テレビ分野が大苦戦。事業見直しと「情報家電」への取り組みで活路を見いだす
「デジタル家電」とは、ハイテクなデジタル技術が使われている家庭用電化製品のこと。薄型テレビ、DVD・BD(ブルーレイ・ディスク)・ハードディスクレコーダー、デジタルカメラ、携帯オーディオプレイヤーなどが該当する。
デジタルカメラの分野は、比較的堅調。一般社団法人カメラ映像機器工業会によれば、2013年の国内向け出荷額は1642億円で、12年(1641億円)とほぼ同水準を維持した。とりわけ高級な一眼レフカメラが好調で、出荷額は前年より27.7パーセント伸びている。ただし、コンパクトカメラの分野では、スマートフォンの普及で需要が頭打ちの状況。世界的な競争も激しくなっており、先行きに注意が必要だ。
一方、薄型テレビ分野は難しい状況だ。国内では、一定以上の省エネ性能を持つ地デジ対応テレビなどにポイントを付与する「エコポイント制度」が、10年末に終了。さらに、11年7月に地上デジタル放送への切り替えが行われ、薄型テレビの買い替え需要は一段落した。下表に示したように、13年における液晶テレビの国内出荷台数は538万台で、10年の2割ほどに縮小している。各社は、立体的な映像が楽しめる3Dテレビ、Webサイトの閲覧などができるインターネット対応テレビ、画素数が従来型フルハイビジョンの4倍ある4Kテレビといった新商品を投入しているが、国内市場が回復する兆しはまだ見られていない。また、テレビの不振に引きずられる形で、BDレコーダー、ビデオカメラも売れ行きを落としている。
グローバル市場でも、薄型テレビは苦境に陥っている。新興国でのテレビ需要は伸びているが、サムスン電子、LGエレクトロニクスといった韓国勢との価格競争に巻き込まれ、利益を出すのは難しい。こうした中、各社はテレビ事業の縮小・再編を進行中だ。13年10月、パナソニックはプラズマテレビ事業からの撤退を発表。14年2月、ソニーは意思決定のスピードアップなどを目指し、液晶テレビ事業を分社化すると発表した。今後も、業界再編や業務提携に関する動きに注目が必要だろう。
市場が縮小する中で打開策として期待されているのが、「情報家電(スマート家電)」に関する取り組みだ。これは、ネットワークに接続することで、より便利に利用できる家電のこと。スマートフォンなどを使って外出先からテレビ番組を録画する、インターネット経由でダウンロードしたレシピを使って電子レンジで料理する、電気代などの情報を「見える化」するなど利用法が想定されている。こうした操作はテレビ画面を使うケースも多いため、情報家電が普及すれば、その中心である「スマートテレビ」の需要も高まると期待されているのだ。ただし、ネットワークに接続されることで、外部からの悪意のある攻撃を受ける危険性もある。個人情報の流出などを防ぐため、各社にはセキュリティ面での技術開発が求められている。
身体に装着して使う「ウェアラブル機器」も、有望な商品の一つ。ラスベガスで開催された家電業界最大級の展示会「2014 International CES」では、多くの新製品やコンセプト製品が出展された。写真撮影・Web検索機能などを持つメガネ型端末の「Google Glass」、カロリー計・歩数計機能を備えた腕時計型端末の「Fitbit Flex」などが有名だ。リサーチ・コンサルティング企業のMM総研が13年に実施した調査によると、日本におけるウェアラブル端末の知名度は27.9パーセントで、米国(83.4パーセント)とは大きな開きがある。日系企業各社も力を入れており、今後は日本国内でも注目が集まるだろう。
押さえておこう <薄型テレビなどの国内需要は低迷している>
薄型テレビ……2519万台(対前年比+84.9パーセント)
BDレコーダー/プレイヤー……524万台(対前年比+73.4パーセント)
デジタルビデオカメラ……175万台(対前年比+19.6パーセント)
薄型テレビ……1983万台(対前年比-21.3パーセント)
BDレコーダー/プレイヤー……679万台(対前年比+29.6パーセント)
デジタルビデオカメラ……172万台(対前年比-1.7パーセント)
薄型テレビ……645万台(対前年度比-67.5パーセント)
BDレコーダー/プレイヤー……327万台(対前年比-51.9パーセント)
デジタルビデオカメラ……186万台(対前年比+7.9パーセント)
薄型テレビ……538万台(対前年比-16.7パーセント)
BDレコーダー/プレイヤー……304万台(対前年比-6.9パーセント)
デジタルビデオカメラ……148万台(対前年比-20.6パーセント)
※社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)「民生用電子機器国内出荷統計」より、薄型テレビ、BDレコーダー/プレイヤー、デジタルビデオカメラの国内出荷実績を抜粋。エコポイント制度と地デジ切り替えで空前の活況となった10年に比べ、市場は大きく縮小している。
このニュースだけは要チェック <デジタル家電の「新たな売り方」に注目しよう>
・パナソニックなど12社が共同開発中のスマートシティ「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン」が、戸建て住宅の販売を開始。このプロジェクトでは、パナソニックが「街作り」の段階からかかわることで、自社家電製品の導入可能性を高めている。「売り方」に関する新たな試みとして注目したい事例。(2014年2月15日)
・次世代テレビの有力候補とも呼ばれていた「有機ELディスプレー」を共同開発しているソニーとパナソニックが、この事業から撤退する方針を固めたと報道された。製造コストが下がらず、大型テレビとして普及が見込めないことが背景にあるとされている。(2014年5月25日)
この業界とも深いつながりが <次世代テレビ普及のためテレビ局と協力>
テレビ
4Kテレビや3Dテレビの普及には、テレビ局による対応コンテンツの提供が不可欠
携帯電話メーカー
スマホと家電の連携が進む一方、スマホがテレビやデジカメの競合になっている
家電量販店
薄型テレビの売れ行きが家電量販店の業績に直結。販売面で協力することも
この業界の指南役
日本総合研究所 マネージャー 田中靖記氏
大阪市立大学大学院文学研究科地理学専修修了。専門は、新規事業、マーケティング、海外市場進出戦略策定。鉄道・住宅・エネルギーなど、社会インフラ関連業界を担当。環インド洋諸国におけるコンサルティング・調査案件を中心に手がける。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか