事業拡大により収益確保を目指す動きが盛ん。安定した供給体制づくりにも注目が必要
医薬品卸業界は、メディパルホールディングス、アルフレッサホールディングス、スズケン、東邦ホールディングスの4メガ卸が激しくしのぎを削る業界だ。手がけているのは、医療機関で使用されたり、処方箋に基づき供給されている「医療用医薬品」と、市中の薬局やドラッグストアで販売される「一般用医薬品」。このうち、医療用医薬品が販売額の96パーセントを占める。
経済産業省の「商業動態統計調査」によれば、2012年度における医薬品・化粧品卸売業の市場規模は24兆5710億円。前年度(24兆3690億円)に比べ、0.8パーセント増加した。高齢化が進んで医療費がかさみ、さらに新薬が登場したことなどによって医薬品の販売額は伸びている。しかし、12年4月に薬価基準(キーワード参照)が平均6.25パーセント引き下げられたのは、大きな懸念材料。さらに、今後も薬価の引き下げが予測されており、医療用医薬品を主力としている各社は、収益力の維持・強化に課題を抱えている。
販売先の変化も、業界に大きな影響を及ぼしている。社団法人日本医薬品卸売業連合会によれば、1992年度当時、医療用医薬品の中で薬局に供給されていたのは全体の5.2パーセントに過ぎなかった。大半の医療用医薬品は、病院・診療所に供給されていたのだ。しかし、薬局向け販売額の割合は年々拡大。12年度には51.8パーセントと、半分以上を占めるようになっている。背景にあるのは、医療モール(キーワード参照)や小規模なクリニックが増え、これに伴って周辺の調剤薬局も増加したこと。そこで各社は、調剤薬局に医薬品情報を提供する人材を強化する、地域に密着した卸会社のM&Aなどによって調剤薬局とのつながりを強化するなど、戦略の練り直しを図っている。
こうした中、各社は3つの方向に業容を拡大することで収益の確保を目指している。1つ目は、川上(開発・製造)や川下(小売)への拡大。メディパルホールディングスは、開発段階の医薬品に投資し、製品化される際にリターンを得る「プロジェクト・ファイナンス&マーケティング(PFM)」をスタート。川上での投資開発型事業モデルとして注目しておきたい。一方、東邦ホールディングスは、傘下のファーマクラスターを通じて調剤薬局事業に注力。こちらは川下への拡大の代表格と言えよう。2つ目は、サービス領域・取り扱い商材の拡大だ。例えば、スズケン傘下のエスケアメイトは、居宅介護サービス事業を展開している。そして3つ目が海外進出。アルフレッサホールディングスがアジア企業との提携によりヘルスケア関連事業の強化を打ち出すなど、中国・東南アジアを中心に業務提携の動きが活発化している。
医薬品を安定供給できる仕組みを整え、かつ、物流コストを抑えようとする動きも盛んだ。メディパルホールディングスは、顧客が集中する首都圏で、道路事情に合わせて効率よく配送する新物流センターを開設(ニュース記事参照)。また、東日本大震災を契機に、拠点内に自家発電設備を設けるなどする企業も目立つ。地震、風・水害、新型インフルエンザ流行などの非常時に備え、医薬品の物流を途切れさせないための取り組みは、今後も強く求められるだろう。
押さえておこう <医薬品卸業界志望者が知っておきたいキーワード>
診療行為に使える医薬品の範囲と、使った医薬品の医療保険における支払い価格を定めたもの。現在、国では医療費抑制を目指し、今後も薬価を引き下げる方向で検討中だと言われる。
いくつかの病院、診療所、薬局が集まっている施設のこと。複数の診療科が一つの場所にあるため、特に高齢者の患者からすれば利便性が高い。また、認知度や集客力を高めやすいため、診療側にとってもメリットがある。
医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器に関する運用などを定めた法律のこと。医薬品は生命に直接かかわるため、薬事法をはじめとするさまざまな法令・規則によって厳密な規制がしかれている。09年6月の改正により「登録販売者制度」が設けられ、他業種からの医薬品小売業への参入・提携、新業態の開発などが加速している。
ジェネリック医薬品、ゾロ薬とも呼ばれる。成分そのものや、その製造方法を対象とする特許権が消滅した先発医薬品について、特許権者ではなかった医薬品メーカーがその特許の内容を利用して製造した医薬品のこと。研究開発費がかからないため一般の医薬品より安く、医療費抑制を目指す国によって普及が進められている。
Self-medication。患者が、薬局などで副作用のリスクが比較的低い一般用医薬品(大衆薬)を購入し、自分の責任で手当すること。自分自身の判断で、軽い疾病からの回復や健康管理を行って、医療機関を受診する費用を省くことができる。保険医療費を抑制する効果も期待されている。
このニュースだけは要チェック <地域密着型企業と提携を目指す動きに注目を>
・アルフレッサホールディングスが、高知県、徳島県、愛媛県で診断薬卸事業を展開している篠原化学薬品との経営統合を発表。地域医療に密着した企業を傘下に収めることで、地域におけるきめ細かいサービスの拡充を図る。このように、地場医薬品卸会社のM&A、業務提携を図る動きは、今後も十分に起こり得るだろう。(2014年2月4日)
・メディパルホールディングス傘下のメディセオが、新たな物流拠点「東京中央FLC」を竣工。13年9月から稼働を開始した。バイク、電気自動車、軽自動車を組み合わせ、効率的で周辺環境にも配慮した配送の実現を目指している。また、自家発電設備や免震システムも備えており、非常時の対応力も高い。(2013年7月6日)
この業界とも深いつながりが <薬局とのつながりが今後も深まりそう>
薬局
医療用医薬品の販売先として、存在感は大きくなる一方だ
病院・診療所
商品の卸先。医療機関との信頼関係の深さが売り上げに影響する
医薬品メーカー
商品の仕入れ先として深い関係。医薬品メーカーの資本が入った卸もある
この業界の指南役
日本総合研究所 副主任研究員 千葉岳洋氏
一橋大学社会学部社会問題・政策課程卒業。専門は、国際会計、経営管理・グループ経営改革、グローバルマーケティング、グローバルサプライチェーンマネジメント。製造業を中心として、グローバルを共通テーマに、マーケティング・会計・業務改革などを幅広く手がける。米国公認会計士。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか