IT化によって稼働率向上を目指す動きが活発。自動運転、ハイブリッドなどの技術にも注目
建設機械とは、油圧ショベル、ブルドーザー、道路舗装機械、クレーンなどのこと。建物や道路を造ったり、鉱山の開発をしたりする際に利用される。国内メーカーとしては、コマツ、日立建機、コベルコ建機などが代表格。外資系企業としては、キャタピラー(米国)、三一重工(中国)などが挙げられる。
建設機械業界ではグローバル化が進み、各社にとって海外市場の重要性が大きい。一般社団法人日本建設機械工業会によると、2014年度における日本企業の建設機械の出荷金額は2兆4396億円。うち、国内出荷額は9939億円で、全体の40.7パーセント。一方、海外輸出額は1兆4456億円で、全体の59.3パーセントを占めた。とりわけ、世界でも有数のシェアを獲得しているコマツは、売上額の8割以上を海外で得ている。
12年度における日本企業の建設機械出荷金額は、前年度比8.5パーセント減(2兆1495億円)だった。ところが、13年度には8.6パーセント増(2兆3352億円)と回復。14年度も前年度比4.5パーセント増(2兆4396億円)となり、2年連続で市場は拡大中だ。ただし、直近の市場見通しは明るくない。例えばコマツは、15年度の売上額を前年度比5.0パーセント減の1兆8800億円、営業利益を前年度比8.7パーセント減の2210億円と見込んでいる。背景にあるのは、新興国における経済成長の鈍化だ。不景気になると、建設投資や鉱山などの開発が抑制されるため、建設機械の需要も落ち込みやすい。特に、ここ数年の建設機械需要をけん引してきた中国市場に景気後退の懸念があるため、各社は将来を慎重に見ている。
このところ重要なテーマになっているのが、ITを活用した「故障予知」だ。以前は、建設機械を故障するまで利用し、補修費やパーツ代をできるだけ安く抑えようと考えるユーザーが多かった。しかし最近では、建設機械の故障によって建造物の工期が延びたり、鉱山の採掘が中断したりする方が採算性悪化につながるという考え方が広まりつつある。こうした動きに対応し、各社はセンサーを内蔵した建設機械を開発。使われている場所はどの程度過酷か、累積稼働時間はどの程度かといったデータをネットワーク経由で集め、分析することで、故障が発生する前にパーツの交換をユーザーに提案できる仕組みを構築している。代表格が、コマツの「KOMTRAX」。今後も各社は、故障を未然に防ぎ、建設機械を連続稼働させる仕組みづくりを進めていきそうだ。
建設機械の高性能化により、他社との差別化を図る取り組みも活発だ。日立建機は15年7月、オーストラリアに自動運転ダンプの大型試験場を開設した。危険な現場での輸送を無人化することで、安全性を高めたり、人件費を削減したりすることが期待されている。また、環境・省エネも重要なキーワード。例えば、建設機械の動力源であるエンジンの余剰エネルギーや、旋回などの運動エネルギーを電気に変換して蓄え、その電気を動力源として併用する「ハイブリッド」の建機が登場している。世界的に環境問題への意識が高まっていることから、今後もこの分野での研究開発が進められるだろう。
建設機械業界志望者が知っておきたいキーワード
Internet of Thingsの略で、「モノのインターネット」と訳される。建設機械(モノ)をインターネットに接続することで、稼働状況を把握。遠隔地から故障予知を行ったり、機械を制御したりできるようになる。
油圧ショベルのアームの先端などに取り付ける付属品のこと。作業現場の状況に応じてアタッチメントを交換することで、地面を掘る、土砂をすくい上げる、物をつかむなどさまざまな用途に使うことができる。
アタッチメントや走行用ベルトといった交換部品の販売は、各社にとって収益の柱。不景気で新製品が売れづらい時期でも、交換部品へのニーズは比較的安定しているため、この分野に力を入れる企業も多い。
このニュースだけは要チェック <グローバル化はさらに進んでいく>
・コベルコ建機が、米国サウスカロライナ州スパータンバーグ郡で、油圧ショベルの工場建設を開始。16年1月から量産を開始する予定。同社としては、日本、中国、タイ、インドに次ぐ5カ国目の生産拠点。現地生産により、北米でのシェア拡大を目指している。(2015年5月8日)
・コマツがミャンマーのマンダレーで、建設・鉱山機械の部品再生や、発電機の製造・販売を手がける子会社を設立した。部品の再生販売は、交換部品を低価格で提供できるだけでなく、資源の節約や廃棄物の削減にもつながるため、今後の拡大が期待されている。(2015年8月4日)
この業界とも深いつながりが <建設機械をIT化するため、電子部品メーカーと協力>
IT電子部品メーカー
遠隔地から監視するため、センサーなどを組み込んだ建設機械が増加
石油
石油やガス、鉱物資源などの開発には、建設機械が欠かせない
リース
自社で購入せず、リース会社経由で建設機械を調達する企業は少なくない
この業界の指南役
日本総合研究所 主任研究員 吉田賢哉氏
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか