地方銀行編・2017年【業界トレンド】

地方経済の伸び悩みは各行の不安材料。経営力強化に向けた経営統合が活発化している

地方銀行(地銀)とは、特定の地域を中心に営業活動を行う銀行のこと。一般社団法人地方銀行協会に加盟する64行と、一般社団法人第二地方銀行協会に加盟している41行「第二地銀」と呼ばれることもある)からなる。横浜銀行、千葉銀行、静岡銀行、福岡銀行などはそれぞれ総資産(貸出金や保有有価証券、その他資産の合計)が10兆円前後に達しており、地域経済の中で大きな役割を果たしている。

地方銀行協会加盟64行の2016年度決算における当期純利益は、前年度より15.4パーセント減の7954億円。また、第二地方銀行協会加盟41行の2016年決算における当期純利益は、前年度より11.6パーセント減の1700億円。どちらも、大幅な減益となった。このところ、地方では少子高齢化が進み、都市への人口流出も止まらない。そのため、人口が減って経済が低迷し、資金需要は伸び悩んでいる。さらに、2016年から始まった日本銀行(日銀)のマイナス金利(下記キーワード参照)政策によって貸出金の「利ざや」(下記キーワード参照)が小さくなったり、国債など有価証券の利息収入が減ったりしたことが追い打ちをかけた格好だ。

地銀は、事業を展開している地域が限られている。またメガバンクに比べると、貸出金から得られる利ざやや、有価証券から得られる利息収入への依存度が高い。そのため、地域の経済が停滞して企業・個人への貸し出しが減ったり、金利が下がって有価証券からの利息収入が減ったりすると、業績に大きな影響が出てしまうのだ。今後も、多くの地方では人口減が進むと見込まれており、金利も大幅な上昇は見込みづらい状況であるため、地銀にとっては厳しい経営環境が続きそうだ。

こうした中、各行はコスト削減による経営効率化などを目指し、経営統合や提携の動きを積極的に進めている。2017年には、2月に三重県で総資産2位の三重銀行と、同3位の第三銀行が経営統合することで基本合意したと発表。三重県首位の百五銀行に対抗するため、競争力を高めることが狙いとみられる。また3月には、近畿大阪銀行、関西アーバン銀行、みなと銀行が経営統合することで基本合意したと発表した。3行の総資産を合算すると11兆円を超え、関西最大規模、かつ、全国有数の地銀グループが誕生することになる。

県内トップ級の地銀が経営統合を目指すケースもある。2016年には長崎県1位の十八銀行と、同2位である親和銀行との経営統合が発表された。ただし、県内1位と2位の合併劇は、統合後のシェアが高くなりすぎるという懸念があり、公正取引委員会の了解が得られていない。さらに2017年4月には、新潟県1位の第四銀行と、同2位の北越銀行が経営統合する方針だと発表した(下記ニュース記事参照)。こちらも公正取引委員会の承認が得られない恐れがあり、今後の成り行きを注視しておこう。ただし、地銀が生き残りを図るため、他行との経営統合・連携を目指す動きはさらに加速するとみられる。

「地域密着型金融(リレーションシップバンキング)」への取り組みもチェックしておこう。これは、地元企業の課題解決を支援することで、資金需要を生み出すことや金利競争を回避することを狙っている。これまで、多くの地銀が東京などの大都市で営業活動を行ってきた。ところが、大都市では競争が激しく、十分な利益を獲得できなかったケースも多い。一方、金融庁の調査では、地域密着型の営業を行っている銀行ほど、利ざやの落ち込みが緩やかだという傾向が表れている。そのため地銀には、地方自治体や地元企業と幅広く協力しながら地元産業育成などの取り組みに注力することが求められるだろう。また、地銀で働く人にとっては、地域経済に貢献できる楽しさ・やりがいを感じる機会が増えていきそうだ。

地銀志望者が知っておきたいキーワード

マイナス金利
一般的には、銀行などが日銀にお金を預けると金利が受け取れる。ところがマイナス金利が導入されると、普段とは逆に、銀行が日銀にお金を預けた分だけ金利を支払わなくてはならなくなる。そのため銀行は、日銀に預けていたお金を企業などへと回そうとする傾向が強くなり、景気の活性化に役立つと期待されている。一方、銀行などの立場から見れば、企業や個人に貸し出す際の利回りが低下して利ざやが得にくくなる危険性がある。

利ざや
預金者が受け取る「預金金利」と、企業などに貸し付ける際の「貸出金利」の差。日銀のマイナス金利導入によって市中金利(金融市場における標準的な金利のこと)は低下傾向となっており、その影響で貸出金利も下がっている。一方、預金金利はマイナスにはできないため、利ざやが小さくなって金融機関は打撃を受けている。

フィデューシャリー・デューティー
Fiduciary duty。「顧客本位の業務運営」とも言い、金融庁が金融機関に求めている業務運営姿勢のこと。地銀などの金融機関は近年、利ざやの落ち込みを補おうと投資信託などの金融商品を積極的に販売し、手数料収入増加に努めてきた。しかし、一部で顧客へリスクなどを十分に説明しないまま、手数料率の高い金融商品ばかりを売る姿勢が問題視され、フィデューシャリー・デューティーが求められるようになった。

銀行カードローンの規制強化
地銀のような金融機関はこのところ、貸出利息の高い「個人向けカードローン」の営業に注力。しかし、多重債務者や自己破産者の増加につながるという懸念が高まっているため、「銀行によるカードローンの自主規制導入」や「金融庁によるカードローントラブルの電話相談窓口開設」といった対策が講じられている。

このニュースだけは要チェック<経営力強化の取り組みには要注目だ>

・金融庁が公表している「平成28事務年度 金融レポート」で、5割強の地銀において、貸出・手数料ビジネスの収益が赤字になったと指摘された。銀行にとって本業といえる貸出・手数料収入の落ち込みは、早急に解消すべき課題だと言えるだろう。(2017年9月15日)

・新潟県を地盤とする第四銀行(新潟市)と北越銀行(長岡市)が統合に向け基本合意したと発表した。2018年4月に共同持ち株会社を設立し、その傘下に2行が入る方式で経営統合を行い、2020年には合併を行う方針だという。(2017年4月5日)

この業界とも深いつながりが<IT企業と連携する機会がさらに増えそう>

IT(情報システム系)
最先端のITを生かした金融サービスの提供など、幅広い局面で協力

地方自治体
市や県、地域の企業や研究機関などと連携し、地域経済の活性化を進める

旅行
旅行会社やホテルなどを支援して、地域の観光を盛り上げる

この業界の指南役

日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 関西コンサルティンググループ コンサルタント
木下直紀氏

木下直紀

東京大学法学部卒業。大学卒業後、大手都市銀行を経て現職。民間企業向けの事業戦略策定、業務プロセス改革、組織風土変革等の調査・コンサルティング業務に従事している。

取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー

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