汎用品やクラウドを活用したコスト抑制が不可欠に。「ビッグデータ」への取り組みも急務
経済産業省の特定サービス産業動態統計調査によると、「情報サービス業」の市場規模は1990年代中ごろから右肩上がりで成長。2008年には11.2兆円規模に達するなど、堅調に推移していた。リーマン・ショック後の09年から市場規模は大きく落ち込み、東日本大震災の影響も加わった11年にはさらに9.9兆円にまで縮小。しかし、12年にはプラスに転じ、13年も対前年比1.9パーセント増の10.3兆円規模にまで戻してきた。景気回復を背景に企業のIT投資意欲は活発化しており、今後も、みずほ銀行の次期システム導入(推定で4000億円以上が投じられると報道)に象徴される大型案件が予定されている。
システム開発は、顧客からの要望くみ取り(要件定義)といった「上流工程」から、システム設計などの「中流工程」、そしてプログラミング・テストなどの「下流工程」まで、複数の段階が存在する。また、大きな案件になるほど、元請けから2次請け・3次請けへと仕事が委託される階層構造だ。一般に、上流を担当する元請けの方が下請けに比べて収益性が高いため、近年ではコンサルティング業務などに注力する企業が増えている。一方、システムの運用・保守といった下流は安定した収益を確保しやすいため、こちらを重視する企業もある。その結果、以前は業務の中心を占めていたシステム開発受託から、上流、下流へのシフトが進んでいる。
以前の日本企業では、開発費をかけても、自社の業務にあったシステムをゼロから作り込みたいと希望するところが多かった。しかし、不景気を経験してシステム開発費を抑制する動きが強まったこと、大手企業でのシステム導入が一巡し、予算的に余裕のない中堅・中小企業向けの案件が増えていることなどから、現在はコストを抑えた開発が求められている。そこで、汎用的な製品を上手に活用したり、プログラミングなどの下流工程を海外企業に委託する「オフショア開発」を取り入れることが重要になりそうだ。
ネットワーク経由で接続されたサーバー上のソフトウェアやデータを利用する「クラウドコンピューティング」は、完全に定着。クラウドは、社内にハードを設置する必要がないため、管理の手間や導入コストが小さくて済むのが長所。今後も、さらに普及が進むだろう。そのため、システム構築に際してクラウドをどのように活用するかという提案は、すでに当たり前のものとなっている。
また、業界を賑わせているキーワードが「ビッグデータ」だ。各企業が蓄積している顧客情報、ICタグなどのセンサー情報、携帯電話のGPS情報、ネット上に保存された写真・映像・文章といった「大規模なデータ」を分析し、ビジネスに活用する動きが活発化している。NECが12年2月に「ビッグデータ戦略プロジェクト」を、野村総合研究所が12年7月に「NRIビッグデータ・ラボ」を、NTTデータが13年7月に「ビッグデータビジネス推進室」を設立するなど、国内の情報システム会社が次々と専門部署を開設。また、他業界との協業も見られる。富士通は電通と、日立は博報堂と共同で、ビッグデータをマーケティングに活用するための事業を開始した。こうした分野は、プログラミングはもちろん、統計、経営、マーケティングなどの知識を兼ね備えた人材が必要。このようなスキルを持つ「データサイエンティスト」は日本ではかなり不足しているため、各社は育成を急いでいる。
国内市場が飽和する中、海外展開に活路を見いだす動きも見られる。基本的には、海外に展開する日本メーカー・流通企業などのシステム受注を目指す企業が多い。しかし、NTTデータは海外企業の積極的買収を行っており、真の意味でのグローバル企業を目指している。また、事業再編によって経営力を伸ばそうとする企業もある。NECは13年11月、ソフト子会社を再編(ニュース記事参照)。富士通や日立などでも事業の再編を行っており、各社は得意分野に経営資源を集中する傾向を強めている。
押さえておこう <IT業界志望者が知っておきたいキーワード>
国民一人ひとりに番号を割り振り、年金や保険料などを一元管理する仕組みのこと。13年5月に関連法案が成立し、16年から利用が開始される予定。官公庁、地方自治体、一般企業などでシステムの改修が必要となり、IT業界にも大きな「特需」が期待されている。
広く公開され、誰でも利用できるデータのこと。中でも、行政機関が保有する地理空間情報、防災・減災情報、調達情報、統計情報などの公共データを、利用しやすい形で公開することを指すケースが多い。政府は、オープンデータを民間企業が活用することで行政の効率化や経済の活性化を目指す方針を打ち出している。
「Bring Your Own Device」の略。従業員が個人的に持っているスマートフォン、タブレット端末などを職場に持ち込み、仕事に使うことを指す。欧米ではかなり広まっており、日本でも対応したソリューションを提供するIT系企業が増加。ただし、無計画な導入はセキュリティ面で問題があるとも指摘されている。
機密情報への不正アクセス、コンピュータウイルスの大量発信などをいち早く発見し、迅速に対応できる取り組みを指す。サイバー攻撃はますます巧妙になっており、一方で企業が情報漏えいなどを起こした際のリスクも大きくなっているため、セキュリティ対策の重要性はますます高まっている。
このニュースだけは要チェック <社会インフラを手がける案件が目立つ>
・富士通が、インドネシア・ジャカルタ州防災局に納入した防災システムの運用を開始したと発表。各地の防災情報を、ポータルサイトでリアルタイムに一元管理できる仕組み。防災情報を手作業で集計・管理していた従来に比べ、いち早く効果的な対策が取れるようになると期待されている。(2014年2月5日)
・NECが、ソフトウェア子会社7社の再編を発表。新会社は14年4月に発足予定で、従業員数約1万2000人と国内有数の規模となる。分散していた人材、技術、ノウハウを統合、再編成することで、社会インフラ向け大規模プロジェクトへの対応力を強化するのが目的と見られる。(2013年11月28日)
この業界とも深いつながりが <官公庁、地方自治体と協力する機会が増えるかも?>
官公庁
政府が国家戦略として、オープンデータの利用を積極的に推進
地方自治体
マイナンバー制度の導入で、地方自治体など行政機関関連の案件が増えそう
サーバーメーカー
クラウド環境を整えるため、自社データセンターに多数のサーバーを設置する
この業界の指南役
日本総合研究所 副主任研究員 山浦康史氏
慶應義塾大学大学院工学系研究科修士課程修了。通信・メディア・テクノロジー分野を中心としたさまざまな業界における経営戦略・計画策定、事業性評価、新規事業展開支援、R&D戦略策定支援などのコンサルティングに従事している。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか