旅行・ホテル編・2014年【業界トレンド】

旅行者数が増えて業績は上向き。今後はイスラム圏などからの外国人旅行者が焦点に

旅行・ホテル業界は、景気や社会情勢の影響を大きく受けやすい。2000年以降では、アメリカの同時多発テロ(01年)、SARSの流行(02~03年)、世界金融危機(08年)などの影響で市場が冷え込んだ時期もあった。しかし、09年以降は回復基調となっている。

09年に3億130万人泊だった国内宿泊旅行者数は、10年には3億4882万人泊、11年には3億9422万人泊、12年には4億2520万人泊と伸びた。背景には、スカイマーク、ピーチ・アビエーション、ジェットスタージャパンといったLCC(キーワード参照)の広がりによって、新たな旅行需要が喚起されたこと。そして、九州新幹線の開業、伊勢神宮の式年遷宮、テーマパークの開園記念イベントなどの話題が多かったことが挙げられるだろう。また、景気回復期待などが追い風となり、日本人の海外旅行者数も12年に過去最高の1849万人を記録している。一方、東日本大震災・福島原発事故の影響で、11年には622万人にまで落ち込んでいた訪日外国人旅行者数だが、12年には837万人にまで回復。13年はさらに増えており、過去最高水準である1000万人台を達成しそうな見通しだ。

旅行者数が増えているのに合わせて、旅行会社の業績も改善している。社団法人日本旅行業協会によれば、主要旅行業者58社の12年度総取扱額は6兆3457億円で、対前年度比で5.1パーセント増だった。なお、分野別に見ると、国内旅行は4.5パーセント増、海外旅行は5.3パーセント増、外国人旅行は44.8パーセント増。ここでも、震災直後に落ち込んでいた外国人向け旅行市場が、急ピッチで回復・拡大している様子が見て取れる。また、観光庁の「宿泊旅行統計調査」によると、12年におけるシティホテルの客室稼働率は72.5パーセント。これは、11年(67.1パーセント)より5.4ポイントも高かった。ここ数年、厳しい状況が続いていた旅行・ホテル業界だが、ようやく明るさが見えてきたと言えよう。

ただし、不安要素もある。ホテル業界では、例えば京都などで外資系ホテルの進出予定が相次いで打ち出されるなど、競争環境が一層激しくなっている。また、円安が進むことで海外旅行者数に影響が出る心配もあるし、14年4月の消費税増税も懸念材料だ。そして何より深刻なのが、13年10月以降に相次いで発覚した「食品偽装問題」。大手ホテルのレストランなどで提供されていた食材に、偽装表示や誤表示があったことがわかり、大きな問題になっている。今後、影響がどこまで拡大するか不透明な状況。個別企業、あるいは業界全体が、信頼回復のためにどのような対策を打ち出すのかチェックしておきたい。

外国人旅行者の取り込みは、ますます重要な課題となっている。その中で注目すべきなのが、「中国→イスラム圏」へのシフトだ。ここ数年、各社は増え続ける中国人観光客に対応するため、中国語を理解できるスタッフを配置するなどの取り組みに務めてきた。ところが、13年に入ると中国人観光客は対前年比で減少。一方、イスラム圏からの観光客は徐々に増えている。イスラム教では、戒律で食べられるもの(ハラル、ハラールと呼ばれる)が定められている。そこでホテルなどでは、食事・食品向けの「ハラル認証」(キーワード参照)取得を目指すところが増加。また、イスラム教の礼拝施設を新設するケースもある。

押さえておこう <旅行・ホテル業界志望者が知っておきたいキーワード>

MICE
「マイス」と呼ぶ。Meeting(会議)、Incentive tour(報奨・招待旅行)、Convention/Conference(学会・国際会議)、Exhibition(展覧会)の頭文字をとった造語。一度に多くの収益が挙がることから、各自治体が誘致に力を入れている。20年の東京五輪開催に伴い、日本国内でのMICE需要拡大が期待される。
LCC
Low Cost Carrierの略で、格安航空会社のこと。運航効率を向上させ、サービスを簡素化することで、低料金での運航を可能にしている。中国のLCCである春秋航空が、14年に日本国内線便の就航を発表するなど、今後日本市場でもさらなる広がりが予想されている。
ハラル認証
摂取が禁じられている豚肉、アルコールなどを使わないなど、食品をイスラム教の戒律に従って製造していることを証明するもの。近年は、ホテルのレストランなどが「ハラル認証」をアピールし、イスラム教圏からの団体客を呼び込もうとする動きが目立つ。
ビジット・ジャパン事業
観光庁が中心となって展開している、訪日旅行推進事業のこと。13年における外国人旅客者数の目標は1000万人で、達成される可能性が極めて高い。中国、韓国、台湾、香港といった東アジアを当面の最重点市場と位置づけ、さまざまな宣伝活動を実施している。

このニュースだけは要チェック <外資系ホテルの日本進出は脅威>

・リゾートホテル事業をグローバルに展開しているアマンリゾーツグループ(シンガポール)が、15年9月、京都に高級旅館を開業すると報道された。京都市内では、「ザ・リッツ・カールトン京都」「フォーシーズンズホテル京都」などの外資系ホテルも進出予定で、競争はさらに激化しそうだ。(2013年11月27日)

・関西国際空港がイスラム観光客向けに、それまで1カ所だった祈祷室を3カ所に増やすと発表。また、空港内の飲食店でハラルに対応したメニューを提供するなどの取り組みも実施する。マレーシアやインドネシアからのイスラム観光客は今後も増加が予測されており、それに対応した形だ。(2013年8月23日)

この業界とも深いつながりが <他業界と協力して旅行の価値を高める>

百貨店
買い物目当てに来日する外国人旅行者を取りこむため、協力する機会が増加

鉄道
鉄道による移動と、ホテルでの宿泊をセットにしたパッケージ商品が人気に

レジャー施設
協力して外国人旅行者の集客に当たる一方、娯楽提供業界という点では競合

この業界の指南役

日本総合研究所 マネージャー 田中靖記氏

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大阪市立大学大学院文学研究科地理学専修修了。専門は、新規事業・マーケティング・海外市場進出戦略策定。鉄道・住宅・エネルギー等、主に社会インフラ関連業界を担当。また、インド・ASEAN市場開拓案件を数多く手がけている。

取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか

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