景気回復により人材需要が増加。グローバル化を目指し、海外企業の買収などが活発に
人材サービス業界は、企業に人材を派遣する「人材派遣サービス」、人材を求める企業と転職・再就職を希望する人を引き合わせる「人材紹介サービス」、企業からまとまった仕事を請け負う「業務請負・アウトソーシング」の3つに大別できる。また、求人サイトの運営を手がける企業も、この業界の一角と言えるだろう。
人材サービスを総合的に手がける企業としては、リクルートホールディングス、テンプホールディングス、パソナグループが3強。また、IT・電子機器・化学業界などでの「技術者派遣」を中心に手がけるメイテック、工場の生産ラインなどの「製造派遣」に強いワールドホールディングスなど、専門分野で強みを発揮する企業もある。一方、アデコ(スイス)、マンパワー(米国)、ランスタッド(オランダ)などの外資系企業も日本に進出しており、シェア拡大を目指している。
厚生労働省の「平成25年度 労働者派遣事業報告書の集計結果」によると、2013年度の派遣労働者数は251.5万人。前年度(245.1万人)より2.6パーセント増え、リーマン・ショックが起きた08年以降続いていた減少傾向にようやく歯止めがかかった。いわゆる「アベノミクス」によって景気が回復傾向となり、企業の人材需要が伸びていることが背景にある。また、15年9月に「改正労働者派遣法」(下記キーワード参照)が施行されたことも大きい。この法律によって企業側が派遣社員を活用しやすくなり、人材サービス会社にとって追い風となっている。なお、この業界は景気や法規制の動きに大きな影響を受けやすい。そのため、関連ニュースにはぜひ注意を払っておこう。
海外でビジネスを展開する日本企業が増えているため、人材サービス企業でもグローバル化の動きを強めている。リクルートホールディングスは15年1月、オーストラリアの人材派遣会社チャンドラー・マクロード社とピープルバンク社の買収を発表、続く4月には、米国の人材派遣会社アテロ社の買収を発表するなど、世界市場における存在感を高めているところ。また、テンプホールディングス、パソナグループなども海外展開を加速しており(下記ニュース参照)、海外への取り組みには引き続き注目が必要だ。
「平成25年度 労働者派遣事業報告書の集計結果」によれば、人材派遣サービスを手がけている国内企業は7万5000社程度。この業界は、中小企業が多いのが特徴だ。しかし、テンプホールディングスが13年4月にインテリジェンスホールディングスを買収したように、他社との統合・再編を進めることで経営力強化を目指すケースも増えるだろう。
特定の業界に絞ったサービスを提供する取り組みも活発だ。このところ目立つのが、「農業」を手がける動き。例えばパソナグループは、農業を担う人材の確保・育成を目指した人材サービス「パソナ農援隊」を提供。また、リクルートホールディングス傘下のリクルートジョブズも、新規就農希望者向けイベント「新・農業人フェア」を開催している。そして、50代後半から60代くらいまでの「シニア人材」を中小企業などに紹介するサービスも、今後の拡大が見込めそうな分野と見られている。
人材サービス業界志望者が知っておきたいキーワード
正式名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律」。2015年9月30日に施行された。従来は、企業が一つの仕事を派遣社員に任せる場合、最長で3年という期限が設けられていた。ところが改正後は、人が入れ替われば同じ仕事をずっと派遣社員に任せられることが可能になり、企業としては派遣社員を活用しやすくなった。
労働者派遣法で定められた、専門性の高い業務を指す。ソフトウェア開発、秘書、アナウンサーなどが該当し、以前はこれら26業務だけは、3年を超えても派遣社員に任せ続けることができた。しかし、労働者派遣法の改正後は26業務以外の仕事でも、「任せる人が入れ替わる」「労働組合の意見を聞く」などの条件を満たせば、3年の期限が撤廃された。一方、26業種については、同一人物を一つの職場に長期間派遣することが不可能となり、これを懸念する声もある。
改正労働者派遣法により、派遣会社には、派遣社員がキャリア形成を目指す際の支援が義務づけられるようになった。派遣社員にとってはスキルアップをしやすい環境が整うと期待できる半面、派遣会社にとってはコスト増につながる恐れもある。
「有効求人倍率」とは、公共職業安定所(ハローワーク)で扱った求人数を求職者数で割ったもの。例えば、求人数が120件で求職者数が100人の場合、有効求人倍率は1.2倍となる。景気が良くなるほど求人数が増え、求人倍率は高くなるのが普通。リーマン・ショック後から低迷を続けていたが、14年11月、6年ぶりに有効求人倍率は1倍の大台を回復した。
このニュースだけは要チェック <大手各社は海外展開を加速>
・パソナグループのパソナテックベトナムが、ベトナムで労働者派遣ライセンスを取得し、人材派遣サービスを開始すると発表。ベトナムに進出している日系企業に対し、営業職やエンジニアなどを派遣する。これまで手がけてきた人材紹介や採用コンサルティングと組み合わせ、より総合的な人材サービスを展開していく予定。(2015年9月11日)
・テンプホールディングスが、シンガポールの人材サービス会社であるキャピタ社の株式を取得し、子会社化すると発表。テンプホールディングスは15年7月にもベトナム大手人材サービス会社の株式取得を発表しており、東南アジアでのビジネスを強化している。(2015年8月25日)
この業界とも深いつながりが<さまざまな業界に人材を送り込んでいる>
自動車
景気回復により国内の自動車生産台数は堅調。人材需要も引き続き旺盛だ
IT(情報システム系)
ソフトウェア開発エンジニアなどの「技術者派遣」はニーズが順調に拡大中
ポータルサイト・SNS
求人サイト市場が急拡大。求職者を取り込むため、SNSなどと協力する機会も増えそう
この業界の指南役
日本総合研究所 シニアマネジャー 吉田賢哉氏
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか