医薬品編・2015年【業界トレンド】

大手外資メーカーの攻勢に対抗するため、各社は新薬開発と海外進出に注力

世界的な医療系情報サービス会社であるIMSヘルスによると、世界の医薬品市場規模は、2012年時点で962.1億ドル。07年(729.3億ドル)に比べ3割以上伸びており、今後も世界的に医薬品へのニーズは高まるとみられる。一方、厚生労働省の「薬事工業生産動態統計調査」によると、13年における国内の医薬品生産金額は、対前年比で1.2パーセント減の6兆9874億円。高齢化が進むにつれて拡大を続けてきた国内市場だったが、12年、13年は連続でマイナス成長となった。

国内生産金額が伸び悩んでいる理由は、いくつか挙げられる。まずは、ファイザー(米)、ノバルティス(スイス)をはじめとするグローバル医薬品メーカー(ビッグファーマ、メガファーマと呼ばれることもある)が、国内外で存在感を増していること。各社は新薬開発にかかる巨額の研究開発費を回収するため、日本を含めた世界中のマーケットで拡販を行っている。これに対し、日本メーカーは経営規模の面で劣勢。日本の医薬品メーカーとしてトップの売上高を誇る武田薬品工業でさえ、世界の売り上げランキングでトップ10に入れない状況だ。その分、予算が限られており、新薬の開発競争や販売網の拡充などで不利な立場に置かれている。

主力製品の特許失効が相次いでいるのも、国内メーカーにとって頭の痛い問題だ。10年以降、武田薬品工業では糖尿病薬「アクトス」、高血圧治療薬「ブロプレス」といった稼ぎ頭の製品が、特許切れとなった。エーザイでも、アルツハイマー型認知症薬「アリセプト」や胃潰瘍などの治療薬「パリエット」の特許が失効。一般に、特許失効後には安価なジェネリック医薬品(後発医薬品)が発売され、特許の切れた医薬品の売り上げを奪うケースが多い。そのため、主力商品が特許切れを起こすと、メーカーの売り上げに深刻な影響を及ぼす。さらに、財政赤字削減を目指して政府が薬価引き下げ・ジェネリック医薬品の利用増などを進めていることも、国内メーカーにとっては逆風だ。

こうした中、各社は新薬開発への取り組みを強化している。ガン、リウマチ、認知症といった画期的な医薬品が望まれている分野への注力は、今後も続くはずだ。また、海外での売り上げ拡大を目指す動きも、いっそう加速するだろう。13年度における武田薬品工業の海外売上比率は56.6パーセント、アステラス製薬は52.7パーセント。このように、海外売り上げが国内を上回る国内医薬品メーカーは珍しくない。今後も、合併や連携によって海外事業の強化を目指す動きには注目しておきたい。また、14年4月、ファイザーがアストラゼネカ(英)に対して10兆円を超える規模での買収を提案したのは大きなニュースだった。アストラゼネカは最終的に提案を拒否したが、このような巨大なM&Aは今後も起こる可能性があるだろう。

国がジェネリック医薬品の利用増を促しているため、ジェネリック医薬品を扱うメーカーにとってはチャンスが広がっている。例えば、大手ジェネリック医薬品メーカーの日医工は、09年11月期に548億円だった売上高を、14年3月期には1036億円に伸ばした。また、やはりジェネリック医薬品を手がける沢井製薬も、09年3月期に443億円だった売上高を、14年3月期には898億円に伸ばしている。こうした流れを受け、従来は新薬開発を主力にしてきた医薬品メーカーが、グループ傘下にジェネリック医薬品を扱う会社を創設するなどの動きも現れている。

医薬品メーカー志望者が知っておきたいキーワード

医療用医薬品
医師の処方箋が必要な医薬品のこと。医薬品市場の9割程度を占める。一方、ドラッグストアや薬局などで処方箋なしで売られる「一般用医薬品(大衆薬、OTC薬)」の比率は1割程度にすぎない。
OTC
Over The Counter(Drug)の略。薬局や薬店で市販されている薬のこと。近年、医療用医薬品の成分を転用した「スイッチOTC」(解熱・鎮痛剤のイブプロフェン錠、ロキソニン錠などが代表格)が増えつつある。
薬価基準
診療行為に使える医薬品の範囲と、使った医薬品の医療保険における支払い価格を定めたもの。2年に1度見直され、2014年には実質ベースでの引き下げが行われた。
ICHレギュレーション
日米欧3極医薬品規制調和国際会議(ICH:The International Conference on Harmonisationの略称)が定めた、医薬品申請の国際的な統一化を目指す規約。医薬品データの国際的な相互受け入れを実現するために作られた。

このニュースだけは要チェック <世界規模の提携・買収は今後も可能性あり>

・米大手医薬品メーカーのファイザーが、やはりアメリカの医薬品メーカーであるホスピーラを買収すると発表。ファイザーは、アストラゼネカを買収する案件が白紙に戻った後も、ドイツの医薬品メーカー・メルクとの提携を打ち出すなど、規模拡大に積極的だ。(2015年2月5日)

・武田薬品工業が、ユーグレナ(ミドリムシ)関連の健康補助食品を手がけるバイオベンチャーのユーグレナ社と、包括的提携契約を結んだと発表。医薬品や健康食品の分野で新たな商品開発を進め、事業の柱として育てていく方針だという。(2014年10月16日)

この業界とも深いつながりが <医薬品開発でCROと協業する機会が増加>

CRO(医薬品開発業務受託機関)
医薬品の開発を加速するため、CROの力を借りるケースが増えそう

医薬品卸
薬局・病院との仲介役を果たす医薬品卸は、欠かせないパートナー

ドラッグストア
一般用医薬品の販売チャネルとして密接な関係がある

この業界の指南役

日本総合研究所 主任研究員 吉田賢哉氏

yoshida_sama

東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。

取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか

(解熱・鎮痛剤のイブプロフェン錠、ロキソニン錠などが代表格)

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