ロシアの首都モスクワにある日系販売会社の現地法人に勤務。モスクワには、思った以上にさまざまな種類の博物館があるので、休日は博物館や美術館を巡るのが楽しみ。仕事帰りに、コンサートやオペラ鑑賞に行くのも貴重な息抜きとなっている。
総じて女性社員の方が優秀な印象が
はじめまして。しんのすけです。ロシアの首都モスクワにある日系販売会社の現地法人に勤務しています。
職場の上司・同僚・部下たちは、ロシア人7割、日本人3割といった内訳です。社外とのやりとりでは、ロシア人6割、日本人2割、欧米人1割といった感じでしょうか。モスクワのオフィス内では、口頭のやりとりなら基本的にロシア語を使います。ただし、会議などで、一人でもロシア語がわからない人が入ったときは、即座に英語に切り替えます。メールや書類は、英語かロシア語です。日本語を使うのは、日本人だけのときのみです。
ロシアのビジネススタイルで特徴的なのは、組織が縦割りで、業務分担がしっかりしていること。そして、社会主義の名残なのか、労働法の規制が非常に多いですね。例えば、年間120時間を超えての残業は労働法で禁止されているので、基本的に残業はあまりしません。有給休暇も、年間28日取らなければならないことが法で決められていて、しかも、年1回は連続14日間取らなければならないことになっています。消化しきれなかった有給は、会社が買い取ります。育児休暇は、最長で3年間の取得が可能です。
ただし、当社は日系ということもあり、社内文化も日本化されていて、ローカルの社員が自主的に残業する、いわゆる「サービス残業」も多く見受けられます。成果主義なので、良い評価を得るために自分の意思で残業するのです。その対価として昇給が得られる方を選ぶということなのでしょう。
有給休暇は、新年度が始まる毎年1月の前、つまり年末に申請するルールになっていて、ほとんどの社員が申請して消化しますが、中には、わざと有給休暇を取らずに会社に買い取ってもらう社員もいます。月給分を日割りして買い取るので、28日分だと、月給がひと月分まるまるもらえる計算になることもあるのかもしれません。
当社は現地採用社員の約7割が女性のため、彼女たちの育児休暇を管理するのも大変です。代替社員を補充したり、復帰時期を設定しなければならないのですが、ロシアでは、男性よりも女性の方が働き者。女性社員の方が、安心して仕事を任せられるので、その女性に抜けられると、穴埋めには苦労します。例えば、営業スタッフに、ある商品を売って来るように命じたとすると、男性社員は、ひと通りのことはするものの、ダメだとすぐにあきらめて、言い訳ばかりする傾向があります。一方で、女性社員は、相手の懐にスルッと入り込んで、バッチリ売り込んできてくれます。断然、女性社員の方が頼りになるわけです。
また、ロシアはとにかく書面主義。契約書はもちろん、オフィスにデリバリーされる文房具や飲料水の受取書にも、会社の代表がサインしてスタンプを押さなければなりません。おかげで、毎日、大量の書類にサインしたり、スタンプを押したりしています。
明確な指示がないと動かない
こうした環境で仕事を円滑に進めるためには、とにかく「決断は早く」「指示ははっきり」することに尽きます。明確に「やりなさい」と言われない限り、動かないからです。例えば、部下に届いた業務メールでの宛先に、cc(カーボンコピー)で上司である私のアドレスが含まれていたとき。当然、私も承知している案件だと察して、自主的に動くべきだと思うのですが、私が休暇中だったりして特に指示がないと、そのまま何もせずに放置していたりします。
また、こういうときは、しっかりと注意しないといけません。遠慮していると、言葉は悪いのですが「つけあがる」のです。これはまったくの個人的な意見なのですが、「ツァーリ」(皇帝)の指示に従わなければならなかった農奴制の名残で、今でも上司から指示がないと、自発的に何かをしようという意識が起こらないということなのではないかとにらんでいます。
では、よくできたときはたくさん褒めれば良いのかと言うと、褒めすぎてもいけません。基本的に性格が単純で子どもっぽい傾向があり、褒めすぎると、「図に乗る」人が多いからです。例えば、期待して目をかけている部下を、今後のチャンスにつながる出張に出してあげたり、研修に行かせてあげたりした場合、日本では、「期待してもらっているんだ。頑張ろう!」と受け止めてくれることが多いと思います。しかし、ここでは、「私は評価されているんだ。自信を持っていいんだ」と勘違いした挙句に、仕事をしなくなってしまう人が多いようです。これは、仮に彼らを管理職に抜擢(ばってき)した場合も同様で、権限を手にした途端に、部内で一番遅く来て一番早く帰るようになったりするので、管理職のポストはなかなかローカルの社員には渡せないというのが正直なところです。
次回は、ロシアの人々の暮らしぶりについてお話しします。
ロシアを代表するバレエ、オペラ劇場(歌劇場)であるボリショイ劇場。「ボリショイ」とはロシア語で「大きい」を意味するため、直訳すると「大劇場」となり、国内のいくつかの都市でも、一番大きな劇場は「ボリショイ劇場」と呼ばれている。
ロシア語と英語が併記された標識。ロシア語の文字「キリル文字」は、33文字から成り、一般的な英語のアルファベットと同様に大文字と小文字とがある。
自宅近くにある公園でよく見かけるアカゲラ。キツツキの一種なので、よくこの格好で木の幹に止まっている。公園にはリスも多い。
同じく自宅付近の公園の散歩道。休日や、夏の間は平日、仕事から帰ってからも、ここに散歩に来ることが多い。
冬季は凍ってしまうモスクワ川も、夏季はクルーズの遊覧船が往来しており、川岸には釣り糸を垂れる釣り人の姿も。
構成/日笠由紀