「テレビ離れ」に備え、夏休みイベントの開催などで放送外収入を伸ばし収益多角化を目指す
テレビ局にとって最大の収益源は、テレビCMの放送枠を販売して得られる広告収入だ。電通がまとめた『2013年(平成25年)日本の広告費』によれば、13年の「テレビ広告費」は1兆7913億円。11年こそ東日本大震災の影響で微減だったが、景気が上向きになった12年(対前年比3.0%増)、13年(対前年比0.9%増)と、2年連続で市場規模が拡大している。BS・CS放送の「衛星メディア関連広告費」も、対前年比9.6%増の1110億円と着実に拡大中だ。なお、13年の総広告費(テレビや新聞などのマスコミ媒体、インターネット広告、屋外広告や交通広告などを含む)は5兆9762億円。このうち3割をテレビ広告費が占めており、広告業界におけるテレビ広告の存在感は大きい。
だが、懸念材料は少なくない。2013年の平均テレビ視聴時間は10年前と比較して5%あまり減っている。特に、若い世代で「テレビ離れ」が顕著だ。背景には、スマートフォンの利用時間増などがあると考えられる(下表参照)。こうした流れが続けば、テレビ広告の価値が下がり、テレビ局の収益に影響を及ぼす恐れもあるだろう。
こうした中、各テレビ局が進めているのが「放送外収入の拡大」だ。まず目を引くのが、映画製作に関与する動き。例えば、フジテレビの『ガリレオ』、TBSの『SPEC』、テレビ朝日の『相棒』といった人気ドラマシリーズが映画化され、13年の興行収入ランキング入りを果たした。さらに、『そして父になる』(フジテレビなどが製作)のように、ドラマ発ではない映画を手がけてヒット作につなげるケースも現れている。こうした映画コンテンツは、DVD・BDや関連グッズの物販収入、BS・CSなどでの再放送料などの副次的収入も期待できる点がメリットだ。
夏休みなどにテレビ局周辺の施設を利用して自社イベントを開催することも、近年のトレンド。日本テレビの「汐博」、TBSの「夏サカス」、フジテレビの「お台場新大陸」などが代表格だ。番組の公開収録、各種のショーやアトラクションなどを通じてイベントの魅力を高めるだけでなく、会場の様子を放送することで集客につなげ、入場料や物販収入を伸ばそうとしている。
通信販売事業も、テレビ局にとって重要な「放送外収入」だ。通販番組は、テレビ局の主要コンテンツとして定着。さらに、カタログショッピングやネットショッピングと連携させ、買い物客の利便性を高める工夫も進んでいる。こうした中、通販事業をさらに強化しようとするテレビ局も増加。例えばフジテレビは、09年に買収した通販会社セシールと、同じく傘下にあった通販会社ディノスを13年7月に統合して事業強化を図っている。
インターネットへの対応も、引き続き進められている。各局は、自社の番組コンテンツをオンデマンド配信するサービスを充実。また、14年4月、日本テレビがアメリカの定額動画配信サービス「Hulu(フールー)」の日本事業を譲り受けたのも、オンデマンド配信事業への試みとして注目したい事例。さらに、テレビ番組と連動したスマートフォン向けコンテンツの制作・販売なども、今後注力が進むと見込まれている分野だ。
押さえておこう <若い世代ほどテレビ視聴時間が短い>
テレビ視聴時間……168.3分
ネット利用時間……77.9分
テレビ視聴時間……102.5分
ネット利用時間……99.1分
テレビ視聴時間……127.2分
ネット利用時間……136.7分
テレビ視聴時間……157.6分
ネット利用時間……87.8分
テレビ視聴時間……143.4分
ネット利用時間……70.0分
テレビ視聴時間……176.7分
ネット利用時間……61.8分
テレビ視聴時間……257.0分
ネット利用時間……36.7分
※総務省情報通信政策研究所「平成25年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」より。若年層ほどテレビの視聴時間が短く、ネットの利用時間が長い傾向にある。このままの状況が進めば、テレビ視聴者数は減ってしまう危険性が高い。
このニュースだけは要チェック <優良コンテンツの囲い込みが進むか?>
・日本テレビ、テレビ朝日、TBS、テレビ東京、フジテレビの民放キー局5社が電通とともに展開しているオンデマンドサービス「もっとTV(テレビ)」 で、定額制の「月額見放題パック」がスタート。放送局の壁を越え、定額でコンテンツを楽しめるサービスとして注目を集めている。(2014年1月7日)
・日本テレビが、『科学忍者隊ガッチャマン』『ハクション大魔王』などのコンテンツを持つタツノコプロの株式をタカラトミーから取得し、子会社化した。優良なコンテンツやキャラクターを囲い込むことで、テレビ放送に活用するほか、DVD販売やキャラクターグッズ販売などの事業展開に役立てるものと見込まれる。(2014年1月29日)
この業界とも深いつながりが <映画会社と協力する機会が増加>
映画
映画会社や広告会社などと「製作委員会」を作って映画を生み出すケースが多い
広告
テレビCMの枠は、大手広告会社を通じて顧客企業に販売されることがほとんど
携帯電話キャリア
スマホ向けのコンテンツを携帯電話キャリアに提供するなど、協業が進んでいる
この業界の指南役
日本総合研究所 主任研究員 吉田賢哉氏
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか