インバウンド需要で好況も、競争は激化。各社は中高齢者など新規顧客の開拓を目指す
経済産業省の「生産動態統計」によると、2015年における化粧品の国内出荷額は1兆5070億円。対前年比1.3パーセント増で、4年連続の増加となった。リーマン・ショック後の09年以降、国内出荷額は1兆4000億円前後で推移していたが、7年ぶりに1兆5000億円台を回復。ピークだった1997年の1 兆5189億円に迫っている。また、90年代から右肩下がりだった化粧品出荷単価(化粧品1kg当たりの平均出荷額)も、近年は約3300円前後で安定している。
市場が回復傾向を示した大きな要因の一つが、インバウンド市場(訪日外国人の消費によってもたらされる市場のこと)の拡大だ。観光庁の「訪日外国人の消費動向」によると、2015年における訪日外国人の旅行消費額は3兆4771億円で、前年比71.5パーセントもの大幅増。また、訪日外国人の42.4パーセントが化粧品・香水を購入しており、平均購入額は2万9446円だった。中でも目立っていたのが、中国人旅行者の化粧品購買意欲だ。73.8パーセントの中国人が化粧品・香水を購入し、平均購入額は4万7191円に及んでいる。中国では「日本の化粧品は安全」というイメージが強く、また、中国に戻って化粧品を転売する人が多いことが背景にある。ただし、16年に入ってインバウンド消費にはかげりが見え始めており、いつまでも訪日外国人に頼っているのは危険という認識が高まりつつある。また、国内市場は人口減少の影響を受け、長期的には縮小すると見込まれている。
一方、異業種からの新規参入ラッシュは引き続き活発だ。化粧品業界と近い関係にある医薬品メーカー(ロート製薬など)や化学メーカー(富士フイルムなど)だけでなく、流通やサービス業などからもさまざまな企業が参入。14年には、小売大手のセブン&アイ・ホールディングスが通信販売を主体とする化粧品メーカーファンケルと提携してPB(プライベートブランド)化粧品「ボタニカル フォース」の販売を始め、やはり小売大手のイオンホールディングスもPB化粧品「グラマティカル」の販売を開始した。今後も新規参入企業が現れ、競争が激化する可能性は十分にあるだろう。
こうした中、各社は新たな顧客層の掘り起こしに励んでいる。代表的な取り組みが、50代女性を中心とした中高年齢層向けの商品だ。19年には、全女性人口の半数以上が50歳以上になるち見込まれている。また資生堂の調査によれば、化粧品市場ではすでに50歳以上女性の購入金額構成比が46.7パーセントを占めているとされ、大きな可能性を秘めた分野なのだ。また、男性用化粧品も今後の成長が期待されている。15年の国内出荷額は216.3億円で全体の1.4パーセントに過ぎないが、ここ15年で男性皮膚用化粧品の国内出荷額は8割程度増えており、規模拡大のペースが群を抜いている。15年には、大手化粧品メーカー花王傘下のカネボウが男性スキンケアブランド「リサージ メン」を立ち上げ、話題を呼んだ。
国内市場の伸び悩みが予想されるため、各社は引き続き海外展開にも積極的だ。資生堂は、10年3月時点で36.9パーセントだった海外売上比率を、14年には53.0パーセントまで引き上げた。最近では米ガーウィッチ社を買収するなど(ニュース参照)、M&Aにも積極的だ。コーセーも、ブラジルで現地法人を設立したり、グローバル新ブランド「DECORTE(デコルテ)」を発表(ニュース参照)したりするなど、グローバル化を進めている。
業界を知る上では販売形態の変化も押さえておきたい。かつての化粧品は訪問・店舗販売が主流だったが、現在ではネット販売やカタログ販売が拡大。また、インターネットで口コミ情報を調べながら化粧品を購入する消費行動が広がっている。以前の国内化粧品メーカーはネット販売に消極的だったが、現状に対応してネット販売を手がける方向に舵を切っているところ。今後、実店舗とウェブの双方で消費者にアプローチすることが、売り上げ拡大のポイントになるだろう。
化粧品業界志望者が知っておきたいキーワード
販売形態別の分類:カウンセリング化粧品/セルフ化粧品
化粧品は販売形態によって、カウンセリング化粧品とセルフ化粧品に大別される。カウンセリング化粧品とは、デパートや化粧品専門店のカウンターで美容部員が販売する商品。セルフ化粧品はドラッグストアなどで、自分で選択して購入する商品だ。
商品カテゴリー:スキンケア商品/メイクアップ化粧品/フレグランス商品
スキンケア商品には化粧水や乳液など、メイクアップ化粧品にはファンデーションや口紅など、フレグランス商品には香水などが含まれる。気候や好み、文化などの違いにより、国によりスキンケア化粧品の売れ行きが良いところもあれば、メイクアップ化粧品が好まれるところもある。
流通チャネル:実店舗販売/訪問販売/通信販売
化粧品の販売チャネルは、「1.百貨店やスーパー、ドラッグストア、専門店などでの実店舗販売」「2.化粧品メーカーや販売代理店の担当者による訪問販売」「3.テレビやカタログ、インターネットを通じた通信販売」の3つに大別される。従来の大手化粧品メーカーは1と2を重視していたが、消費者の変化に合わせ、3の通信販売にも力を入れるようになってきた。
このニュースだけは要チェック <海外展開を加速するためM&Aが活発化>
・資生堂が、米化粧品メーカーで「ローラ メルシエ」や「リヴィーブ」といった高級品ブランドを持つガーウィッチ・プロダクツ社を買収すると発表。北米を中心とした高級化粧品市場を開拓することで、グローバル化をさらに進めるのが狙いとみられる。(2016年6月3日)
・コーセーが、グローバル化に向けた新ブランド「DECORTE」の北米での販売を開始。都市部に住む30~40代女性をターゲットに、高価格帯の商品をそろえている。同社は2016年3月、ブラジルに子会社を設立するなど、海外事業の強化を進めている。(2016年2月29日)
この業界とも深いつながりが <eコマースに注力する企業が増加>
eコマース
インターネット販売に注力する化粧品メーカーが増えている
百貨店
高級化粧品の販売チャネルとして重要な役割を果たしている
広告
ブランドイメージの確立・維持のため、広告宣伝が重視される業界
この業界の指南役
日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門未来デザイン・ラボ コンサルタント
市岡敦子氏
東京大学大学院農学生命科学研究科国際開発農学専攻修士課程修了。未来洞察による新規事業構築支援、官公庁・自治体におけるビジョン策定支援などのコンサルティングを中心に活動。
取材・文/白谷輝英 イラスト/千野エー