石油編・2017年【業界トレンド】

国内需要の縮小、原油価格下落などに対応するため、「元売り」同士の経営統合への動きが活発に

石油業界は、原油・天然ガスの探鉱・開発・生産を手がける企業(以下「石油開発専業会社」)と、その後の精製・元売り・販売(以下「石油元売り」)を手がける企業とに大別される。国内の石油開発専業会社としては、国際石油開発帝石や三井海洋開発などが代表格。また、石油開発事業に出資して資源権益(資源開発に加わることにより、出資額などに応じた資源や配当金を得る権利のこと)を確保している総合商社なども、この分野の一角に食い込んでいると言えるだろう。一方、国内の石油元売りとしては、JXTGホールディングス、出光興産、昭和シェル石油、コスモ石油などが挙げられる。

近年、石油業界はさまざまな環境変化に直面している。まず国内では、石油需要の落ち込みに歯止めがかからない状況だ。日本では、1970年代に起きた「オイルショック」(世界的に起きた原油価格高騰を指す)を受け、石油火力発電から原子力・天然ガス火力発電などへの切り替えが進んだ。また、地球温暖化対策のための省エネが進んだこともあり、1999年度をピークに石油需要は減少傾向が続いていた。さらに近年では、都市部を中心とした若年層の車離れやエコカーの普及などにより、ガソリン・軽油の需要が低下。今後も人口減少などによって、石油需要はさらに小さくなると予測されている。経済産業省の「資源・エネルギー統計」によると、1995年度の石油需要(燃料油合計)は2億4540万キロリットル。ところが、2005年度には2億3610万キロリットル、2010年度には1億9601万キロリットル、2015年度には1億8052万キロリットルと減少傾向だ。そこで経済産業省は、需要と供給能力の差を小さくするため、石油元売りに対して製油所の精製能力削減を求めている。

原油価格の低下も、石油業界に大きな影響を与えている。原油価格の指標とされる「WTI原油価格」(下記キーワード参照)は、2013年7月から2014年7月まで、1バレルあたり100米ドルを超える水準で推移していた。ところが、アメリカでシェールガス(下記キーワード参照)の採掘が進んだため、世界的に石油の需要が低下。それにもかかわらず、中東の主要産油国は市場シェア確保にこだわり、生産調整を行わなかったため、供給過剰が起きた。その結果、WTI原油価格は2015年1月に1バレルあたり50米ドルを割り込み、2016年1月には1バレルあたり30米ドルを下回る場面もあった。これにより、石油開発専業会社は採掘事業の採算性が悪化。また石油元売りも、ガソリン価格の値下がりによる利益率の低下などに悩んでいる。

2016年12月、OPEC(石油輸出国機構)が15年ぶりの減産を行うことで合意。供給過剰解消の期待が膨らんだことで、2017年に入ってからのWTI原油価格は1バレルあたり40~50米ドル前後に回復した。しかし、中国・欧州などで経済成長が頭打ちになっており、原油需要の先行きには不透明な部分も多い。

このような厳しい状況の中で、石油開発専業会社は財務体質の改善に努めている。例えば国際石油開発帝石は、開発や探鉱への投資を抑制し、採掘や輸送にかかるコストの見直しなどによる収益改善に努めてきた。一方、石油元売り各社は石油以外のエネルギー分野にも進出を強め、売り上げ確保を目指している。例えば昭和シェル石油は、2016年4月から家庭向けの電力小売り事業に参入し、電気の契約者が給油した際のガソリン代を割り引く料金プランを開始した。また、出光興産は再生可能エネルギーに力を入れており、2017年3月からは大分県玖珠郡で地熱発電所(下記キーワード参照)の稼働を始めている。なお、石油元売りの中には、ガソリンスタンドを「災害時のエネルギー供給拠点」に変えることで付加価値アップを目指すところもある。

石油元売り各社による、業界再編に向けた動きも活発だ。2015年12月には、業界最大手だったJXホールディングスが、同3位であった東燃ゼネラル石油と経営統合をする方針で基本合意。2017年4月には、ガソリンの国内シェアで50パーセントを超すJXTGホールディングスが発足した(下記ニュース参照)。一方、2015年7月に経営統合の基本合意を交わしていた出光興産と昭和シェル石油については、経営統合の動きに不透明感が出てきた(下記ニュース参照)。経営統合が実現するか、それとも白紙撤回されるかで、業界は大きな影響を受けるため、今後の動きにはぜひ注目しておきたい。

石油業界志望者が知っておきたいキーワード

WTI原油価格
原油価格の代表的な指標。ウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)は、アメリカ合衆国南部のテキサス州とニューメキシコ州を中心に産出される原油の総称。ニューヨーク・マーカンタイル取引所 (NYMEX) で取引が行われており、WTI原油価格はこの取引価格で決まる。

シェールガス
地中深くの頁岩層(けつがんそう。別名シェール層)から採れる天然ガスのこと。アメリカなどで採掘が盛んになっており、シェールガス由来のエチレン(ポリエチレンなど、さまざまな化学製品の原料となる物質)などの生産が増え、石油需要を奪っている。

地熱発電
再生可能エネルギーの一種。主に火山活動による地熱を用いて行う発電のことで、地中深くから取り出した蒸気で直接タービンを回し発電する。日本は火山帯に属しているため、地熱発電に対する期待は大きい。

このニュースだけは要チェック<業界再編の動きに注目すべし>

・JXホールディングスと東燃ゼネラル石油が経営統合を行い、JXTGホールディングスが発足。ガソリンの国内販売シェアが約5割に達する巨大な石油元売りが誕生した。一方、出光興産、昭和シェル石油、コスモ石油といった競合がどう対応するのか注目されている。(2017年4月1日)

・経営統合計画を延期していた出光興産と昭和シェル石油が、原油調達などの事業で提携すると発表した。原油調達やガソリンなどの精製、物流といった分野で協力し、3年以内に年250億円以上の利益押し上げを目指す。提携によって効果を生み出し、経営統合反対派の理解を得るのが狙いとみられる。(2017年5月9日)

この業界とも深いつながりが<電力分野とのかかわりが強まりそう>

化学
化学品の生産には、ナフサ・エチレン・ベンゼンといった石油由来の原料が使われている

総合商社
石油の権益確保や採掘などで協力する機会が大。合弁企業を設立するケースもある

電力
石油火力発電所に原油を供給。また、電力事業に参入する石油元売りも多い

この業界の指南役

日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門成長戦略グループ コンサルタント
堀内くるみ氏

horiuchi_sama

ケンブリッジ大学大学院化学工学科修士課程修了。企業のビジョン作り、経営戦略・事業戦略策定支援、マーケティング戦略策定支援などのコンサルティングを中心に活動。

取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー

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