アジアを中心とする新興国市場が成長のカギ。事業拡大で収益の多角化を目指す動きも
工作機械業界の主な製品には、旋盤、ボール盤、フライス盤、研削盤、マシニングセンタなどがある。これらは「マザーマシン(mother machine。機械を作る機械という意味)」と呼ばれており、さまざまな製造業を縁の下から支える存在だ。国内大手企業としては、ヤマザキマザック、アマダ、DMG森精機、ジェイテクト、東芝機械などが挙げられる。また、工作機械にはさまざまな種類があるため、得意な分野で存在感を発揮する中堅メーカーも数多い。一方、外資系企業としては、シーメンス(ドイツ)など技術力の高い競合がひしめくほか、韓国・台湾・中国企業も低コストを武器に攻勢をかけている。
一般社団法人日本工作機械工業会の「工作機械主要統計」によれば、2008年の工作機械総受注額は1兆3011億円。それまで、日本は27年連続で世界1位の座を守っており、いわば「お家芸」とも呼べる分野だった。ところが、リーマン・ショック後の景気低迷により、09年の総受注額は4118億円に激減。中国、ドイツに次ぐ3位に転落した。その後、新興国の成長などによって市場は回復基調となり、11年には1兆3262億円とリーマン・ショック前の水準に回復。ドイツを抜いて世界2位に上がった。12年は欧州金融危機と中国景気の減速によって1兆2124億円と再び減少したが、13年は円安傾向が追い風となって改善の兆しが見えている。
業績回復のけん引役は外需だ。12年の内需が3758億円だったのに対し、外需は8366億円で、外需比率は7割近くに達している。特に、アジアを中心とした新興国の成長が顕著。各社は生産拠点の海外シフト、海外販売能力の強化などに努めている。一方、為替相場の変動、新興国の景気動向などは懸念材料。業界志望者は、関連ニュースに注目しておこう。
一方、溶接や部品取り付けなどの作業を、人間に代わって行うのが産業用ロボット。主な製品としては、軟化させたプラスチックを金型に押し込んで加工する射出成型機、アーク放電を活用して金属をつなぎあわせるアーク溶接ロボット、塗装ロボットシステムなどがある。FANUC(ファナック)、安川電機、不二越などが代表的なメーカーで、三菱電機、パナソニック、川崎重工業といった電機・重工メーカーも産業用ロボットを手がけている。
一般社団法人日本ロボット工業会によれば、05年~07年における産業用ロボットの総受注額は7000億円台で推移。ところが、リーマン・ショック後の08年には6210億円、翌09年には2705億円と大きく落ち込んだ。その後、新興国の成長に後押しされて業績は回復傾向だが、輸出の伸び悩みもあって12年の総受注額は5082億円にとどまっている。しかし、今後は中国などの新興国において製造人件費の高騰が見込まれており、工場の自動化のために産業用ロボットの導入が進むと期待される。
この業界では、自動車業界の設備投資に依存する部分が大きい。そこで各社は、自動車産業以外に「収益の柱」を作ろうと取り組んでいる。例えば、FANUCは食品・医薬品・精密機器分野、安川電機はバイオメディカル分野、医療・福祉・リハビリ機器分野などに注力しているところ。今後は、こういった事業分野の拡大が、成長のカギを握りそうだ。
押さえておこう <工作機械・産業用ロボット業界志望者が知っておきたいキーワード>
NCとは「Numeric Control」の略。工作機械には非常に高い寸法精度が要求される一方、金属加工などは非常に大きな力を必要とするため、人力ではなく、NC機械を活用することが多い。
数値制御機械のうち、特にコンピュータによって制御されたものをCNC(Computerized Numeric Control)と呼ぶ。
Factory Automationの略。工作機械・産業用ロボットを組み合わせ、生産ラインの自動化を実現すること。従来は人が作業していた生産工程を効率化・省力化することで、コスト削減やミスの減少を実現する。
3DCAD、3DCGデータをもとに3次元のオブジェクトを造形する機器。製品や部品などの試作に使われているほか、幅広い分野での活用が期待されている。先端的なベンチャー企業が市場を占めていることも特徴的である。
このニュースだけは要チェック <海外拠点の設立が活発化>
・ヤマザキマザックがベトナムのホーチミン市で、ショールームやパーツセンターなどを備えたテクニカルセンターを開設した。同社は13年7月にもインドネシアで現地法人を設立。韓国・ブラジルでのテクノロジーセンター拡大も進めており、海外での販売力向上を狙っている。(2013年8月1日)
・安川電機が、中国江蘇省に設立した新工場「安川(中国)機器人有限公司」で産業用ロボットの生産を開始。同社は13年11月、中国のロボットシステムメーカーであるカイエルダーロボット社への出資も行っており、中国市場での販売拡大を目指している。(2013年5月20日)
この業界とも深いつながりが <自動車業界の景況に左右されるケースが多い>
自動車
工作機械業界、産業用ロボット業界ともに最大の顧客となっている
食品
食品工場の生産ラインには、産業用ロボットが多数導入されている
電子部品
電子部品、デジタル機器の製造・組み立てなどに工作機械・産業用ロボットは不可欠
この業界の指南役
日本総合研究所 副主任研究員 千葉岳洋氏
一橋大学社会学部社会問題・政策課程卒業。専門は、国際会計、経営管理・グループ経営改革、グローバルマーケティング、グローバルサプライチェーンマネジメント。製造業を中心として、グローバルを共通テーマに、マーケティング・会計・業務改革などを幅広く手がける。米国公認会計士。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか