セキュリティ編・2017年【業界トレンド】

警備需要の高まりから底堅い成長が見込める業界。中でも、高齢者向けサービスが有望だ

警備業は「警備業法」によって、オフィスや商業施設、住宅などの警備を行う「1号業務」、イベント会場や道路工事現場で車や人の誘導や交通整理を行う「2号業務」、現金や貴重品が運搬される際に車両などを警備する「3号業務」、著名人や企業経営者、高齢者などを守る「4号業務」の4種類に分けられている。このうち、需要が最も大きい1号業務は、警備員を配置して出入管理や巡回などを行う「常駐警備」と、テレビモニターや各種のセンサーを使って遠隔監視し、必要に応じて警備員を派遣する「機械警備」とにさらに細分化することが可能だ。

一般社団法人全国警備業協会が実施した調査によれば、2007年における警備業者の売上総額は3兆5634億円に達した。リーマン・ショックによって市場は一時低迷したが、その後は景気の回復とともに持ち直し、2016年には3兆4237億円まで戻している(下記データ参照)。現在の日本では、企業や一般家庭での防犯意識が徐々に高まっており、今後の警備業界は底堅い成長が望めそうだ。

警察庁生活安全局生活安全企画課の「平成28年における警備業の概況」によると、2016年末の警備業者数は9434業者。2008年(8924業者)以降、8年連続で業者数は増えている。また、9434業者のうち警備員数100人未満の警備業者は89.2パーセント(8419業者)で、中小企業がほとんどを占める。これらの企業は、常駐警備など労働集約的業務(人の労働に頼る部分が多い仕事のこと)を主としており、利益率は低い傾向だ。一方、一部の大企業は積極的な設備投資を行い、利益率の高い機械警備業務や警備輸送業務を手がけている。

警備業界で大手企業として挙げられるのがセコム(2016年度売上高9281億円)と綜合警備保障(コーポレートブランドは「ALSOK」。2016年度売上高4133億円)の「2強」。両社は、業界3位のセントラル警備保障(2016年度売上高493億円)以下を大きく引き離している。セコムは機械警備に注力し、豊富な資金力を生かして高度な機械システムに積極投資している。その結果、効率性と付加価値性を伸ばすことに成功し、高い営業利益率を維持。また、医療や損害保険といった分野に進出するなどして多角化を図っている。一方、綜合警備保障は警備業を中心に事業を展開していたが、2016年4月に介護サービスを手がけるウイズネット社を買収するなどして介護事業を強化。こちらも事業領域の拡大を目指しているところだ。

国内で進む高齢化は、業界にとって大きなビジネスチャンスだ。例えばセコムは、リストバンド型のウェアラブル端末を使って高齢者の健康管理・救急対応を行うサービスをスタート(下記ニュース参照)。また合警備保障は、高齢者の徘徊や体調不良などを感知するサービスの提供を開始している(下記ニュース参照)。こうしたサービスには他業界からの参入も多いが、警備会社各社は「IT×セキュリティ」という切り口で独自性を出し、競合に打ち勝とうとしている。

なお、国内市場の占めるウェイトが高いのが、この業界の特徴の一つ。国内最大手のセコムは海外進出を加速しようとしているが、それでも2016年度の国内売上比率が95.1パーセントにも上り、海外での売上高は5%にも満たない。

新たな技術を活用する動きにも注目をしておきたい。大手企業は、「カメラを搭載したドローン(小型の無人飛行機)を使って警備対象施設などを遠い場所からモニタリングする」「SNSの書き込みや、各地の防犯カメラ・センサーから集められた情報などのビッグデータを分析して警備に役立てる」「監視・映像録画機能を備えた警備ロボットを導入する」などの取り組みを進めているところだ。このように、最新技術を取り入れた業界のサービス変革は、ぜひチェックしておこう。

警備業者の売上総額の推移

2007年
3兆5634億円

2009年
3兆1137億円

2011年
3兆2675億円

2013年
3兆2661億円

2015年
3兆3546億円

2016年
3兆4236億円

このニュースだけは要チェック<高齢者向けのサービス開発が活発>

・セコムが、リストバンド型のウェアラブル端末を使って高齢者の睡眠や歩行状態をチェックしたり、転倒時などに自動的に救急通報したりする「セコム・マイドクターウォッチ」の販売を開始。高齢化社会で高いニーズが見込めるサービスとして注目されている。(2017年7月5日)

・綜合警備保障が、位置情報を発信する「みまもりタグ」と、スマホや据え置き型の感知器を組み合わせ、高齢者などの徘徊を感知したり、高齢者の生活リズムに異常があった場合に通知したりするサービスを、一般向けに販売開始した。(2017年5月15日)

この業界とも深いつながりが<ロボットの活用がさらに加速するか>

工作機械・産業用ロボット
ロボットを活用した新たな警備手法の開発に向け、協力を進める

介護サービス
高齢化社会への対応は重要課題。警備会社が介護事業に乗り出すケースもある

IT(情報システム)
人工知能やビッグデータなどに関する技術を警備に役立てる取り組みが活発

この業界の指南役

日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門未来デザイン・ラボ コンサルタント
橘田尚明氏

橘田尚明

東京大学大学院技術経営戦略学専攻修士課程修了。新規事業テーマ構築支援、未来洞察のコンサルティングを中心に活動。米国公認会計士。

取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー

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