「2強」が存在感を発揮する業界。シニア向けのサービスと海外展開に注目
警備業は、「常駐警備」「機械警備」「運搬警備」の3つに大別できる。「常駐警備」はオフィスビルなどに警備員を配置し、出入管理や巡回などを行って事故・犯罪を防ぐもの。また、各種イベントの警備や要人の身辺警護などもこの分野に含まれる。これに対し、「機械警備」はテレビモニターや各種のセンサーを使ってオフィスや個人宅を遠隔監視し、必要に応じて警備員を現地に派遣する。そして「運搬警備」は、銀行などのATMや現金輸送車などを警備することだ。
警察庁生活安全局生活安全企画課の「平成24年における警備業の概況」によると、2012年末における警備業者数は9091。うち、警備員数100人未満の警備業者が8085を占めており、多くの小規模事業者が活躍していることがこの業界の特徴の一つだ。一方、大手企業としてはセコム(12年度売上高7656億円)と綜合警備保障(ALSOK。12年度売上高3156億円)が挙げられる。業界3位のセントラル警備保障(12年度売上高408億円)以下に比べ、「2強」は突出した売上規模を誇っている。
警備員を派遣することで対価を得る常駐警備は、労働集約型産業(資本や機械ではなく、人間の労働力に対する依存度が高い産業のこと)の側面が大きい。そのため、利益率は低く、他社との価格競争に陥りがちだ。一方、機械警備は機器やインフラの整備に多額の資金がかかるという特徴がある。また、下表で示しているように、警備業界全体の企業数は増加傾向。ところが、機械警備業者は右肩下がりに減っている。このことから、常駐警備の分野では規模の小さな企業が乱立して競争が激化していること、そして、豊富な資金力が必要な機械警備の分野では合従連衡が進んでいることが見て取れる。今後、小規模な企業が大企業に対抗するために連携したり、大企業が中小企業を買収したりして経営拡大を目指す可能性は小さくない。M&Aなどのニュースは、ぜひチェックしておこう。
現在注目されているのは、シニア層を対象にした取り組みだ。高齢者世帯の増加に対応し、救急・介護・健康相談などをサポートする新サービスが続々と登場している。例えばセントラル警備保障は、12年11月から「見守りはぴねす」を提供。緊急ボタンによる通報や、センサーに一定期間以上反応がない場合などの異常を検知すると、パトロール員が駆けつけて対処するほか、保健師や看護師などへの健康相談も可能な仕組みだ。また、セコムは介護事業大手のニチイ学館、ツクイと協業し、13年4月から「セコム・マイドクタープラス」を開始。こちらは、携帯電話や専用端末による通報を受け、適切な救急・介護サービスを提供。さらに、必要に応じて介護サービスを利用することもできる。他業界の企業と提携した新サービスも含め、今後に注目が必要だ。
国内市場が頭打ちになっているため、海外展開の動きも活発化している。特に、セコムと綜合警備保障の大手2社は、盛んにグローバル化を進めている。また、防災・医療・保険など警備業の周辺事業にも積極的。例えば、セコムは14年3月、豊田通商などと提携してインドで総合病院を開設した(ニュース記事参照)。2強は多角化により、「暮らし全般を支える企業」を目指していると言えるだろう。
押さえておこう <全体の企業数は増えているが、機械警備業者は減少傾向>
09年……8998業者(対前年比0.8パーセント増)
10年……9010業者(対前年比0.1パーセント増)
11年……9058業者(対前年比0.5パーセント増)
12年……9091業者(対前年比0.4パーセント増)
09年……754業者(対前年比2.5パーセント減)
10年……750業者(対前年比0.5パーセント減)
11年……741業者(対前年比1.2パーセント減)
12年……714業者(対前年比3.6パーセント減)
09年……54万554人(対前年比5.5パーセント増)
10年……53万6068人(対前年比0.8パーセント減)
11年……53万1111人(対前年比0.9パーセント減)
12年……53万6935人(対前年比1.1パーセント増)
09年……3兆1137億円(対前年比6.8パーセント減)
10年……3兆1304億円(対前年比0.5パーセント増)
11年……3兆2675億円(対前年比4.4パーセント増)
12年……3兆1987億円(対前年比2.1パーセント減)
※警察庁、および一般社団法人全国警備業協会のデータより
このニュースだけは要チェック <警備業以外に乗り出す動きも目立つ>
・セコム傘下のセコム医療システムが、インド・バンガロールにて総合病院を開院。総合商社の豊田通商、インドの財閥であるキルロスカ・グループと共同で運営する。セコムは日本国内でも病院・クリニックと提携しており、そのノウハウを海外でも役立てる方針だ。(2014年3月1日)
・綜合警備保障が、インターネットセキュリティ事業を手がけるセキュアブレインと提携し、「ホームページ改ざん検知サービス」の販売を開始。顧客企業のサイトを定期的にチェックし、改ざんがあった場合に迅速な検知・対応を行う。警備業以外の「守る仕事」に乗り出す試みとして注目したい。(2014年1月31日)
この業界とも深いつながりが <技術者派遣、製造派遣などで各業界を支える>
工作機械・産業用ロボット
警備ロボットや各種センサーを使って異常を検知する取り組みはさらに増えそう
携帯電話キャリア
シニア向けの「見守りサービス」に携帯端末を活用するケースもある
コンビニ
コンビニの店舗数が増えたことでATMの現金輸送業務が伸び、業績を後押し
この業界の指南役
日本総合研究所 主任研究員 吉田賢哉氏
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか