市場は順調に拡大中。「ポイントサービス」と連携して利便性を高める取り組みが進む
電子マネーとは、ICチップを搭載したカードやスマートフォンなどを使って支払いができる「電子のお金」を指す。セブン&アイ・ホールディングスのnanaco、イオンのWAONといった流通系、JR東日本のSuica、JR西日本のICOCA、首都圏の私鉄・地下鉄・バスで使えるPASMOといった交通系、専業系の楽天Edyなどが代表格だ。
電子マネーは、小銭をやりとりすることなく会計ができるため、消費者にはとても便利。また、支払額に応じてポイント還元を受けられるのもうれしい点だ。一方、企業側にもメリットが多い。現金に比べ、レジを操作する店舗スタッフの負担は小さい。また、ポイントサービスを提供することで、ポイントを貯めたい、使いたいと思う顧客を囲い込むことも可能。さらに、各消費者の決済履歴を分析することで、マーケティングに生かすことができるのだ。例えばJR東日本では、電子マネー・Suicaの利用データを活用し、商品がより売れるように自動販売機の設置場所を改善したり、商品ラインナップを工夫したりするなどの取り組みに役立てている。
消費者と企業の双方にメリットがあるため、電子マネーの普及は順調に進んでいる。例えば、交通系電子マネー(JR北海道のKitaca、PASMO、Suica、中京圏の私鉄・地下鉄・バスで使われるmanaca、JR東海のTOICA、ICOCA、福岡市地下鉄で使われるはやかけん、九州北部の私鉄・バスで使われるnimoca、JR九州のSUGOCA)の11年7月における月間利用件数は7336万件。これが、翌12年7月には8703万件、13年7月には1億435万件、14年7月には1億1841万件、15年7月には1億3480万件と着実に増加中だ。また、11年2月末に約1850万枚だったWAONの累計発行枚数も、12年2月に2410万枚、13年2月に3100万枚、14年2月に3900万枚、15年2月に4820万枚と、やはり右肩上がりとなっている。
このところ注目されているのが、電子マネーとほかのポイントサービスとの連携を強化する動きだ。例えば楽天Edyは、電子マネーの楽天Edyと、インターネットショッピングモールの楽天市場を利用するとたまる「楽天スーパーポイント」を相互交換できるようにした。また、楽天Edyで決済すると、楽天スーパーポイントがたまる仕組みも提供している。
こうした中、電子マネーとポイントサービスの境界は曖昧になっている。従来のポイントサービスは、商品を購入した店舗でのみ利用可能なポイントが発行される仕組みだった。しかし最近では、さまざまな店舗で横断的に利用できるポイントサービスが増えてきている。例えば、カルチュア・コンビニエンス・クラブが展開しているポイントサービス「Tポイント」は、レンタルビデオやコンビニなどを利用することでためたポイントを、他企業の店舗で使うことが可能。つまり、ポイントが一種の電子マネーとして機能しているのだ。
今後、電子マネーとポイントサービスの結びつきはさらに強まることが予想される。電子マネーとポイントを相互交換できるグループがいくつか形成され、互いに消費者を囲い込もうとするかもしれない。こうした提携の動きには、ぜひ注目しておきたい。
電子マネー業界志望者が知っておきたいキーワード
プリペイド式とは、お金を事前に前払い(=prepaid)しておく電子マネーのこと。nanaco、WAON、Suica、PASMO、楽天Edyなどが該当する。一方、ポストペイ式とは一定期間内に購入した代金を、後日まとめて後払い(=postpay)する形式の電子マネー。こちらは一種のクレジット決済と考えることもできる。iD(NTTドコモ)、PiTaPa(関西圏の私鉄・地下鉄・バス)などが当てはまる。
ソニーが開発した非接触型ICカードの技術方式。多くの電子マネーが、この技術を使っている。
FeliCaのICチップを内蔵したスマートフォン、携帯電話のこと。買い物の支払いや交通機関への乗車、各種会員証といった機能を果たす。NTTドコモの登録商標だが、KDDIやソフトバンクモバイルなどもこの名称を使っている。
SuicaやPASMOなどの公共交通機関が発行するICカードは、全国規模で相互利用が進められている。これらのカードを総称して「交通系ICカード」、そこで使われる電子マネーを「交通系電子マネー」と呼ぶことがある。
「膨大なデータ」のこと。多数の電子マネー利用履歴を分析することで、顧客ニーズに合った商品の開発などに役立てられる可能性がある。ただし、個人情報保護の観点から、データの利用には慎重さも求められている。
このニュースだけは要チェック <ポイントサービスとの連携が進行中>
・楽天が、楽天EdyのAndroid版アプリに、グループ内の共通ポイントサービス「Rポイントカード」を利用できる機能を追加。アプリに表示されるバーコードを店頭で提示すれば、楽天スーパーポイントを貯めたり使ったりできる。電子マネーとポイントを連携させる取り組みのひとつとして注目されている。(2015年7月27日)
・セブン&アイ・ホールディングス傘下のセブン・カードサービスが中国銀行(岡山市)と提携し、オリジナルnanacoカードを発行。クレジットカード払いで獲得したポイントを、nanacoポイントに交換できる。地域に特化したポイントサービスを展開することで、地域経済の活性化につながるのではと期待されている。(2015年3月31日)
この業界とも深いつながりが <IT企業と協業する機会が増えるかも?>
IT(情報システム系)
電子マネーの利用拡大には、IT企業と協力して安全性を高めることが不可欠
コンビニ
消費者の利用履歴を分析し、お弁当や飲料などの商品開発に生かすケースが増加
空運(旅客)
マイレージサービスでためた「マイル」を電子マネーと交換する仕組みが拡大
この業界の指南役
日本総合研究所 主任研究員 吉田賢哉氏
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか