電子マネー編・2013年【業界トレンド】

市場はまだまだ拡大中。各社は他社・他サービスとの連携で利用者増を目指す

電子マネーとは、ICチップを搭載したカードやスマートフォン・携帯電話を、読み取り用の端末にかざして決済するサービスのこと。お金を事前に入金(チャージ)して使う「前払い(プリペイド)式」と、一定期間内に購入した代金を後日まとめて支払う「後払い(ポストペイ)式」とがある。前払い式の代表格としては、流通・小売系のnanaco(セブン&アイ・ホールディングス)やWAON(イオン)、交通系のKitaca(JR北海道)、Suica(JR東日本)、ICOCA(JR西日本)、SUGOCA(JR九州)、PASMO(首都圏の私鉄・地下鉄・バス)、専業系の楽天Edy(楽天Edy)などが挙げられる。一方、後払い式にはiD(NTTドコモ)、PiTaPa(関西圏の私鉄・地下鉄・バス)などがある。

電子マネーの利用者は下表でまとめているように、発行枚数、決済件数、決済金額のいずれも順調に拡大中。さらに、電子マネー機能が内蔵されたスマートフォン・携帯電話が急速に広まっていることも、普及に拍車をかけている。人気の端末であるiPhoneには電子マネー機能が搭載されていないが、2013年9月にソニーから、iPhoneやiPadなどと無線接続して電子マネーのチャージや残高確認ができるカードリーダーが発売。今後、iPhoneなどを使って決済ができるようになる可能性もあり、実現すればさらに普及に弾みがつくだろう。

各社は、買い物額に応じてポイントを付与したり、電子マネーを使える店舗数を増やしたりするなどの工夫で、利用者の囲い込みを目指している。例えば、家電量販店のコジマは13年10月、WAONによる決済を導入。現金払いと同率のポイント還元が行われる点が特徴的だ。また、東武鉄道は13年11月から、「特急スペーシア」などの車内販売で交通系電子マネーを利用可能にした。今後も、利用店舗の拡大は精力的に続けられるだろう。また、ほかのサービスと連携して利便性を高める動きも活発だ。各社は、電子マネーとクレジットカード、ポイントカード、学生証といった機能を組み合わせ、電子マネーカードの魅力をさらに高めようとしている。

一方、他企業・他サービスと提携するのではなく、独自サービスの展開を目指すケースもある。例えば、関東・中部地区で総合スーパーの「アピタ」やホームセンターの「ユーホーム」を展開するユニーは、13年11月から独自の電子マネー「Uniko(ユニコ)」を導入。栃木県佐野市の「道の駅どまんなか たぬま」は、やはり13年11月、施設内で利用できる電子マネー「どまんなかカード」を導入した。これらは専用カードを用意することで、ユーザーの囲い込みを図るのが狙いとみられる。

ビッグデータ(データベース上に集められた巨大なデータを指す)の活用は、各社にとって大きな関心事。電子マネー利用者から集めたデータを上手に分析できれば、顧客のニーズに合った商品を店頭で提案したり、商品開発に生かせる可能性もあるからだ。しかし、13年6月、JR東日本がSuicaの利用データを他社に販売していることが明らかになり、個人情報保護の観点から問題があるのではという批判が寄せられた。その結果、JR東日本はデータの販売を当面見合わせることを発表。これにより、個人の同意なしにビッグデータを他社に提供することは難しくなったかもしれない。続報にもぜひ注目しておこう。

押さえておこう <電子マネーは着実に普及している>

2010年
発行枚数……1億4647万枚(対前年比18パーセント増)
決済件数……19億1500万件(対前年比37パーセント増)
決済金額……1兆6363億円(対前年比46パーセント増)
1件あたり決済金額……854円
2011年
発行枚数……1億6975万枚(対前年比16パーセント増)
決済件数……22億3700万件(対前年比17パーセント増)
決済金額……1兆9643億円(対前年比20パーセント増)
1件あたり決済金額……878円
2012年
発行枚数……1億9469万枚(対前年比15パーセント増)
決済件数……27億2000万件(対前年比22パーセント増)
決済金額……2兆4671億円(対前年比26パーセント増)
1件あたり決済金額……907円

※日本銀行「決済システムレポート2012-2013」より。調査対象は、楽天Edy、ICOCA、Kitaca、PASMO、SUGOCA、Suica、nanaco、WAONの8つ。TOICA(JR東海)、iDなど調査対象に含まれていない電子マネーもあるため、実際の市場規模はこれより大きいと推察される。

このニュースだけは要チェック <消費税率引き上げに伴う運賃改定には注目を>

・Suica、PASMO、ICOCAなど、全国10の交通系電子マネーカードが相互利用できるようになった。出張・旅行時に使い慣れた電子マネーカードをそのまま使えるため、ユーザーにとってはより便利に。乗車券はもちろん、加盟店でも利用できるため、一層の利用拡大が期待できそう。(2013年3月23日)

・JR東日本が14年4月の消費税率引き上げに伴い、Suicaでの支払いに限って鉄道運賃を1円刻みにする方針を明らかにした。仮に決定された場合、自動券売機は10円刻みのままで事実上の「二重運賃」となりそうだ。これにより、さらに電子マネーの利用が促進される可能性もある。(2013年10月8日)

この業界とも深いつながりが <鉄道、流通などとの結びつきが強い>

鉄道
鉄道運賃の支払いだけではなく、「駅ナカ」などでの電子マネー利用も増加

コンビニ
電子マネーの利用者が増加。顧客情報をマーケティングに活用するケースも

家電量販店
家電量販店が、流通系の電子マネーを導入する機会が増えている

この業界の指南役

日本総合研究所 副主任研究員 粟田 輝氏

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慶應義塾大学大学院理工学研究科修士課程修了。専門は経営・事業戦略、各種戦略策定・実行支援や事業性評価。幅広い業界・規模の企業を対象としている。最近では、今後さらなる発展が期待されるブラジル市場に注目し活動中。

取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか

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