企業の経営者の悩みに応えるビジネス
私たちボストン コンサルティング グループ(以下BCG)が行っている経営コンサルティングというビジネスは、学生の皆さんには、なかなかイメージしづらいかもしれません。私たちはよく「企業のお医者さん」と表現しています。また、少し堅い言い方だと「戦略参謀」と呼ばれることもあります。
企業の経営者は、日々、経営に悩んでいるものです。「国内市場の成長は今後一層鈍化することが見込まれるが、次の成長の柱を何にすべきか」「競合企業が攻めてきているが、どう立ち向かうべきか」「競争に生き残るために、コスト競争力をどう強化すべきか」「日本の中だけでは成長が限定されてしまう。どこの国に進出すればいいか」…。そんな悩みに対して、もちろんクライアントの社内にも優秀な人材がいて日々克服しようと努力されているわけですが、外部の目線から課題解決のサポートをさせていただく。これが経営コンサルティングの仕事です。
BCGは、世界初の戦略コンサルティングファームとして誕生したこともあり、1966年に日本にオフィスができたときは、企業の戦略を作り、提案してプロジェクトは終了、という時代もありました。しかし今は、単に戦略を作るのみならず、多くのプロジェクトで実行に到るまで一貫してサポートしています。現場を理解し、経営者と語り合い、実行可能な戦略や実行体制をオーダーメードで作り、実行を支援する。クライアント企業のオフィスに常駐したり、頻繁にクライアントと打ち合わせをしたり、とクライアントと一体となったチームで、協働して課題解決に取り組みます。こうした姿勢がBCGの大きな特徴であり、「またBCGとやりたい」と言ってもらえるゆえんだと考えています。
もう一つ、BCGの特徴といえば、グローバルネットワークを駆使したサポートを行っているということです。例えばクライアントが日系企業だとしても、その企業は、国内のことだけを考えているわけではありません。海外にどう出て行くか、海外企業とどう戦うか。グローバルな観点は経営には欠かせません。
BCGは世界に81のオフィスがあり、エキスパートが世界中にいます。彼らの力を活用しながら、プロジェクトに付加価値を出していくことができるのも、グローバルコンサルティングファームの強みです。
グローバルでの人材交流も活発に行われています。日系企業向けのプロジェクトにさまざまな国のスタッフが参加することは日常的です。ニューヨークオフィスから、ムンバイオフィスから、そして東京から、と3拠点からチームが組まれたりする。もちろん、海外のプロジェクトに東京オフィスから参加することもあります。
また、短期あるいは中長期で海外のBCGのオフィスで仕事をする仕組みもあります。日本からも毎年、海外に出るスタッフが何人もいますし、海外オフィスからのスタッフ受け入れも行っています。
スキルは実践を通じて身につける
クライアントへのコンサルティングは、基本的にチームで動きます。プロジェクト内容などにもよりますが、おおむね5、6人で構成されます。期間は1カ月のものもあれば、半年、1年というものも。また、終了時点で契約が延長され、かなり長期に及ぶこともあります。
戦略を作るなんて自分にできるのか、と思っている学生さんもいらっしゃるかもしれませんが、実際には、経験年数、年次など関係なく、侃々諤々(かんかんがくがく)と意見を交わし、チームで作っていきます。リーダー一人が考える、というものでもない。現代の企業経営は複雑で本当に難しいもの。多様なメンバーがそれぞれの強みを生かして協働してこそ、クライアントの現状、および、今後抱えるであろう課題に即した独自の戦略を作り出せるのです。
経験の浅いスタッフは、現状がどうなっているかを理解し、仮説を立証するための「ファクト」集めや、その分析を担当するところからキャリアが始まります。クライアントに関連する記事を収集したり、エキスパートへのインタビューをしたり、クライアントからデータを頂いたり。こうした「ファクト」が、戦略策定の大きなヒントになることもあります。
また、クライアントの経営陣や現場の方との徹底的な議論も非常に重要です。それらの議論を通じ、「クライアントが本当に悩んでいることは何なのか?」、「解決すべき本質的な課題は何なのか?」をあぶり出していきます。
クライアントへの深い理解、仮説を立証できるだけの十分な「ファクト」をベースに、チームみんなで意見を戦わせることで、戦略や解決策を作り上げ、クライアント企業を成功に導くのです。こうしたチームワークも、コンサルティングの醍醐味だと思います。
だからこそ、チームに求められるのは、それぞれの多様な発想です。本当にいろいろなバックグラウンドを持った人が集まっているのがBCGという会社。それは、「多様性からの連帯」を大切にし、多様な人材を求めている結果でもあります。例えば、社内には医師や弁護士の資格を持っている人もいます。単一な考え方ではクリエイティブな解決策は打ち出せないですし、複雑な問題に対峙(たいじ)することも難しいのです。
ただし、多様な人材といっても共通に持っていてほしいことがあります。一つは、考えることが好きだということ。考えることが、私たちの仕事だからです。それは、面白いこととか、突飛なことを考えつく人、という意味ではありません。そういった発想力も重要ではありますが、まず求められるのは、いろいろな情報から示唆を導き出していくことです。
もう一つは、人の役に立てることに、喜びを見いだせることです。この仕事は基本的にサービス業。どうやったら、クライアントのためになるか、より喜んでもらえるか、それが自分の楽しみになる人に向いていると思っています。
さらにもう一つ付け加えるなら、いろいろな物事を自分の責任として受け止められること。そういう人は、困難に直面しても、めげずに前に進み、乗り越え、そこから学び取り、成長していくことができます。
コンサルタントに必要なスキルは、実践を通じて身につけていくしかありませんが、初めてのプロジェクトで立ち往生しないよう、インタビューメモの取り方から、ロジカルシンキング、分析方法などのベーシックな知識を学ぶ機会は入社後のトレーニングで用意されています。私が入社したころに比べて、トレーニングプログラムは本当に充実したものになりました。ただ、どんな仕事でも同じですが、トレーニングで学べるものには限界があるので、同僚、先輩、上司、クライアント、プロジェクトを通じて学びを得て、自らを成長させていくことが必要です。
「私がコンサルタントなんて」と言う学生さんにお会いすることがありますが、意外にもそういう人がコンサルタントに向いていたりします。入社時点でのスキルの有無は問われませんので、自分は合わないのでは、と思い込まずに、いろいろな考えを持った人にチャレンジしてみてほしい仕事だと思っています。
学生の皆さんへ
三つを意識しておくといい、とよくお話ししています。一つは、多様な価値観の中に身を置く経験。私は就職してからMBA留学をしましたが、自分の価値観が、世の中に存在する多種多様な価値観の中の一つでしかないことを痛感し、違う価値観の人に自分の考えを伝えることの難しさを実感しました。必ずしも自分の価値観が通用するとは限らない環境を経験したことは、「相手の考えをどう理解し、また、自分の考えをどう伝えればよいのか」ということを真剣に考える機会となりました。今後、グローバルに仕事をしていく上で、大きなプラスになったと考えています。もう一つは、やり遂げた経験。勉強でも部活でも何でもいいのですが、何かに打ち込み、きちんとやり遂げることです。それには必ず苦労と挫折を伴います。ただ、それを乗り越えたら自信がつく。そして、より大きな山がまた目の前に立ちふさがったときに、「よし、またあの時のようにやり遂げよう。自分ならできるはずだ」と腰を据えて次の難題に取り組むことができる。逃げずにやり遂げる経験をぜひ積んでほしいと思います。そして三つ目が、教養を身につけること。私自身、グローバルのエリートとの教養の差に愕然(がくぜん)とした経験があります。アメリカで育っていてもヨーロッパの歴史を深く知っていたり、世界情勢がマクロ・ミクロの視点で語れたり、シェイクスピアの言葉を引用してジョークが言えたりする。これができなければ、カジュアルトークもできないのです。時間のある学生時代に、ぜひ教養取得に取り組んでほしいです。
同社30年の歩み
金融、消費財・流通、ヘルスケア、ハイテクの4つの産業別のプラクティス・エリア(※1)と、組織、M&Aの2つの機能別のプラクティス・エリアを立ち上げる。
※1 産業、経営機能に関する領域ごとの研究グループ
コンサルタント数、世界で約2000名。オフィス数50に。
名古屋に中部関西オフィスを開設。
コンサルタント数、世界で5000名突破。オフィス数75に。
イネーブルメント・イニシアチブ(※2)が始まる。
※2 クライアント自身がさまざまな組織能力を高めるためのサポート
創設50周年を迎える。
プラクティスエリアも産業別ではエネルギー、産業財、パブリック・セクターなど、経営機能別ではオペレーション、構造改革、グローバリゼーション、営業・マーケティングなど広がりを見せている。
取材・文/上阪徹 撮影/鈴木慶子