海外市場に向けた「現地化」の成否と、先端技術を生かした新製品の開発が成長のカギ
生活家電とは、冷蔵庫や洗濯機、エアコンなどのように暮らしの中で使われている家電製品のこと。白い色をした商品が多かったため、「白物(しろもの)家電」と呼ばれることもある。冷蔵庫や洗濯機などの大型生活家電は、パナソニック、三菱電機、東芝、日立製作所、シャープといった「総合電機メーカー」が得意とする分野だ。一方、扇風機や掃除機などの小型家電の分野では、ツインバード、山善やアイリスオーヤマといった中小メーカーが存在感を放っている。またグローバル市場では、ハイアールや美的集団(ともに中国)、ワールプール・コーポレーション(アメリカ)、LGエレクトロニクスやサムスン電子(ともに韓国)、エレクトロラックス(スウェーデン)などが広く知られた存在だ。
2016年、国内の生活家電業界では大きな変化が起きた。6月に、東芝の生活家電部門であった東芝ライフスタイルが美的集団の子会社となり、8月にはシャープが、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の子会社となった。白物家電メーカーの代表格であった国内メーカーが外資系企業の傘下に入ったことは、内外に大きな衝撃を与えた。だが、シャープ・東芝ライフスタイルともに、社名やブランドを維持しつつ事業継続する方針。そのため、テレビCMや家電量販店の売り場などを見る限りでは、今のところ大きな変化は出ていない。
一般社団法人日本電機工業会(JEMA)が発表した「2017年度 電気機器の生産見通し」によると、2015年度における生活家電の国内出荷額は2兆2480億円。2016年度の実績見込みは2兆2948億円だった。一方、2017年度は2兆3037億円の見込み。国内の緩やかな景気回復に支えられ、2017年度もほぼ例年並みを維持できそうだ。ただし、国内市場の先行きには不安が残る。総務省「平成26年全国消費実態調査」によると、国内の冷蔵庫普及率は98.9パーセント、洗濯機は98.8パーセントに達しており、売り上げのほとんどは買い替え需要に支えられている状況だ。また、日本では人口減少が予測されており、今後は大きな成長が期待しづらいからだ。
そこで各社は、中国、東南アジア、インドなどの海外市場の開拓に力を入れている。新興国では、生活家電の普及率が低いところが少なくない。さらに、経済発展に伴って生活水準が向上しているため、生活家電の新規購入需要が期待できるからだ。ただし、国内で生産された高性能・多機能な商品をそのまま輸出しても、新興国で受け入れられる可能性は低い。いわゆる「ローカライズ」(ある国で生まれた製品を、外国でも通用するよう修正すること)を施し、現地で望まれる価格帯や、その生活習慣に根ざした製品を開発することが重要となる。例えばパナソニックは、インド市場での売り上げ拡大を目指し、カレーの汚れを落とす専用ボタン付きの洗濯機を発売している(下記ニュース参照)。
人工知能(AI)、ロボット技術、IoT(下記キーワード参照)といった先端技術の波は、生活家電業界にも押し寄せてきている。例えば、「中身をドアのスクリーン上で管理し、自動的に買い物リストを提案する冷蔵庫」や、「手元にある食材やカロリーなどの条件を入れると、それに合ったレシピを提案する電子レンジ」といった商品が登場中だ。また、ベンチャー企業のセブン・ドリーマーズ・ランドロイドは2017年5月、全自動衣類折りたたみ機「ランドロイド」を発売。AI・ロボット・IoTの技術を組み合わせ、洗濯物の折り畳みを自動化するという新たな市場を切り開いた(下記ニュース参照)。このように先端技術でイノベーションを起こそうとする動きは、今後も加速するだろう。
従来の「生活家電」という枠組みを超える製品を生み出すため、新たな仕組みを導入しようとする企業もある。例えば、パナソニックは2016年5月、社内での新規事業案公募や、社外の企業・研究機関・個人などとの協業などを並行して進める取り組み「Game Changer Catapult(ゲームチェンジャーカタパルト)」をスタート。このプロジェクトでは、開発プロセスまで社外に公開する「オープンイノベーション」(下記キーワード参照)のスタイルを採用しており、従来は「自前主義」(下記キーワード参照)の傾向が強かった国内企業の方針とは一線を画している。社会が大きく変わる中、社内外の知恵・知識を取り込んで新たな価値を提供しようとする試みは、今後も盛んに行われるだろう。
生活家電業界志望者が知っておきたいキーワード
IoT
Internet of Thingsの略称で、「モノのインターネット」と訳される。身の回りのさまざまなモノをインターネットに接続することで、新たな活用方法を模索することを指す。「スマートフォンを使って生活家電を操作する」「献立やレシピなどをインターネットからダウンロードする」といった機能を持つ製品が、続々登場している。
オープンイノベーション
社外から技術やアイデアを取り込むことで、新たな価値を作り出す仕組みのこと。市場の成熟化や顧客ニーズの多様化などが進む中で革新的な製品を素早く生み出すためには、自社内の経営資源だけでは不十分。そこで、他の企業や研究機関などと協業することが今後の企業には強く求められている。
自前主義
自社の技術やスタッフだけを使い、製品やサービスを生み出そうとする考え方。従来の日本企業では、こうした態度を取るところが比較的多かった。しかし、限られた知識・技術や労働力しか使えないため、他社との開発競争に後れを取る危険性が大きいのがデメリットだ。
スマート家電
高度なデジタル技術を活用し、エコ・健康・安心といった新たな付加価値を加えた家電製品を指して言うことがある。インターネットに接続して使われる、スマートフォンやタブレット端末で遠隔操作できる、利用者の好みに応じて細かな設定ができるなどの特徴を持つ。
このニュースだけは要チェック<各社は製品のローカライズに注力>
・パナソニックがインドで、衣類に付着したカレーのシミを落とせる「カレーコース」付きの全自動洗濯機を発売。節水を重視した日本向けの製品ではカレーの汚れが落ちづらいという現地の声に対応し、最適な水流や洗濯時間を研究して投入した。ローカライズの好事例として注目したい。(2017年2月17日)
・ベンチャー企業のセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ社が、全自動衣類折りたたみ機「ランドロイド」の限定予約を開始。画像解析技術を使って洗濯物の種類を見分け、AIとロボット技術を組み合わせて自動折りたたみを実現した。インターネットと接続してAIをアップデートするなど、新機能・新サービスの追加も検討中だという。(2017年5月30日)
この業界とも深いつながりが<スマートフォン関連業界との協業がさらに進むか?>
携帯電話キャリア
携帯電話キャリアと協力し、スマート家電などの開発を行うケースが増加
家電量販店
販売チャネルとして深い関係。ただし、家電量販店側からの値下げ圧力も強い
住宅メーカー
エネルギー消費量の小さい家を実現するため、省エネ家電の開発を進める
この業界の指南役
日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門未来デザイン・ラボ コンサルタント
橘田尚明氏
東京大学大学院技術経営戦略学専攻修士課程修了。新規事業テーマ構築支援、未来洞察のコンサルティングを中心に活動。米国公認会計士。
取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー