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Vol.337 専門商社編

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商社を通さない取引が増加。海外進出や事業投資など、新ビジネスモデルの模索が必要

専門商社とは、文字どおり「特定の分野で専門性を持ってビジネスに取り組む商社」のこと。医薬品、鉄鋼、食品、燃料・エネルギー、機械、化学などさまざまな分野で、顧客企業に代わって原料・製品の取引を行っている。これに対し、幅広い分野で複合的にビジネスを展開する商社は「総合商社」と呼ばれる。

 

専門商社は事業分野ごとに、医薬品を手がける「医薬品卸」(メディパルホールディングス、アルフレッサホールディングスなどが代表格)や、鉄鋼を手がける「鉄鋼商社」(メタルワン、JFE商事などが代表格)、食品を手がける「食品卸」(三菱食品、日本アクセスなどが代表格)に分けられる。また、大手メーカーと関係の深い「メーカー系」(例えば、鉄鋼メーカーであるJFEホールディングス傘下のJFE商事)、「総合商社系」(例えば、三菱商事と双日の合弁会社であるメタルワン)、「独立系」(メディパルホールディングス)のように、資本構成で分類されるケースもある。

 

専門商社の売り上げは、各分野でトップクラスの企業であっても、総合商社に比べると数分の1程度の水準にとどまる。しかし、特定の分野に絞ってビジネスを展開しているため、その業界においては高い売り上げシェアを占め、大きな存在感を発揮していることが少なくない。半面、属する業界の好・不況の影響を受けやすいこと、そして、メーカー系の専門商社は資本関係のある企業の業績に左右されやすい点が特徴だ。例えば、鉄鋼商社の2015年度決算は、鉄鋼価格の世界的な下落傾向の影響で悪化したところが多かった。一方、医薬品卸や食品卸などは比較的好調だった。

 

専門商社の基本的な役割は、メーカーと小売り・消費者とを結びつけて取引を成立させることだ。専門的な知識を持った専門商社が、メーカーと小売り・消費者の間に入ることで、メーカーに代わって商品の特徴を説明したり、ニーズを満たす商品を探し出したりして取引を成立させる。多くのメーカーと商品を知り、さらに、多くのニーズを知っていればいるほど、専門商社のビジネスチャンスは拡大するわけだ。しかしインターネット普及以降、メーカーや小売り・消費者側がさまざまな情報を簡単に手に入れられるようになり、取引先の候補を見つけやすくなった。近年では、メーカーと小売りが商社を通さず、直接取引を進めるケースが増加。専門商社には、新たなビジネスモデルの確立が求められている。

 

そこで各社が打ち出している方向性の一つが、海外との取引拡大だ。国内市場は人口減少・少子高齢化などによって大幅な成長が期待しづらいため、海外進出・海外企業との取引強化は、多くの一般企業にとって重要な課題となっている。しかし、海外との取引にはさまざまな手続きへの対応などが必要で、メーカーなどが独自に行うにはハードルが高い。そこで専門商社は、海外取引への対応力を強化することでビジネスチャンスの拡大を図っている。

 

商品の取引だけでなく、企画・開発に関与するケースも少なくない。例えば食品卸の中には、小売店・消費者ニーズを知っているという強みを生かし、食品メーカーの新商品の開発を支援。その商品を、自社のネットワークを使って販売する動きがある。また、オリジナルの商品を扱いたい小売店側の要望に応じ、数多い食品メーカーの中から最適な企業に商品製造を依頼して、ある小売店の専用商品を納入するなどの取り組みを進めている。さらに、他社に投資を行ったり、メーカーと提携して自社製品の開発などに乗り出したりする、いわゆる「事業投資」に乗り出す動きも見られる。出資することで、付加価値の高い商品を自社だけが扱える。あるいは、事業や商品がヒットした際に株式配当や株式売却益などのリターンが期待されるなどがメリットだ。

 

情報通信技術を活用し、事業の効率性を高めたり、新たなサービスを提供しようとしたりする動きもある。例えば、自社が販売する機械・設備などの商品をインターネットに接続し、顧客の利用状況を把握することで、商品が壊れる前に部品の交換などを顧客に提案できるようになれば、今まで以上に部品交換や保守・運用に関して商社のビジネスチャンスが拡大する。

専門商社業界志望者が知っておきたいキーワード

帳合い
「ちょうあい」と読む。もともとは「帳簿合わせ」の意味で、取引について帳簿に記録したり、計算を確かめたりすること。転じて、取引先を指すこともある。
小売店などが商品を仕入れる場合、仕入先が増え過ぎると取引の手続きや与信管理(取引先に関わるリスクを把握し、管理すること)が複雑になる。そこで、メーカーなどから直接仕入れるのではなく、商社経由で仕入れることが少なくない。このように、小売店の仕入れ先をとりまとめる役割を担う商社を「帳合い」、こうした取引形態を「帳合い取引」と呼ぶことがある。
IoT/M2M
IoTはInternet of Thingsの略で、「モノのインターネット」などと訳される。さまざまなモノをインターネットに接続し、通信機能を持たせることで、遠くから監視・操作できるようにする技術を指す。一方、M2MはMachine to Machineの略。機械・機器同士が情報をやり取りすることを意味する。専門商社では、IoTやM2Mなど情報通信技術を活用し、業務効率アップや新ビジネスの開拓などを模索するケースが増えている。
口銭
「こうせん」あるいは「くちせん」「くちぜに」と読む。取引を仲介して得る手数料のことで、専門商社にとって収益の大きな柱。こうした昔ながらの取引仲介ビジネスを「口銭ビジネス」と呼ぶこともある。これに対し、事業投資などは、商社にとって比較的新しいビジネスと言える。すでに総合商社では事業投資のウェイトが高まっているが、専門商社の中にもこちらを有望視するところが多い。

専門商社が自社事業を展開する動きが活発

メディパルホールディングスは、医薬品メーカーの武田薬品、官民出資の投資ファンドである産業革新機構との共同出資で創薬ベンチャーを設立。医薬品卸が創薬分野に進出する動きとして注目されている。また、製薬企業と医薬品商社が連携するという点も特徴的だ。(2017年3月14日)

 

機械などを取り扱う専門商社の岡谷鋼機が、トラック隊列走行ソリューションを提供する米国のPeloton Technology社に30万ドルを出資。物流業界ではドライバー不足が問題となっており、岡谷鋼機はこうした問題を解決するビジネスに乗り出すとみられている。(2017年4月13日)

この業界とも深いつながりが<各業界のメーカー・小売りと緊密な関係>

医薬品メーカー
医薬品卸にとって欠かせない取引先。共同で創薬に乗り出すケースも

IT(情報システム)
情報通信技術を活用した新ビジネスを模索する専門商社が増加

食品
食品メーカーと食品卸が共同で商品の企画・開発を行うこともある

この業界の指南役

日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー
吉田賢哉氏

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東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。

取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー

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