにも注目しておきたい。例えば、エコカーの開発を進めている自動車業界では、薄くても十分な強度を持ち、軽くて燃費の良い自動車造りに貢献できる「高張力鋼板」(ハイテン。キーワード参照)のニーズが高い。従来、この分野は日本メーカーが得意としていたが、近年は中国・韓国メーカーの技術力が向上しており、日本勢と遜色のない品質を実現しつつある。そこで新日鐵住金、JFEスチール、神戸製鋼所の3社は国家プロジェクト「革新的新構造材料等研究開発」で、強度がいっそう高く加工性に優れる「超高張力鋼板(超ハイテン)」の開発を進めている(ニュース参照)。コスト面で新興国に劣る日本メーカーにとって、技術力の向上や、他社との提携・合併による競争力の維持が、今後の成長のカギになりそうだ。
鉄鋼業界志望者が知っておきたいキーワード
アンチダンピング(反ダンピング)
WTO協定(世界貿易機関が定めた、貿易に関連するさまざまな国際ルール)で認められた貿易救済措置の一つ。他国が不当に安い価格で輸出をした場合(=不当廉売)、輸入国の政府が国内産業を保護するために関税を課すことができる。
高張力鋼板(ハイテン)、超高張力鋼板(超ハイテン)
「引張強度」(ひっぱりきょうど。引っ張る力が加わったときの物体の強さのこと)が高い鋼板のこと。一般的に、引張強度が340~790メガパスカルの鋼板を「高張力鋼板」(ハイテン)、980メガパスカル以上の鋼板を「超高張力鋼板(超ハイテン)」と呼ぶが、その定義は必ずしも厳密ではない。一般の鋼板に比べ、薄くても十分な強度が得られるため、自動車の車体などに使われて軽量化に貢献している。
油井管
石油や天然ガスを採掘するために使われる鋼管のこと。地下や海中などで使われるため、腐食に強いことが求められる。そこで、製造に高い技術力が求められる、継目のない「シームレス鋼管」(継目無鋼管)が多く用いられている。
このニュースだけは要チェック <新日鐵住金による日新製鋼の子会社化は大ニュース>
・公正取引委員会は、新日鐵住金が進めている日新製鋼の子会社化を承認した。新日鐵住金は、2012年に新日本製鐵と住友金属工業が経営統合して生まれた企業で、今回の日新製鋼子会社化によってさらなる経営規模の拡大と合理化を目指している。(2017年1月30日)
・自動車の軽量化を目指して超高張力鋼板(超ハイテン)の開発を進めていた新日鐵住金、JFEスチール、神戸製鋼所の3社が、引張強度1.5ギガパスカル級、延性(伸び)20パーセントの超高張力鋼板の開発にめどが立ったと発表。従来は22年度に開発目標の達成を目指していたが、開発が順調に進んで17年度末までに実現できる見通しとなった。(2017年1月24日)
この業界とも深いつながりが <自動車業界とのつながりは強い>
自動車メーカー
自動車向けの鋼板は、鉄鋼メーカーの売り上げの中で大きな割合を占める
建設
大規模なビルや橋を建設する際には、大量の鉄鋼が必要となる
海運
鉄の原料である鉄鉱石やコークスは、大型の輸送船で輸入されることが多い
この業界の指南役
日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 未来デザイン・ラボ コンサルタント
小林幹基氏
京都大学大学院情報学研究科修士課程修了。大手電機メーカー、ニューヨーク大学客員研究員を経て現職。専門は、海外進出戦略、事業戦略、未来洞察による新規事業開発。
取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー