百貨店編・2016年【業界トレンド】

都市部は「爆買い」で好調だが、地方は停滞。外国人取り込み、品ぞろえ見直しなどが課題に

日本における大手百貨店グループには、三越伊勢丹ホールディングス(三越、伊勢丹を展開)、J.フロント リテイリング(大丸、松坂屋)、髙島屋、エイチ・ツー・オー リテイリング(阪急、阪神)、セブン&アイ・ホールディングス(そごう、西武)、近鉄百貨店、東急百貨店などがある。

日本百貨店協会によると、1991年当時の全国百貨店売上高は9兆7130億円に達した。ところが、バブル崩壊後の景気冷え込みに加え、衣料品・家電・食品の各分野で専門店に顧客を奪われたことなどが影響し、その後の売上高は減少傾向が続いている。2013年、アベノミクスなどの追い風が吹いて売り上げは16年ぶりに増加したが、14年の消費税増税で消費が低迷し、15年の売上高は前年(6兆2125億円)より0.6パーセント減の6兆1743億円となった。ピーク時に比べると、市場規模は3分の2以下に縮小している。

大都市圏の店舗は、比較的好調だ。15年における東京地区の売上高は1兆6311億円で、対前年比3.4パーセント増。大阪地区(対前年比1.6パーセント増)、福岡地区(対前年比0.9パーセント増)も売り上げを伸ばしている。背景にあるのが、訪日外国人旅行者の積極的な消費、いわゆる「爆買い」だ。15年の訪日外国人観光客数は、過去最高の1974万人を記録。東日本大震災などの影響で落ちこんだ11年(622万人)に比べると、3倍以上の水準に達した。中でも、中国、香港、台湾などから訪れた人が高級衣料品や宝飾品・貴金属、化粧品などを大量購入し、都市部百貨店の売り上げ増に貢献している。

これに対し、地方の店舗は苦戦中。東京、大阪、名古屋など主要10都市の合計売上高が対前年比1.2パーセント増だったのに対し、それ以外の地区は対前年比3.0パーセント減と落ちこんでいる。地方では人口減少などが進み、消費は中長期的に低下する見込み。そのため、地方自治体や地元の企業などと連携し、外国人旅行者を呼び込んで消費を取り込むことが課題となりそうだ。

14年10月、外国人向けの免税対象品が、家電や衣料品だけでなく化粧品や食品にも拡大。今後も、訪日外国人向けビジネスの重要性は高まりそうだ。各社は、外国語の案内を増やす、外国語対応可能なスタッフを用意する、免税カウンターを充実させるなどの対策を強化していくだろう。一方、海外進出を目指す動きにも注目しておきたい。髙島屋は16年にベトナム・ホーチミンシティ、17年にタイ・バンコクに新店舗を出店予定。エイチ・ツー・オー リテイリングは18年、中国の寧波市に阪急百貨店を出店するプロジェクトを進行している。アジアを中心とした新興国市場の取り込みは、百貨店業界にとって成長のカギとなり得るだろう。

一方、国内外の消費を掘り起こすために品ぞろえを見直す試みも盛んだ。これまで百貨店は外部から商品を仕入れて販売する方式をとるのが一般的だったが、自社で商品を企画・製造し、在庫のリスクを取って販売するやり方も見られるようになった。例えば三越伊勢丹ホールディングスでは、アパレル分野で自社のオリジナル商品を増やすことに積極的。商品企画・製造に深く関与することで、他社との差別化を図って競争力を増し、利益率を高めようとしている。

「オムニ(omni。「すべての」「あらゆる」という意味の言葉)チャネル化」も重要な課題だ。消費者の購買を促すため、店頭だけでなく、ECサイトやカタログ通販などの販売チャネルを拡大。さらにメールやFacebook、twitter、LINEなどを通じて顧客とやり取りすることで、店舗への信頼感を高めたり、お得情報を配信して来店客増加に結びつけたりする取り組みが進められている。また、小型店舗を出店する動きもある。三越伊勢丹グループでは「エムアイプラザ」のブランド名で、イオンモールやららぽーとなどのショッピングセンター内に食品や雑貨に特化した小型店舗を出店。これも、幅広い販売チャネルを活用・統合することで新規顧客獲得、既存顧客の囲い込みを目指すのが狙いだ。

百貨店の売り上げ構成は変わりつつある

2008年の商品別売り上げ構成比

衣料品……36.8パーセント
食料品……26.1パーセント
雑貨(化粧品、貴金属など)……14.2パーセント
身の回り品……12.7パーセント
家庭用品(家具、家電など)……5.0パーセント

2015年の商品別売り上げ構成比

衣料品……32.7パーセント
食料品……27.6パーセント
雑貨……16.2パーセント
身の回り品……13.1パーセント
家庭用品……4.6パーセント

※以前は収益の柱だった衣料品だが、ユニクロなどの専門店にシェアを奪われて苦戦。一方、雑貨や食料品が売り上げに占める割合は高くなっている。

このニュースだけは要チェック <訪日外国人向けサービスの話題に注目>

・J.フロント リテイリングは、大丸や松坂屋で年間100万円以上の免税買い上げ実績のある外国人客を対象に「大丸松坂屋エクスクルーシブカード」を発行。免税手続きの優先対応、通訳スタッフによる店内アテンドの事前予約サービスなどを提供して、優良外国人顧客のリピーター化を図る狙いだ。(2016年3月2日)

・三越伊勢丹ホールディングスが、「TSUTAYA」の運営などを行うカルチュア・コンビニエンス・クラブが手掛ける「Tポイントサービス」を開始。買物でTポイントが貯まり、また、Tポイントを利用した買物が可能となる。Tポイントユーザーの取り込みや、カード利用者のデータベース化によるマーケティング活用を目指す。(2016年5月6日)

この業界とも深いつながりが <地方店舗では、自治体などと協力する機会も>

地方自治体
地方店舗が訪日外国人旅行者を呼び込むためには、自治体との連携が重要

アパレル
衣料品の分野で競合する半面、百貨店内にテナントとして入居するケースも

鉄道
百貨店を経営する鉄道会社もあり、主要駅には大規模店を出店している

この業界の指南役

日本総合研究所 シニアマネジャー 吉田賢哉氏

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東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。

取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか

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